評論：米国は台湾の「大リコール」をどう見るのか──沈黙するワシントンの真意

台湾の「大規模リコール」の第1波投票が26日に行われる。世論調査はすでに公表が終了しているが、各界からの賛否の声が一気に噴き出し、うねりとなって広がっている。アメリカが戦後、台湾の政治に深く関与してきたことは、もはや公然の事実と言っていい。でなければ、台湾の総統選のたびに、各候補がアメリカに「面接」に赴く必要もないはずだ。

最近終了した漢光41号演習では、「英語の先生」たちが表立って姿を見せ、市街戦の訓練に支持を示した。「大規模リコール」の結果は、台湾の政治の今後を左右するだけでなく、台湾海峡をめぐる地政学にも大きな影響を及ぼす可能性がある。関税の数字を細かく精査するのに忙しいトランプ政権といえども、傍観していられる状況ではない。

「大規模リコール」が大きな波紋を広げる中、米国は異常なほど静寂

「大規模リコール」が台湾で熱を帯びるなか、結果を待たずとも中国が頼清徳政権をどう見ているかはすでに表れている。とりわけ官製メディアの『人民日報』は「団結国家10講」や「災害視察」を題材に連続で評論を掲載し、さらに「中華人民共和国は台湾を統治したことがない」という論調を学者に批判させるなど、矛先は明らかに頼清徳氏に向けられている。近くスウェーデンで行われる米中の第3回通商交渉でも、台湾問題が避けて通れない議題となりそうだ。

かつて「一辺一国」の路線を掲げて対中強硬に傾いた陳水扁氏は、台湾海峡の緊張を高めただけでなく米国政府を怒らせ、ブッシュ（George W. Bush）大統領から「トラブルメーカー」と痛烈に批判されたと伝えられる。当時の米国は、民進党政権に対して「行き過ぎるな、米中関係を壊すな」と釘を刺していたわけだ。時代は移り、「台湾独立の実践者」とされる頼清徳氏の「大規模リコール」をめぐって島内は騒然とし、中国側は怒りを露わにしているが、ワシントンだけは異様なほど静かだ。

目の肥えた人なら気づくだろう。頼清徳氏が政権を握ってから、米国在台湾協会（AIT）の関係者が台湾のさまざまな政治行事に過去にない頻度で姿を現している。米国の「ディープステート」と呼ばれる建制派が、台湾というカードをこれまで以上に強く握ろうとしている証左だ。しかし皮肉なことに、米台関係が近づくほど、台湾社会の米国への不信感も増している。トランプ氏の「相互関税」と称する実態は「懲罰的関税」であり、それが台湾の人々に米国への疑念を抱かせているのだ。 （関連記事： トランプ氏、「日本は5,500億ドル投資で関税引き下げ合意」　他国にも「資金で関税緩和」容認の意向 ｜ 関連記事をもっと読む ）

沈黙の選挙応援者、すでに民進党の喉元を締めつける

アメリカが主要貿易相手国に対して次々と関税の「サプライズ」を開示する一方で、台湾に対しては依然として情報を伏せている。その裏に潜む不透明さは、人々の不安をじわじわと広げている。経済や暮らしに直結する重大事だけに、密閉された鍋の蓋を強く押さえつければつけるほど、中ではますます沸騰が進む。関税の数字がどうなるかは、「大規模リコール」の成否を左右する重要な要素になるのは明らかだ。頼政権がこの「大規模リコール」という一大勝負に賭けていることも、アメリカは見抜いており、「大規模リコール」はまさに、米国が関税交渉で民進党政権の喉元を押さえる急所となっている。

考えてみれば容易に推測できることだ。もし頼政権が関税で目を引く成果を挙げていたなら、選挙戦術に長けた民進党は、すでに大々的な宣伝をして「大規模リコール」の票集めに利用していただろう。だが現実にはそうした場面は見られず、情勢が芳しくないことをうかがわせる。アメリカが台湾向け関税について沈黙を続けること自体、ある意味では「大規模リコール」に対する無言の応援ともいえる。民進党に内向きな期待を抱かせつつ、交渉では強気に出ることができるからだ。

ましてや、もし「大規模リコール」が大成功すれば、アメリカにとっても利益は大きい。民進党が完全に主導権を握る台湾であれば、米国の思惑通りに「対中最前線」として位置づけることが可能になる。一方で「大規模リコール」が大失敗に終わっても、米国にとっては大した痛手ではない。なにしろ、最悪の事態でも立法院でのわずかな国民党・民衆党陣営の優勢にすぎず、実際の影響は限定的だからだ。

交渉のブラックボックスで民間は不安、米国がすでに最大の勝者

このような状況では、関税の数値をめぐって民進党と内外で呼応しつつ情報を伏せ続けることが、アメリカにとって最も有利な選択肢となる。やらない理由はないだろう。26日の「大規模リコール」で情勢が固まるまで、アメリカは民進党に対してまさに「言うがまま」の立場を取ることができる。実際、先に伝えられたところでは、国防部が「最高レベル」の指示を受けて特別軍事予算を新台湾ドル9,000億まで大幅に引き上げ、トランプ政権が最低ラインとして求めてきたGDP比5％をおおむね満たしたという。我が方にはもはや交渉の余地はなく、軍事購入の予算は増える一方で、削減の選択肢は事実上残されていない。

東アジアの隣国・日本の状況を見てみるといい。トランプ氏は一方的にSNSで「対日関税を25％から15％に引き下げる」と表明した。しかしその裏では、日本は巨額の代償を支払うことになり、米国への5500億ドル（約81兆円）規模の投資を約束したうえ、自動車やトラック、米や農産物の市場を米国に開放することになった。台湾が将来、同じ道を歩むかどうかは、まだ誰にもわからない。22日には「台湾労働者・関税衝撃対策行動連盟」が労働団体を糾合し、行政院を取り囲んで抗議した。労働者の権益が密室の交渉で切り捨てられることを懸念したためだ。台湾の農業発展を長年注視してきた楊儒門氏も、23日にメディアへの寄稿で「米の防衛線を死守せよ、食糧安全保障を交渉材料にしてはならない、農民の生計を犠牲にするな」と政府に強く訴え、日本の轍を踏むなと警告した。現場の声は、台湾が米国にさらなる「譲歩」を重ねることへの深い不安を映し出している。

行政院の鄭麗君副院長は再び代表団を率いて渡米し、第4回となる関税交渉を始めた。「大規模リコール」の投票が迫り、さらに米国側が設定した8月1日の関税期限も近づく中で、客観的にも主観的にも台湾に不利な条件が重なっている。今回の交渉で関税率を引き下げられるか、あるいは「サプライズ発表」の時期を先送りできるかは、もはや大きな意味を持たない。なぜなら、台湾の人々の生活基盤よりも、民進党が「大規模リコール」で得ようとする政治的利益のほうが優先されているからだ。頼政権は「大規模リコール」で全面的な権力掌握を狙う一方で、米国との関税交渉では台湾を極めて不利な立場に追い込んでいる。仮に将来、どんな場面でも「言えば水が凍る」と言えるほどの力を手にしたとしても、その代償は大きい。米国が「大規模リコール」を支持するにせよ、しないにせよ、最終的な勝者は米国であることに変わりはない。

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編集：柄澤南 （関連記事： トランプ氏、「日本は5,500億ドル投資で関税引き下げ合意」　他国にも「資金で関税緩和」容認の意向 ｜ 関連記事をもっと読む ）

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