20日に行われた日本の参議院選挙で、極右の小政党「参政党」が「日本ファースト」を掲げ、議席を1から14に大きく伸ばし、今回の選挙で最大のダークホースとなった。移民の制限を訴え、生活に密着した政策を掲げた同党は、働き盛り世代の不満を巧みにすくい上げ、初めて投票する若者層の支持を集めた。こうした勝利は、反グローバル化や排外的な空気の高まりが日本にも広がりつつあることを示しており、若い有権者の間ではエリート主導の「正常な」政治秩序に対する疲弊も見られる。
石破茂首相が率いる自民・公明の与党連合は、今回の参議院選挙で過半数維持に必要な50議席の確保を目指したが、最終的に47議席にとどまり、参議院のみならず衆参両院の多数派を失う結果となった。自民党が両院の支配権を喪失するのは、1955年の結党以来初めてとなる。党内からは退陣を求める声が強まっているが、石破氏は辞任を否定し、続投の姿勢を崩していない。
石破氏にとって最大の脅威となったのは、中道左派の立憲民主党ではなく、新興政党による保守票の分散だった。中でも注目を集めたのが、「日本人ファースト」を掲げる極右政党「参政党」である。こうした新党の台頭が有権者の関心を呼び起こしたとみられ、投票率は59%と、2012年以来の高水準を記録した。
参政党の台頭への道のり
参政党の英語の正式名称は「Party of Do It Yourself」で、2020年3月に登録設立され、4月に本格的な活動を開始した。同党はYouTubeを起点とし、初期にはワクチン陰謀論の拡散やグローバリズムエリート批判などの内容で注目を集めた。現在47歳の党首である神谷宗幣氏は、元スーパーマーケット店長兼英語教師である。海外メディアはこの右派政党がいかに台頭したか、そしてその背景にある深層的意味を詳細に分析している。
一、日本人ファースト
アメリカのトランプ大統領や、近年の欧州での極右政党の台頭と同様に、「日本人優先」を掲げる参政党のスローガンは有権者の共感を集めている。NHKが実施した選挙前の世論調査によると、29%の有権者が社会保障や少子化対策を最も重視しており、過去1年で倍増したコメの価格に不安を抱える層も28%に上った。一方で、石破茂首相にとっての難題である関税を最重要課題に挙げた有権者は、わずか8%にとどまった。
『日本経済新聞』は、参政党の選挙での躍進は、「国民優先」や反グローバリズムといった世界的な潮流が日本にも波及している証左だと分析する。経済の低迷による社会の停滞感が強まるなか、参政党は既存政党や官僚エリートの政策が国民の利益を無視していると批判し、支持を広げている。51歳の支持者、小枝義之氏は『エコノミスト』誌の取材に対し、「参政党こそが、日本の重大な問題を真に解決できる唯一の政党だ」と語った。
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二、移民制限
人口減少が進む中で、日本は外国人労働者にますます依存するようになっている。昨年の外国人労働者数は230万人に達し、全労働力の約3%を占めた。これは英独の約20%と比べれば少ないものの、10年前の3倍に当たる急増ぶりだ。参政党は、政府が大企業の意向を受けて安価な労働力を導入し、日本人の賃金を押し下げていると批判している。『ガーディアン』は、同質性が高く文化的な一体感を重視する日本において、外国人労働者の受け入れは今なお不安を呼んでいると指摘する。
参政党の主張の中心には、一貫して移民への強硬姿勢がある。日本社会が直面する課題の原因を「静かな侵略(silent invasion)」と位置づけ、SNSを通じて不安をあおり、支持拡大を図ってきた。「外国人が社会保障費の3分の1を受け取っている」といった誤情報も拡散され、世論の分断を深めている。
東京・神田大学の講師で、日本の右翼政治を研究するジェフリー・ホール氏は、「かつてはタブーとされていた排外的な感情が、いまや公然と語られるようになった」と指摘する。こうした風潮の中で、参政党はネット上で多くの支持者を集めており、特に若い男性層からの人気が高いという。
三、物価問題
世界的なインフレと円安の影響で日本の物価が急騰し、特に食品価格が大きく上昇している。6月にはコメの価格が倍増し、政治的な混乱を招いた結果、江藤拓農林水産相が引責辞任した。実際、物価上昇は2022年から続いているにもかかわらず、賃金の伸びは追いつかず、実質賃金は5カ月連続で減少。低所得層ほど影響が大きく、参政党の主要な支持層となっている。
専門家は、物価高への対応に対する有権者の不満が、与党連合の大敗につながった重要な要因の一つだと分析する。選挙期間中、石破茂首相は全ての国民に2万円の一時金を給付することを公約に掲げたが、『エコノミスト』誌はこの提案について、有権者の心をつかむには不十分で、むしろ従来の支持者からも「浅はかで受け身」として反感を買ったと報じている。
四、ソーシャルメディアへの依存
