台湾で行われた大規模なリコール投票の結果が発表され、汚職で起訴され職務停止中の新竹市長・高虹安氏と、国民党の立法委員・鄭正鈐氏がリコールの危機を乗り越えたことが明らかになった。民衆党は党主席・黄国昌氏の指導のもと、国民党との「藍白合(国民党と民衆党の協力)」を進め、最終的に民進党と市民団体によるリコール運動は成果を上げられなかった。
注目すべきは、新竹市が民進党団総召(議会代表)・柯建銘氏の地盤であり、一級戦区と目されていたことだ。その新竹で高虹安氏と鄭正鈐氏がどのようにリコールを防ぎ切ったのかが焦点となる。民衆党の前主席・柯文哲氏は2024年の大統領選で国民党との「藍白合」を約束したが、のちに破棄した経緯がある。今回の選挙は「その戦術を上回ることができるのか」という試金石となった。
民進党団総召の柯建銘氏は大規模リコールを推進したが、自身の地盤である新竹で敗北した。(写真/柯承惠撮影)
黄国昌氏、新竹死守を指示 高虹安氏・鄭正鈐氏が藍白連携へ 新竹市長リコールが動き出した段階で、民衆党中央は黄国昌氏が「新竹を死守せよ」と指示。党中央は「新竹保安隊」を設置し、地元の支持を固めた。新竹野球場問題や統一配分金などのテーマを掲げ、地元組織を通じて宣伝を行った。
市政防衛では、代理市長・邱臣遠氏が元民衆党スポークスマン・楊宝楨氏を市政府発言者に据え、リコール側の批判に逐一対応。高虹安氏は基隆市長・謝国樑氏から「政績を伝えるべき」と助言を受け、投票前2週間で教育・介護・交通・環境といった施政成果を発表する記者会見を重ねた。
鄭正鈐氏がリコール対象となった際、国民党新竹市党部は民衆党新竹市党部に協力を要請。両者は陸戦でも足並みをそろえ、選挙戦後期には藍白の大物が次々と新竹を訪れ、街頭を共に回る姿が見られた。
民衆党は新竹に注力し、防衛力を強化するとともに空中戦での支援も提供した。(写真/民衆党提供)
黄国昌氏、小草に呼びかけ 新旧のわだかまりを超える 国民党が接戦区を抱えるなか、民衆党は「小草(民衆党支持層)」の動きがカギになると判断。黄国昌氏は早い段階で国民党支援の姿勢を打ち出し、後半戦では全国を回って応援を展開した。
一部支持者には2024年の「藍白不合」や京華城事件で国民党に不満を持つ人もいたが、黄国昌氏は「民主法治を守るため、新旧の国民党への敵対を捨てるべきだ」と訴え、投票を呼びかけた。結果として小草たちは、新竹で黄国昌氏が導いた藍白合の路線に従ったことが証明された。
民衆党主席の黄国昌氏は、リコール戦で国民党を全面的に支援し、全国を巡回して後押しした。(写真/柯承惠撮影)
大規模リコールが野党の士気を削ぐことを懸念 民衆党は国民党への支援を決断 民衆党が最も危惧していたのは、民進党が再び国会の過半数を奪うリスクに加え、民衆党立法院党団が主導する8月23日の「核三継続運転」公投への影響だった。もし国民党の立法委員が大量にリコールされれば、野党全体の士気が下がり、投票率が低下しかねない。そこで民衆党は、国民党を支えることが必要だと結論づけた。
民衆党内部では「投票意欲の低さ」も課題とされている。選挙のない年は投票率が下がりやすく、過去に謝国樑氏のリコールで支持者の反応が鈍く、投票率が伸びなかったことも教訓となった。このため後半戦の空中戦では「反対票を投じよう」と積極的に呼びかける戦術をとった。
民衆党は、大規模リコール戦の敗北が8月の核三公投にも影響を及ぼすと懸念している。(写真/柯承惠撮影)
柯文哲氏の司法案件が支持者の感情を動かす 国民党も利用 当初、民衆党は反リコールのスローガンとして「反頼清徳」を掲げていた。しかし内部の情報によると、藍白の合同集会では、柯文哲氏が司法案件で追及されている話題が最も大きな反応を得た。党中央や黄国昌氏が特別な指示を出したわけではないが、選挙終盤では街頭演説や討論会で「柯文哲案件」に言及し、感情に訴える場面が増えていった。
特に選挙前のゴールデンウィークには、柯氏の妻や妹が登場し、民進党による司法迫害を批判。代理市長の邱臣遠氏も「新竹は柯文哲氏の故郷で、彼から市政を支えるよう言われた」と発言。黄国昌氏も「投票で柯文哲氏に公正を」とスピーチで訴えた。
一方の国民党も同様に、柯氏の司法問題を応援演説で取り上げた。鄭正鈐氏は「柯文哲氏が拘束されて300日以上、司法による打撃が続いている」と懸念を表明した。
前民衆党主席の柯文哲氏に対する司法案件が、藍白陣営による「司法迫害反対」の訴えとして反リコール派に響いた。(写真/顏麟宇撮影)
柯文哲氏、藍白合を破棄した大統領選と異なり、新竹では藍白合が成功 7月20日の民衆党主導の反リコール集会では、国民党の賴士葆氏が「柯文哲氏は10か月以上拘束されている、これは民主と独裁の闘いだ」と強調。徐巧芯氏も涙ながらに「柯文哲氏は決して汚職をする人ではない」と訴え、羅智強氏も「柯文哲氏が不当に排除されている」と熱弁した。
ただ、こうした「柯文哲カード」の活用は事前に国民党と調整されていたわけではなく、民衆党側は国民党が柯文哲氏を大きく取り上げたことに驚いたという。結果として、柯氏の存在は野党共闘を強める要素として機能した。2024年大統領選では藍白合が破綻し民進党に敗れたが、2025年のリコールでは黄国昌氏の下で藍白合が進み、「柯文哲」という要素がリコール突破の鍵となった。
柯文哲氏(右から2人目)と侯友宜氏(右)、2024年の大統領選で藍白合を模索するも最終的に実現せず。(写真/陳昱凱撮影)
2026年選挙を見据え 黄国昌氏に問われる「藍白合」の持続力 高虹安氏は今回リコールを乗り切ったものの、汚職裁判は継続中で職務停止状態が続いている。さらに、2026年の地方選挙では各党が攻勢に出るため、黄国昌氏がどのように「藍白合」を活用するかが焦点となる。
これまで柯文哲氏は「民衆党と国民党はDNAが違う」と協力の難しさを指摘してきたが、司法案件で拘束されるなか、黄国昌氏率いる民衆党と国民党が連携を強め、柯文哲氏の存在が両陣営の共通の「切り札」となった。だがこの切り札が2026年、さらには2028年の戦いにおいても通用するのか、それとも一時的な戦術にすぎないのか──それはこれからの黄国昌氏に突きつけられる課題である。