台湾・国民党主席選は激戦となった。台北市前市長の郝龍斌氏は「老害で退かない」との批判を浴び、現職の朱立倫氏との連携は密室政治・醤缸文化だとやり玉に挙がった。一方で郝陣営は、中広前董事長の趙少康氏が前線に立ち、選挙過程で外国勢力の介入があり、中国語訛りや簡体字の短編動画による中傷が横行したと主張。立法委員の羅智強氏も、党内選挙で彼が自ら撤退したとか「見捨てられた」といった流言が広がったと訴え、党主席選は混沌を極めた。
選後、党内では結束を求める声がやまず、台湾民意基金の世論調査では国民党支持率が3.3ポイント低下。混乱の矛先は台中市長の盧秀燕氏に向かい、党内で責任論が強まっている(同調査は游盈隆氏が設計・報告・解釈を担当、有効標本1070人、95%信頼区間で標本誤差±約3%)。

盧秀燕氏、郝龍斌氏支持を示唆も伝わらず 「政治不介入」に不満噴出
開票前から、党内では鄭麗文氏が当選した場合の党の行方を不安視する声があった。朱立倫氏系の桃園市議・凌濤氏は「年初に主席選を告げ、6~7月には出ないと言い出す。これがリーダーか。2028年に政権を取り返す力はどこにある。主席選の混乱の責任は誰が取るのか」と批判。名指しは避けたが、矛先は明らかに盧秀燕氏だ。
『風傳媒』によれば、郝龍斌氏は選挙終盤、「彼女」にも主席選に出てほしいと示唆し、その「彼女」とは盧秀燕氏を指す。ただ盧氏の郝氏支持の姿勢は、初回の会食に副市長の鄭照新氏らを同席させた程度にとどまり、これで「支持」を示したつもりだったことに、党内は驚いた。一般支持者や党員の多くも、盧氏が郝氏側に立っていたことに気づかなかった。

全候補と会食で「台中のバフェット」? 皮肉と不安が交錯
盧秀燕氏は最後の候補・蔡志弘氏ともカレーを囲み、これが党内で大きな反発を招いた。国民党の行方が「烙賽」(下痢。カレー色への当てこすり)だと揶揄され、盧氏自身の2028年出馬にも暗雲との声が広がる。6人全員と食事をした振る舞いに不満が噴出し、米投資家ウォーレン・バフェットの「チャリティーランチ」を引き合いに「台中のバフェット」と冷笑する向きも。
バフェット・ランチは高額寄付で同氏と会食できる催しで、2022年の最終回は1900万ドル(約285億円)まで跳ね上がった。国民党の主席選出馬には1,320万元(約6,500万円)が必要なため、党内では香港映画『賭神』の名台詞「誰でも300万米ドル(約4億5,000万円)で慈善ポーカーに参加できる」をもじり、「1320万台湾元あれば盧秀燕氏と食事できる」と痛烈に風刺している。 (関連記事: 舞台裏》鄭麗文氏が当選、盧秀燕氏は複雑? 台湾・次期大統領は不透明のまま 国民党の「次の内紛」が始まる | 関連記事をもっと読む )

盧秀燕氏、終盤で危機感を抱くも動きが遅れる
選挙戦が最終盤に入っても郝龍斌氏の情勢は上向かず、国民党の将来を案じる多くの党員が台中市側に「鄭麗文氏の当選が目前だ」と相次いで伝えていた。盧秀燕氏のもとにも反応やメッセージが多数届き、鄭麗文氏の当選が党の先行きに与える悪影響、とりわけ江啟臣氏や朱立倫氏が段階的に修正してきた親米路線が損なわれかねない点を強調する声が強まった。盧秀燕氏はこの時点で周辺の幕僚に「本当に鄭麗文氏が勝つのか」と確認している。