淡路島に台南の味を──楊百泓さんと妻・中尾美嘉子さんが「台南家」を築く、山と海と小吃で旅人の心を癒やす

台湾南部にある台南出身の楊百泓さんと、大阪出身の妻・中尾美嘉子さんは4年前、兵庫県・淡路島に「台南家 TAINAN HOUSE」を開業した。本場の味と豊かな自然に囲まれた空間で、多くの旅人を惹きつけている。今回、『風傳媒』の取材に応じ、移住の理由や店づくりの背景、夫婦の思いを語った。

楊さんは「妻が大阪出身ということもあり、もともと関西には親しみがあった。子どもたちに自然で静かな学習環境を与えたいという思いもあった」と移住の経緯を振り返る。「各地を見て回り、ここは山も海もあり、工場も煙突も見当たらない。安心できる環境だと感じた」。

店名の「台南家」には、故郷・台南への思いと、台湾の人々にとっての「帰る場所」という意味を込めたという。「“台南家”の看板を見て、ふらりと立ち寄ってくださる方が多い。いま日本では“台湾料理”を掲げる中華料理店が増えているが、実際の味が台湾とかけ離れていることもある。だからこそ、本当の台湾の味、台南の小吃をそのまま提供したいと考えた」。

楊さんはこの15年、淡路島と台湾を行き来しながら生活してきた。一方の中尾さんは子育てに専念し、子どもが独立したことを機に「夫婦で好きなことを始めよう」と「台南家」プロジェクトが動き出したという。

「台南は、台湾の中でもとりわけ“食”に魂が宿る街。妻も4～5年は台湾で暮らし、私の母やご近所と一緒に生活する中で、台南の小吃をしっかり身につけてくれた。これが私たちの基盤になっている」。 （関連記事： 小豆島で台湾の味と温もりを届ける──日台夫婦が営む台湾料理店「agon」、その歩みと思い ｜ 関連記事をもっと読む ）

現在「台南家」では、魯肉飯、角煮包、葱パイなど、本場の味を忠実に再現した小吃を提供。ゲストハウスも併設している。「敷地には桜、紅葉、イチョウ、ブドウ、リンゴを植え、ヤギや猫も飼っている。淡路島での暮らしは、時間の流れをゆっくり味わえる」。

心に残るエピソードとして、台湾人の老夫婦の話を挙げた。「娘さんが当店の商品を見つけて実家に送ったそうです。『日本に来て何十年も経つが、こんなに本格的な台湾料理は初めてだ』と感激してくださった。自分たちの料理がきちんと伝わっていると実感できて、本当にうれしかった」。

また、台湾文化とおもてなしの心を日本の人々に伝えたいという。「台湾は台北だけでなく、台南という素晴らしい街があることも知ってほしい。台南を訪れたお客様から『台北とはまったく違って感動した』という声をいただく」。

淡路島については、「小さな島だが、明石海峡大橋や大鳴門橋で本州や四国とつながり、アクセスは良好。自然も豊かで、春・夏・秋の週末は多くの観光客でにぎわう。台湾でいえば花東の海岸線を走るような感覚。四季の移ろいを肌で感じながら、のんびり過ごせる」と語る。

今後の夢について、楊さんは「“桃花島”のような場所をつくりたい。春は桜の下でピクニック、秋は紅葉やイチョウを愛でながら季節の移ろいを感じられるように。約1000坪の敷地に木を植え、動物を育て、自然と共にある場を整えている。訪れた人が『癒やされた』と感じられる空間を目指したい」と話す。

最後に、日台の観光客へ向けて次のように呼びかけた。「私たちの家から神戸市内までは車で35分。神戸空港からは台北や台中への便も再開され、台湾からもぐっと近くなった。ぜひ一度、山と海に抱かれた淡路島の空気を吸いに来てほしい。 （関連記事： 小豆島で台湾の味と温もりを届ける──日台夫婦が営む台湾料理店「agon」、その歩みと思い ｜ 関連記事をもっと読む ）

ここで私たち台湾人がどのように暮らしているか、体感していただけたらうれしい」。

編集：田中佳奈 （関連記事： 小豆島で台湾の味と温もりを届ける──日台夫婦が営む台湾料理店「agon」、その歩みと思い ｜ 関連記事をもっと読む ）

世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版X：@stormmedia_jp