台湾では世界初の大規模リコールが、7月26日(土)に決着を迎える。与野党双方にとって生死を分けるゼロサムゲームであり、台湾の民主主義を大きく揺さぶるこの投票は、リコール区の有権者(35%)のうちわずか25%が投票すれば成立する。極端なケースでは、全有権者のわずか8.7%が台湾の進路を左右することになる。この仕組み自体、民主主義を標榜する台湾にとって想像しがたい現実だ。リコールの正当性を演出するため、双方が嘘や二重基準を用い、どんな結果が出ようと台湾は傷を負う――そう言わざるを得ない。
大規模リコールの原点:「国会少数」を認めないことが混乱の根源に
そもそも今回の大規模リコールは、何を目的としているのか。リコール団体を率いる曹興誠氏の発言に、その端緒が見える。音楽家の羅大佑氏が「選挙に負けた民進党が駄々をこねてちゃぶ台をひっくり返したようなものだ」と批判したところ、曹氏はこう反論した。「立法委員選挙で民進党が獲得した地域票と政党票の合計は1,107万7,338票で、国民党の1,016万6,509票を上回っている。票数では負けていない。ただ、一票の格差のせいで議席数は国民党より1少なくなった」と述べ、リコールは「選挙敗北の逆上」ではないと強調した。
しかし、政党票には民衆党の得票が含まれており、国民党と民衆党を合わせると全体の56%に達する。民進党は36%にとどまり、明らかに国会では少数派だ。曹氏の論理は、民進党支持者の間でリコール正当化の理屈として繰り返されているが、現実を都合よく除外している。根本には「国会少数」という立場を受け入れない民進党の姿勢があり、それこそが政局混乱の起点になっている。さらに、劣勢を挽回しようとリコール団体と民進党が進める「赤いレッテル貼り」の戦略は政治的対立を激化させ、政治倫理を損ない、嘘や二重基準を日常化させてしまった。
大規模リコールが招いた連帯損失 嘘と二重基準が政治の日常に
例えば、曹興誠氏はボランティアがなぜ大規模リコールを発起したのかについて、こう語っている。
「立法院は今や独裁的な“殴り合いの場”になってしまった。傅崐萁氏が提出する法案は、他の立法委員に内容を事前に知らせないまま強行採決され、民進党が反対すれば激しく殴られる」。
だがこの説明は、事実と大きく異なる。昨年、国会改革法案をめぐって与野党が激しく衝突した際、議長席を守ろうとしたのは野党の国民党・民衆党陣営であり、議長席を奪おうとしたのは民進党側だった。実際、民進党の鍾佳濱委員は国民党の陳菁徽委員に飛びかかって倒し、郭国文委員は事務総長の周万来氏から議事文書を奪い、邱議瑩委員は羅智強委員を平手打ちし裁判所から賠償を命じられている。これらはすべて、民進党側が国会改革法案を阻止するため自ら物理的行動に出たものだ。
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一体どの民進党立法委員が「法案に反対したことで殴られた」というのか。
リコール団体を率いる立場にある曹氏が、こうした根拠のない発言を公の場で繰り返すべきではないが、いまやこうした“出任せ”が政界では常態化している。
さらに大きな歪曲は、「野党が進める国会改革法案は習近平国家主席の指示によるものだ」という主張だ。これは論理の飛躍も甚だしい。昨年の国会改革の核心は、立法院の調査権を強化することにあった。そもそもその伏線は20年前の釈字585号にあり、当時の憲法解釈者が「米国型の国会調査権が野党の政権転覆を助け、習近平氏に利用される」と予見していたとでもいうのだろうか。さらに昨年、大法官が過去の解釈を覆し、立法院に調査権はないと宣告したことは、民進党の二重基準を映し出している。野党時代には調査権を支持した民進党が、政権を握るや否や司法権と結託して国会の調査権を奪ったからだ。
「抗中保台」は看板 その裏にあるのは権力奪取
最も深刻な二重基準は、民進党とリコール団体が掲げる「抗中保台」だ。彼らは国民党陣営の議員を無差別に「親中」「売国」と非難するが、具体的な証拠は示されていない。対照的に、リコール団体の指導者である曹興誠氏は、かつて聯電を率いて中国本土に半導体投資を行っていた。沈伯洋氏の父親も「赤い金儲け」が疑われ、会社は「中国台北」名義で中国に申請していたとされる。さらには、街で携帯電話を持つ人を「スパイだ」と糾弾する郭昱晴委員の夫も中国で商売をしていた過去がある。
赤い金儲け自体は罪ではないが、民進党は普段、これを糾弾の武器に使う。それにもかかわらず、自らやリコール団体には適用しない――これが二重基準である。
リコール団体は「市民発起の運動」と主張するが、核心的価値観のない市民は果たして市民と呼べるのか、それとも特定政党の熱狂的支持者なのか。突き詰めれば、そこにあるのは「誰が権力を握るか」という一点であり、価値基準は二の次だ。今回の大規模リコールの核心は、蔡英文氏と民進党が権力の奪還を狙っていることにある。「抗中保台」はそのためのスローガンに過ぎない。
蔡英文総統は「リコールと反リコールがあることこそ、多元的民主主義の証だ」と語った。しかし、リコールは本来、民選公職の重大な職務怠慢を是正するための制度であり、一般選挙とは性質が異なる。民進党が大規模リコールを仕掛け、国民党の立法委員全体を「悪」と決めつけて一掃しようとすることは、民主国家の発想からはかけ離れている。蔡氏の発言は、彼女の民主主義理解の浅さを再び露わにしたと言える。
リコールと反リコールが敵味方の戦いとなった結果、憎悪の応酬が生まれた。民進党とリコール団体が「市民」の名を掲げてそれを煽り、街頭では異なる立場の住民が公然と罵り合う――台湾ではほとんど見られなかった光景だ。これを「民主内戦」と呼ぶのはまだ優しい表現かもしれない。政治文化に必要な寛容さが失われた状況で、どうして多元的民主を語れるのだろうか。
大規模リコールがこの日を迎え、柯建銘氏や曹興誠氏は通り過ぎる役者にすぎない。最終的に責任を負い、結果を引き受けるべきなのは蔡英文総統だ。各界がリコールの議席数を試算しているが、5議席未満なら国会多数を奪えず、民進党の敗北。6〜10議席なら国会多数を握る可能性が出て、野党の敗北であると同時に、民主的抑制と均衡の大きな後退につながる。
いずれにしても、台湾はすでに「憎悪対立」という代償を払っており、その中には総統への信頼の失墜も含まれる。権力のために台湾の団結を賭けに出した指導者が、いつかその権力のために台湾そのものを賭けの対象にしないと、誰が言い切れるだろうか。