タイとカンボジアの国境係争地であるスリン県周辺において、今日(24日)、両国軍による武力衝突が再び発生した。両軍は激しい銃撃戦を展開し、タイ側ではF-16戦闘機6機の出動準備が進められていると報じられている。今回の衝突は、数週間にわたり高まっていた緊張がついに爆発した形であり、両国関係は近年まれに見る最悪の状況にある。
衝突の引き金:地雷爆発でタイ兵負傷
衝突のきっかけとなったのは、前日の23日に発生した地雷事故である。タイ兵1人が地雷により片足を失い、さらに5人が負傷した。タイ政府はこれらの地雷が新たに埋設されたものだと主張しているが、カンボジア側はこれを否定し、「根拠のない非難」だと反論している。カンボジア国内には、数十年前の内戦で残された数百万個の地雷が現在も存在するとされており、事故原因の特定は困難を極めている。
この事態を受け、タイ政府は強硬な外交措置に踏み切った。プノンペン駐在の大使を召還し、カンボジア大使を国外退去としたほか、東北部国境の一部を閉鎖した。一方、カンボジアもタイとの外交関係を「最低レベルに引き下げる」と発表し、両国間の緊張はさらに高まっている。長年燻ってきた国境紛争が、全面衝突へと発展する危険性が現実味を帯びつつある。
焦点は「タ・モアン・トム寺院」 武装部隊とドローンも確認
タイ軍の発表によれば、カンボジア軍はスリン県南部とカンボジア北西部との間にある係争地域「タ・モアン・トム寺院(Prasat Ta Muen Thom)」周辺で、タイの軍事拠点に向けて発砲したとされる。声明によると、カンボジア側は寺院前にドローン1機を展開した後、6人のRPG(ロケット推進擲弾)を装備した兵士を含む武装部隊がタイ軍の基地前に接近し、鉄条網区域を越えようとしたという。
これに対し、カンボジア国防省の報道官マリー・ソチェアタ(Maly Socheata)氏は、「カンボジア軍はタイ兵による一方的な領空侵犯に対応する形で自衛行動を取った」と反論し、タイ側がカンボジアの主権を侵害したと非難した。
貿易・文化交流にも波及 両国関係は全面悪化
両国の対立は、今年5月に発生した「エメラルド・トライアングル(Emerald Triangle)」と呼ばれるカンボジア・タイ・ラオスの三国国境地帯での衝突から急速に悪化していた。あの時は、カンボジア兵1人が死亡する事態となっている。
現在、国境に設けられた多くの検問所が閉鎖または通行制限されており、両国間の人の往来や物流に深刻な影響が出ている。カンボジアは対抗措置として、タイ映画・ドラマの放送禁止、タイ産果物・野菜の輸入停止、タイとのインターネット接続や電力供給の遮断、さらにはタイ産燃料の輸入停止にも踏み切った。これにより、年間数十億ドル規模の国境貿易が大きく揺らいでいる。
政治スキャンダルも拍車 前首相の「通話漏洩」が大波紋
事態をさらに混迷させたのが、タイ前首相ペートンターン・シナワット氏の「通話スキャンダル」である。7月1日、カンボジアのフン・セン前首相と電話で交わした会話内容が、フン・セン氏によって一方的に公開された。この通話では、ペートンターン・シナワット氏が国境紛争を巡るタイ軍の対応を批判するような発言をしており、これがタイ国内で「国家への裏切り」だと非難を招いた。結果として彼女は即日職務停止となり、政局はさらに混迷を深めている。
フン・セン氏が通話を漏洩した背景は明らかになっていないが、これによりタイとカンボジアの両政権中枢を担った二大政治家一族の長年の親密関係にも深刻な亀裂が生じた。現在のタイ政府は、対カンボジア姿勢において一切の「弱腰」と見なされる余地を排除しなければならない状況にあり、国境紛争の平和的解決はより困難となっている。
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編集:梅木奈実 (関連記事: 「百年の寺院」巡る紛争激化 タイとカンボジアが交戦、8万人が避難 | 関連記事をもっと読む )
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