「選挙を通じて、一票一票を打ち重ね、鉄を鍛えるように叩き、鍛錬し、不純物を取り除きながら、主権と民主主義を守る鋼の意志を形作る。」
台湾の賴清徳総統が打ち出した「国家の団結十講」は、台風の影響で大規模リコール投票の直前に行われたのは最初の4回のみで、テーマは国家・団結・憲政・防衛に限られた。残りの6回は今も実施されていない。台湾の選挙結果を的確に予測してきた清華大学名誉教授の小笠原欣幸氏は、大リコール後に日本メディアの取材に応じ、賴総統が演説で述べた「在野陣営はフィルターで取り除かれるべき不純物だ」との一節が、リコール運動の勢いを左右した重要な転換点になったと指摘した。この論調は在野党支持者の票を動かし、最終的に7月26日の「大リコール、大失敗」という結末につながったと分析している。
大リコールが「大失敗」に終わった背景として、賴氏の演説を主要因とする見方もある。ただし、これはリコール運動側や民進党内での共通認識かは定かではない。賴氏の「不純物論」は、実際には「国家の団結十講」の第2回「団結」の40分間の演説の中で、ほんの数十秒しか触れられていなかった。しかし最終的にはその部分だけが強調され、演説全体の意図と反対の結果を招いた。「民主主義の核心は、意見の違いの中から団結を見いだすことにある」と強調したものの、現実には社会の分断を深める結果となった。
総統が国民に団結を呼びかけること自体は重要である。しかし今回の演説は、無意識のうちに党主席としての党派色をにじませたとされる。その結果、「団結を叫ぶほどに分裂を招く」という逆効果を生んだ。リコールの結果発表後、賴総統はFacebookに「今日の結果は、いずれかの方の勝利でもなく、もう一方の敗北でもない」と投稿し、リコール運動に携わった人々へのねぎらいを示した。ただ、この発言は党主席としての立場が前面に出た印象を与え、総統自身は結果への直接的な責任を負わない姿勢を示したとも受け取られている。

一方、地球の反対側に目を向けると、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の「反ロ・親ウクライナ」戦略も厳しい批判に直面している。2019年に政治経験ゼロで大統領に選ばれたゼレンスキー氏は、戦時中のため選挙が実施できず、戦争が終結するまで指導者としての地位が維持されている。この状況について、フランスの『ル・モンド』紙は「任期制限のない大統領」と評した。
ウクライナと台湾はいずれも、侵略に抗う理由として「民主主義の防衛」を掲げている。しかし、現実には民主主義が必ずしも「完全に民主的ではなくなる」過程を経ることも避けられない。キーウ民主主義財団の政治学教授オレクシー・ハラン氏は、砲撃が日常化する中での選挙は「国家を分裂させかねない」と懸念を示した。 (関連記事: ウクライナ支援を再始動 トランプ氏、ロシアに最大500%関税も視野 「プーチンの発言はでたらめ」と非難 | 関連記事をもっと読む )

かつて73.2%の高得票率で当選したゼレンスキー氏の支持率は、すでに50%前後まで低下している。戦時下の結束は、国内の矛盾によって侵食され始めており、任期制限のない大統領が支持を失えば正統性の危機に直面する。ゼレンスキー氏は多重の課題に直面しており、反腐敗機関を政治任命の検察総長の監督下に置いたことで批判を浴びた。