映画でたどる台湾の家族史
台北駐日経済文化代表処 台湾文化センターが主催する「台湾映画上映会2025」の第4回上映会が、7月5日、東京大学駒場キャンパスで開催された。この日の上映作品は、台湾映画界を代表する名匠ワン・トン(王童)監督の自伝的映画『赤い柿 デジタル・リマスター版』(1995年制作)。上映後には、映画評論家の村山匡一郎氏と、キュレーターを務める映画監督リム・カーワイ氏によるトークイベントも行われ、作品の背景やワン・トン監督の映画哲学について深掘りがなされた。
映画評論家・村山匡一郎氏がワン・トン監督の魅力を語る
『赤い柿』は、1949年に大陸から台湾へ移住した家族の姿を、祖母を中心とした視点から描いた作品。祖母と孫の関係を通して、台湾社会の歴史の波に翻弄される家族の日常が、詩情豊かに綴られている。

村山氏は冒頭、「30年ぶりに『赤い柿』を観たが、戦後台湾の歴史と個人の生が丁寧に描かれており、その魅力はまったく色褪せていない」と絶賛。ワン・トン監督が台湾ニューシネマの旗手たち──ホウ・シャオシェンやエドワード・ヤン──より年上で、撮影所の美術スタッフとしてキャリアをスタートしたことから、「台湾ニューシネマの“兄貴分”的存在」と表現し、その作風の違いを解説した。
特に『赤い柿』では、政治的・歴史的背景をあえて明示せず、祖母と孫たちの暮らしを小さなエピソードで積み上げていく「エッセイ的」な描き方が特徴である点が強調された。「社会背景を濃く描くことで家族の物語を圧迫してしまう。だからこそ背景は“ぼかす”。この視点は小津安二郎の作品に通じる」と語り、リム監督も「過剰な演出が一切なく、淡々と描かれる日常こそが最高傑作」と同意した。
また、タイトルとなっている「赤い柿」には、中国語で「柿(シー)」と「世(シー)」が同音であることにちなみ、「五世代の繁栄」を象徴する意味が込められているのではないかという考察も披露された。
会場からは、タイ映画『おばあちゃんと僕の約束』との比較についても質問が飛び、村山氏は「家族というテーマは普遍的で、若い世代の映画人も個人史を通して社会を描こうとする傾向がある」と述べた。リム氏も、「『赤い柿』は1対1の関係ではなく、11人の孫たちが登場し、家族を通して時代を描いている」とそのスケールの違いに触れた。
最後に村山氏は、「台湾は多民族・多言語社会であり、その多元性が映画にも反映されている。それが台湾映画の大きな魅力だ」と述べ、拍手の中でトークを締めくくった。
編集:佐野華美 (関連記事: 張鈞凱コラム:「終末予言」は外れたが…台湾で避難バッグが爆売れ、背景に“現実的な恐怖”とは | 関連記事をもっと読む )
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