参政党は新型コロナの流行期にYouTubeを通じて頭角を現し、ワクチンやグローバルエリートに関する陰謀論を大量に拡散してきた。選挙が近づくにつれ、移民批判を強めながら支持を広げ、これまで政治の周縁にあった過激な言説を主流に押し上げ、「誰もが口にできなかった本音」を代弁する存在として注目を集めた。
伝統的なメディアは、「外国人が犯罪率を押し上げている」「大規模に土地を買い占めている」といった参政党の主張に反論を試みてきたが、多くの有権者には届かなかったようだ。参政党の公式YouTubeチャンネルの登録者数は46.2万人を超え、日本の政党で最多を誇る。与党・自民党の14万人を大きく上回っている。
五、欧米極右の経験を参考
『日本経済新聞』は、参政党が欧米の極右政党の成功事例を参考にしながら、国家主権の重視や反グローバリズムを前面に掲げ、SNSや街頭演説を通じて支持を広げていると報じている。党の中心人物である神谷氏は、トランプ大統領の「大胆な政治スタイル」に強い影響を受けたと率直に語っており、その戦略はドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」やイギリスの「リフォームUK」と共通点が多い。欧米の右派ポピュリズムの成功モデルを、日本に持ち込もうとしている姿勢がうかがえる。
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六、時勢が英雄を作る
『ニューヨーク・タイムズ』は、参政党の台頭が日本の若年層や労働階層に広がる集団的な不満を反映していると報じている。20日の出口調査では、世代間の明確な分断が浮き彫りとなり、『共同通信』の調べでは40歳以下の有権者の半数がポピュリズム政党に票を投じたことが明らかになった。1990年代から2000年代初頭の経済低迷期に社会人となった世代でも、支持率は高い傾向にある。
専門家は、高齢化が急速に進む中で生じている世代間の負担構造が、若者の間に強い不満を生んでいると分析する。若年層は、重い税負担を強いられながら親世代の老後を支える一方で、既得権益を保護する政策に阻まれ、起業や生活向上の機会が閉ざされていると感じている。参政党は、こうした不満にタイミングよく訴えかけ、若い有権者の声を代弁する存在として支持を広げた。
政権奪取への道のりは遠い
『日本経済新聞』は、こうした戦略が極右勢力の拡大には寄与するものの、実際に政権に参画するには別次元の課題があると指摘している。欧州では、多くの極右政党が過激な立場ゆえに連立政権への参加を拒まれ、結果的に権力中枢から排除されてきた。ただし、現時点で参政党は規模が小さく、欧州のような強い拒否反応を引き起こす可能性は低いともみられている。なお、2017年のオーストリアでは、自由党が国内第3党でありながら連立政権入りを果たした例もある。
党の中心人物である神谷氏自身も、たびたび物議を醸してきた。かつて天皇の後継問題をめぐり「側室制度の復活」を提案したほか、選挙期間中には「男女平等政策は女性の就労を促し、出生率を下げる誤った政策だ」と発言し、批判を浴びた。その後、神谷氏は減税や児童手当の拡充といった穏健な政策を前面に出し始めたが、財政規律や国の巨額債務に対する懸念から、投資家の不安も広がっている。
長期的傾向か、一時的現象か
専門家は、今回の極右政党への支持が一時的な抗議票にとどまるのか、それとも日本政治におけるより根本的な再編につながるのか、現時点では判断がつかないとしている。『ニューヨーク・タイムズ』は、日本における右翼的な感情は2000年代に「ネット右翼」として萌芽したが、独立した運動体とはならず、当時の安倍晋三氏による保守政治を後押しする形で表出してきたと分析する。
安倍氏の死後、神谷氏ら新たな勢力が台頭する一方で、自民党も右派支持層を取り戻そうと、党自体がさらに右傾化する可能性もある。だが、石破茂首相はそうした展開を阻止する姿勢を示しており、歴史的な敗北を認めながらも、首相続投を表明。党内で高まる辞任要求を退ける構えを見せている。
自民党の前途は不透明
自民党は今後、どのように対応すべきか。『エコノミスト』は、自公連立で参議院の過半数を失ったことにより、今後の政策運営が一層難しくなると分析している。法案の成立には他党との協議が不可欠となり、場合によっては政権枠組みの拡大も視野に入るが、現時点で主要な野党や新興政党はいずれも連立に消極的な姿勢を示している。
一方で、党内では刷新を求める声が高まっている。自民党は新たな顔ぶれを前面に出す可能性もあり、候補として名前が挙がっているのが、44歳の小泉進次郎氏だ。元首相を父に持ち、現在は農林水産相としてコメ価格の高騰に対応している。また、党が右傾化することで参政党の台頭に対抗しようとする動きもある。昨年の総裁選で石破氏と争った保守強硬派の高市早苗氏は、再び総裁選への出馬を検討していると明かしている。
長らく他の先進民主国家を覆ったポピュリズムや政治の分断を免れてきたかに見えた日本だが、もはやその例外ではない。日本の政治は今、確実に転換期を迎えており、先行きは極めて不透明だ。