アメリカのトランプ大統領はホワイトハウス復帰後、再び関税を主要な外交カードとして使い始めた。中国、カナダ、EUなど主要な貿易相手国に対し、懲罰的な関税措置を頻発させている。課税と一時停止、再びの課税を繰り返す手法は、世界市場に大きな動揺をもたらしている。米紙ニューヨーク・タイムズは27日、この「関税戦争」のタイムラインを整理し、国際貿易や外交関係への影響を詳しく報じた。
奇襲型貿易戦争が市場を揺るがす
トランプ氏はかつて「関税は辞書の中で最も美しい言葉だ」と語った。2025年1月の政権復帰以降、彼は関税を武器に世界の貿易秩序を再構築しようとしている。4月2日の「解放日」には、中国を含む複数の国に過去最大級の関税を課した直後、突然「90日間の一時停止」を発表。市場と外交の双方が混乱に陥った。一方、中国に対する関税は対象外とされ、税率は145%という歴史的高水準に達した。
ニューヨーク・タイムズによると、多くの国が米国と集中的に協議を進める中、トランプ氏はSNSで突如として新たな関税や警告を発表し、交渉を決裂させることが度々あった。この「奇襲型」の貿易戦略は、米国と同盟国の関係基盤を揺さぶり、世界のサプライチェーンや市場を極度に不安定化させている。ニューヨーク・タイムズは、トランプ政権が今年1月から7月までに展開した「課税-撤回-再課税」の一連の動きを整理した。
トランプ vs. 世界
2月7日:トランプ氏は貿易戦拡大を宣言し、他国に「対等関税(reciprocal tariffs)」を適用すると表明。ただし対象国は明示せず。
2月10日:第1期政権時の「鉄鋼・アルミ関税」を復活させ、全ての外国製鉄鋼とアルミに25%関税を課す。世界の供給網に衝撃。
2月13日:「対等関税」計画を予告し、製造業を米国に呼び戻す狙いを強調。
3月26日:輸入車と自動車部品に25%関税を発表。海外生産の米ブランド車も対象。
4月2日:全輸入品に10%の基礎関税を課し、特定国には「対等関税」を上乗せ。数十カ国が予想外の高関税に直面。
4月9日:主要貿易相手に懲罰関税を課す。中国製品は104%、欧州20%、日本24%、ベトナム46%。中国は即座に報復し、米製品への関税を84%に引き上げた。
同日:トランプ氏は突如「対等関税」の90日間停止を発表。ただし中国は対象外。その後、中国への関税を125%に引き上げると表明。
4月11日:スマホ、半導体など一部電子製品の関税を一時免除と発表。
4月13日:免除は一時的とし、コンピュータ用チップに新たな関税を検討中と明言。
5月30日:ペンシルベニア州で鉄鋼労働者に演説し、鉄鋼関税を25%から50%に倍増すると約束。
7月9日:8月1日までに21カ国と新協定に至らなければ、20%から最大50%の全面関税を課すと警告。銅価格は急騰し、保護対象の業界からも懸念が広がった。
トランプ vs. 中国
2月1日:カナダ・メキシコ製品に25%、中国製品に10%の関税を発表。理由はフェンタニル密輸と不法移民対策と説明。カナダ・メキシコは即座に報復表明、中国も反制措置を宣言。
2月4日:10%関税が正式発効。中国は一連の報復としてアメリカ製品に追加関税を適用。
4月4日:中国財務省がアメリカ製品に34%関税を発表。同日、中国商務部は11社のアメリカ企業に国内商業活動禁止を通達。
4月7日:トランプ氏が報復として中国製品に追加50%課税を警告。総関税は最大104%に達する可能性。中国外交部の林剣氏は「経済的ないじめ」と非難。
4月9日:トランプが「対等関税」を発表。中国製品への課税を125%に引き上げる方針を表明。
