本来なら心地よい東京の秋だが、街には緊張と期待が入り交じる。ドナルド・トランプ米大統領が27日に来日し、3日間の日程をこなすためだ。警察庁は「特別警備本部」を設置し、約1万8千人を動員。安倍晋三氏が3年前に奈良で銃撃され、トランプ氏自身も昨年ペンシルベニア州で襲撃未遂に遭った経緯を踏まえ、厳重警備が敷かれている。港区・赤坂の米大使館周辺には検問所も設けられた。
国賓警護の重責はあるものの、高市早苗首相にとって最大の難題は別にある。日本初の女性首相として「東京の鉄の女」と呼ばれる彼女は、公明党とのせめぎ合いや野党との権力闘争をくぐり抜けてきたが、いま直面するのは政治人生で最も厳しい外交上の賭けだ。しかも、トランプ氏と直接会うのは今回が初めてとなる。
ニューヨーク・タイムズ東京支局長のハビエル・C・ヘルナンデス氏は、高市氏について「トランプ氏のゴルフ熱とは違うが、それでも最も手強い権力者の一人をテーブルで扱う能力を備える」と評価。通商や安全保障で確約を引き出すうえで、安倍晋三氏の「遺産」を切り札にする構えだという。
安倍流の継承 次のトランプ語り部に
高市氏は安倍路線の忠実な継承者とみられる。戦略コンサルティング会社アジア・グループのミラ・ラップ=フーパー氏はNYTに「安倍氏のマントを肩に、アジアでの代弁者として信頼できるパートナーだとトランプ氏に印象づけるだろう」と語る。
安全保障では、日米同盟への再投資を促しつつ、日本の防衛費増額要求にただ追随するのではなく、中国の影響力拡大に対抗する方策を示す考えだ。経済面では、日本企業の対米投資(総額5,500億ドル)の監督・審査体制を強化する可能性も指摘される。
自民党内の強硬派として、高市氏はトランプ氏との関係で生じ得る懲罰的措置に耐えうる枠組みを構築できる人物との見方がある。杉山晋輔・元駐米大使は、安倍氏の支えを背景に「日米関係再構築の黄金の機会を得ようとしている」と述べる。
安倍氏の死は、自民党から影響力の大きい指導者を奪い、アジアはトランプ氏を巧みに扱う「舵取り役」を失った。安倍氏は「ゴルフ外交」や「ハンバーガーの友情」で知られ、繊細な感覚で関係を築いた。今回、トランプ氏はまず天皇陛下と会見し、翌日に赤坂迎賓館で高市氏と昼食をともにする予定だ。高市氏は安倍外交の遺産を手に、新たな対米関係の地図を引き直せるのか。台湾情勢が緊張を増すなか、その舵取りが試される。
「台湾有事は日本有事」の先に 米国の位置づけ
ニューヨーク・タイムズは、高市早苗首相が安倍晋三氏同様に改憲へ意欲を示し、軍事力の強化を前面に打ち出していると指摘する。トランプ米大統領が同盟国に求める防衛費の引き上げに応じ、高市氏は防衛費を迅速にGDP比2%まで拡大する方針を決定。日本が「筋肉質な同盟国」として能力を示す狙いだ。
高市氏は明確な「親台」姿勢で知られ、台湾の安全は日本の国益に直結すると明言してきた。今春には台湾を訪れ、賴清徳総統と会談。ランド研究所のジェフリー・W・ホーニング氏は、高市氏が日本の安全保障の観点から、トランプ氏の対台方針を直接確認しようとしているとみる。
日米通商の争点 悪魔は細部に宿る
通商面では、トランプ氏の対中貿易戦の文脈に加え、日本による対米投資総額5,500億ドルの取り扱いが焦点だ。資金の使途を巡る協議が続いており、訪日期間中の主要議題になる見通し。高市政権は資金の監督・管理を強化する構えだが、トランプ氏は「政策基金」としての活用を志向しているとされ、その綱引きが高市氏の交渉力を試す。
さらに高市氏は、安倍氏にならいトランプ氏との持続的関係の構築も目指す。ただ、一部の専門家は、トランプ氏が「米中の平和」を急ぐ展開となれば、日本は脆弱な立場に置かれかねないと懸念。前ホワイトハウスNSC上級スタッフのミラ・ラップ=フーパー氏は、高市氏が注視するのは日米首脳間のやり取りだけでなく、トランプ氏と習近平氏の会談が「順調すぎる」場合の影響だと指摘している。
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