小豆島で台湾の味と温もりを届ける──日台夫婦が営む台湾料理店「agon」、その歩みと思い

小豆島の台湾料理店「agon」を営む台湾出身の蘇陳詩瀚さんと日本人の妻・清家真弓さん。離島で暮らし店を続ける思いを《風傳媒》に語った。(写真/台湾料理店「agon」提供)
小豆島の台湾料理店「agon」を営む台湾出身の蘇陳詩瀚さんと日本人の妻・清家真弓さん。離島で暮らし店を続ける思いを《風傳媒》に語った。(写真/台湾料理店「agon」提供)
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香川県小豆島・土庄町。観光地として名高いこの離島に、ひっそりと台湾料理店「agon」がある。店主の蘇陳詩瀚さんと日本人の妻・清家真弓さんが切り盛りする店だ。なぜ東京や大阪といった大都市ではなく島を選んだのか。異国の地で飲食店を続ける喜びと苦労について、2人は《風傳媒》の取材に語ってくれた。

台湾出身の蘇陳詩瀚さんと日本人の妻・清家真弓さんは、小豆島の台湾料理店「agon」を営み、《風伝媒》の取材に離島で暮らし店を続ける思いを語った。台湾料理店「agon」
小豆島の台湾料理店「agon」を営む台湾出身の蘇陳詩瀚さんと日本人の妻・清家真弓さん。離島で暮らし店を続ける思いを《風傳媒》に語った。(写真/台湾料理店「agon」提供)

香川県小豆島・土庄町――観光地として知られるこの離島に、ひっそりと台湾料理店「agon」がある。店主は台湾出身の男性で、日本人の妻と二人三脚で切り盛りしている。なぜ東京や大阪といった大都市ではなく、あえて小さな島での暮らしを選んだのか。異国の地で飲食店を続ける難しさと喜びとは――本誌はその素顔に迫った。

子どものために選んだ「島暮らし」

「小豆島を選んだのは、子どものためでした」。台湾で生まれた長男がまだ2歳にも満たなかった頃、夫婦は日本への移住を決断。コロナ禍の最中で実家の助けも得にくく、育児と仕事の両立は限界に近かった。そんな時、かつて小豆島国際ホテルで働いた経験のある妻が「この島の子どもたちは健康的で礼儀正しい」と感じていたことから、移住を提案したという。

言葉も仕事もゼロからの挑戦

「日本語はほとんど話せませんでした。今でも得意ではありません」。店主は苦笑いする。離島では英語も通じにくく、就職口も限られる。ならば自分で店を開こう――そう決めた。飲食の職歴はなかったが、台湾人として“本物の台湾料理”を出したい思いから、独学で滷肉飯(ルーローハン)や蘿蔔糕(大根餅)づくりを始めた。

店名「agon」に込めた「阿公」の味

「agon」は台湾語で“阿公(おじいちゃん)”の意。義理の祖父への敬意が店名に宿る。祖父は台北・南港で酒楼を営み、腕は家族の誇りだった。「蘿蔔糕のレシピは阿公直伝を少しずつ再現しています」と店主。皿の向こうに、台湾の記憶をそっと手渡す。

台湾出身の蘇陳詩瀚さんと日本人の妻・清家真弓さんは、小豆島の台湾料理店「agon」を営み、《風伝媒》の取材に離島で暮らし店を続ける思いを語った。台湾料理店「agon」
小豆島の台湾料理店「agon」を営む台湾出身の蘇陳詩瀚さんと日本人の妻・清家真弓さん。離島で暮らし店を続ける思いを《風傳媒》に語った。(写真/台湾料理店「agon」提供)

地元と観光客、その間で生きる

離島の店は楽ではない。人口が少なく、平日の来客は限られる。「今日は5人くらいでしょうか。夏休みや瀬戸内国際芸術祭の時期は増えますが、普段は波があります」。それでも、地元の支えや観光客との交流が励みだ。台湾からの旅行者も多く、「小豆島で台湾料理に出会えるとは!」と喜ばれるという。

台湾の「本当の味」を伝えたい

日本では“台湾料理”を掲げつつ中華や四川の味が並ぶ店も少なくない。「だからこそ、本当の台湾の味を伝えたい」。初めて台湾料理を口にした日本の客から「辛くないんですね」と驚かれることも。「料理をきっかけに台湾に興味を持ってくれたり、行ってみたいと言ってもらえるのが一番うれしいです」。

小さな店から、日台の懸け橋へ

いまは夫婦二人三脚。妻は夜勤の仕事も掛け持ちしてきたが、「体への負担を減らし、店に注力したい」とシフトを調整中だ。将来は冷凍餃子などの商品化にも挑み、オフシーズンの安定運営を目指す。

最後に店主は言った。「台湾から遠く離れたこの小さな島で、料理を通じて誰かの心を温められるなら、それが何よりの幸せです」。 (関連記事: 台湾の夜市でおすすめ屋台料理:北部の冷製おつまみ 多彩な組み合わせが可能! 関連記事をもっと読む

編集:田中佳奈

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