台湾のインターネット帯域の9割以上は海底ケーブルに依存しており、その地位は「デジタルの生命線」とも言える。米国のサイバーセキュリティ企業はこのほど警告を発した。中国海警がフィリピン船への補給を阻んだ事例を踏まえると、台湾周辺で衝突が起きた場合、北京が修理船の出動を妨げ、損傷した海底ケーブルの復旧を阻止する可能性もあるとして、全面的なストレステストを行うよう提言している。
「台湾海峡で衝突発生なら」中国が海底ケーブル修理を妨害する恐れ
米国のネットセキュリティコンサル企業「記録未来」(Recorded Future)の情報研究部門 Insikt Group は、17日に約30ページにわたる報告書「地政学的緊張と限られた修復能力の中で、海底ケーブルが直面する深刻化する脅威」を公表した。報告では、中国とフィリピンの間で南シナ海における領有権をめぐる争いが続く中、中国海警がフィリピン船によるセカンド・トーマス礁、スカボロー礁(台湾名:民主礁、中国名:黄岩島)、およびサビナ礁への補給活動を妨害していると指摘している。
これらはいずれもフィリピンが実効支配または主張しているが、中国も主権を主張する敏感な海域だ。
さらに、フィリピン船への妨害にとどまらず、中国海警やその他の中国部隊は、数十年にわたり南シナ海で他の領有権を主張する国々の船や、米国など域外勢力の船の活動を妨害し続けてきたと報告は述べている。
Insikt Group は、これらの事例は、台湾周辺で緊張が高まったり敵対行動が発生した場合、中国が南シナ海での行動にならって、損傷した海底インフラを修復するための作業船の出動を妨げる可能性を示していると指摘した。
報告によると、2024年以降これまでに、バルト海地域では4件の事案で計8本の海底ケーブルが損傷した。また台湾周辺では5件の類似事案が発生し、そのうち4件は中国またはロシア関連の船舶が関わっていたという。
これらの船舶はいずれも不透明な所有構造を持つか、疑わしい状況で運航しており、その後の調査からも、ケーブル切断を国家主導の破壊行為と断定するのは難しいと報告は強調している。
報告は、海底ケーブルの断絶は依然として事故が主な原因である可能性が高いものの、最近バルト海や台湾周辺で起きた事案は、海底ケーブル網が投錨などの脅威に依然として脆弱であることを示していると指摘した。各国は、この技術的ハードルが低い手段を使って相手国の重要インフラを狙いながら、意図的な行為であることを否認する余地を残すことができるという。
Insikt Group は、地政学的な緊張が高まるなか、ロシアが北大西洋やバルト海で、中国が西太平洋で、同様の行動をさらに頻繁に取る可能性があると評価した。両国はこうした行為を通じて政治的圧力をかけつつ、否認できる余地を残し、情勢を一気にエスカレートさせないようにすることができるとする。
また、中国は深海技術の発展を進めており、海底インフラを標的とする能力を強化している可能性が高い。Insikt Group は今年1月、中国の大学や企業、複数の個人が2020年、2013年、2009年に海底ケーブル切断装置の特許を申請していたことを指摘した。さらに、中国企業が海底ケーブルの敷設や保有、運営で果たす役割が拡大しており、これがケーブルを利用する各国や企業にとってのスパイリスクを高めているとも述べた。
報告は、特に将来的な台湾侵攻を見据えた準備や、米中関係の悪化を背景に、中国が海底ケーブル網への物理攻撃や情報収集をさらに進め、米国および同盟国の経済・外交・安全保障上の目標を妨害する可能性が高いと分析している。Insikt Group は、公私双方の関係者が海底ケーブルインフラのリアルタイム監視と安全対策を強化し、包括的なストレステストを実施することが、システムの強靱性を高め、「発生確率は低いが影響が甚大な事案」を防ぐために不可欠だと提言した。
編集:柄澤南 (関連記事: 「2027台湾侵攻」は本当か?習近平氏が語らなかった「統一タイムテーブル」の裏側 | 関連記事をもっと読む )
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