4月10日:ホワイトハウスが総関税率145%を明確化。中国は対等関税の一時停止リスト対象外。
5月12日:米中が一時合意。米国は中国製品関税を145%→30%に、中国は米製品関税を125%→10%に引き下げ。
6月27日:トランプ氏が「貿易協定」を発表。翌日、中国も合意確認し、レアアース輸出制限や輸入規制を一部緩和。
トランプ vs. カナダ・メキシコ
1月20日:就任初日、2月1日からカナダ・メキシコ製品に25%課税を宣言。理由は麻薬・不法移民の流入抑止。
2月1日:カナダのトルドー首相が1,000億ドル超の報復関税を表明。「雇用と製造業に打撃」と警告。
2月3日:トランプ氏がカナダ・メキシコへの関税を30日間一時停止。
2月27日:トランプ氏が新たに10%関税を発表。3月4日発効予定。「麻薬流入は依然受け入れ難い規模」とSNS投稿。
3月4日:関税正式発効。カナダは総額1,550億ドルに25%関税を即日適用、一部は21日後に追加実施。
3月5日-6日:トランプ氏は自動車関税を1か月延期、鉄鋼・アルミの関税は維持。
3月10日-11日:オンタリオ州が米国3州への電力輸出に25%課税。トランプはカナダ産鉄鋼・アルミ関税を倍増。数時間後に双方一時合意。
3月12日:カナダとEUが数十億ドルの報復関税を発表。ただしEUは4月1日まで発動延期。
7月11日:数か月の協議後、トランプ氏が8月1日からメキシコ・EU製品に30%関税を宣言。報復時は更に引き上げると警告。
トランプ vs. 欧州連合・イギリス
3月12日:トランプ氏の関税圧力下、EUとカナダが数十億ドル規模の報復関税を発表。EUは4月1日まで発動延期。
3月13日:EUは4月1日からウイスキーなどに50%関税予定。トランプ氏はワイン・シャンパンなど全アルコールに200%関税を警告。
4月10日:トランプ氏が「対等関税」を一時停止。EUも報復関税実施を暫定停止。
5月23日:トランプ氏がSNSで「EUとの交渉は進展なし」と批判。6月1日からEU製品に50%関税を警告。
5月25日:トランプがEUとの全面50%関税を7月9日まで延期。追加交渉期間を設定。
6月16日:米英が正式貿易協定締結。英車・鉄鋼・アルミ・航空部品の関税引き下げに合意。
7月11日:トランプがSNSで公開書簡。8月1日からEU・メキシコ製品に30%関税を課すと宣言。報復時は更に上昇と警告。
7月14日:EU首席交渉官セフチョビッチ氏が失望を表明。「合意に近づいていたのに」と発言。
7月27日:米EUが貿易協定に合意。多くのEU製品に15%基礎関税を設定、飛行機・一部化学品・医薬品・農産品は関税ゼロ。EUは米国に6,000億ドル投資増、7,500億ドルのエネルギー購入を約束。
関税戦略のリスクと将来
中国、カナダ、メキシコ、欧州連合に加えて、トランプ政権はベトナム、インドネシア、日本、コロンビアなどにも高い関税を適用し、貿易障壁の緩和や対米投資の増加を求めている。コロンビアは移民送還問題で圧力を受け、最終的に譲歩した。ベトナムとインドネシアは交渉で米国の条件を受け入れ、日本はアメリカへの5,500億ドル(約〇兆円)の投資を約束し、25%の関税を15%に引き下げてもらうことで合意した。
トランプ大統領は関税を主要な外交手段として繰り返し用い、脅しや日替わりの政策変更によって貿易相手に譲歩を迫っている。『ニューヨーク・タイムズ』によれば、いくつかの交渉結果は効果を上げたものの、アメリカが輸入する自動車や電子製品、食品・アルコール・木材・燃料などの生活必需品は、各国の逆制裁によって価格上昇圧力に直面している。この関税戦争が最終的にアメリカに有利となるかどうかは、いまだ不透明だ。