舞台裏》鄭麗文氏が当選、盧秀燕氏は複雑? 台湾・次期大統領は不透明のまま 国民党の「次の内紛」が始まる

2025-10-20 17:39
鄭麗文氏(写真)が国民党主席に当選し、党内の親中派が全面的に権力を掌握する時代の到来を告げた。(写真/顏麟宇撮影)
鄭麗文氏(写真)が国民党主席に当選し、党内の親中派が全面的に権力を掌握する時代の到来を告げた。(写真/顏麟宇撮影)
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任期が2026年・2028年の二度の大型選挙にまたがる台湾の国民党主席選の結果が10月18日に判明し、注目度が低かった元立法委員の鄭麗文氏が、深藍(国民党の保守強硬派)や軍系党員、旺中グループ(親藍メディア)の後押しを受け、郝龍斌元台北市長を投票率で上回って当選した。選挙戦は終わったものの、舌戦と相互攻撃が激しく、支持表明した論者まで巻き込んだことで、党の分裂は深刻化しイメージも大きく傷ついた。とりわけ鄭氏の勝利は、党内の親中派が主導権を握る局面の到来を示す。一方で、2026年の地方首長選、2028年の総統・立法委員選では、親中色を鮮明にせざるを得ない国民党が、民意の厳しい審判に直面する可能性が高い。

深藍や軍系党員、さらに中天の親藍系論者の間では、鄭氏が郝氏を破ったことは、若い改革派が藍営のベテラン体制派に打ち勝ち、国民党が「長年の歪み」から「正道」へと軌道修正した歴史的勝利だと受け止められている。「女版・韓国瑜」とも呼ばれ、弁舌と動員力に長けた鄭氏は、突如現れた藍営の新たな“救世主”だという声も強い。熱烈な支持者の一人は、「この十数年、『私は中国人だ』と公然と語った党主席が誰か。呉敦義氏、朱立倫氏、江啟臣氏らが権力を握っていた時ですら『中国』の二文字すら避けていた。中国国民党の主席を名乗る資格があるのか」と手厳しい。

20191019-国民党の総統選候補者である高雄市長韓国瑜が台南市水萍塭公園で行った初の選挙集会では、支持者が大きな旗を掲げて強い支持を表明。
鄭麗文氏の当選は、国民党が今後も親中色の強い候補を生む可能性を示すと同時に、台湾の民意という厳しい試練への向き合い方を迫る出来事となった。(写真/新新聞林瑞慶撮影)

信じ難い鄭麗文氏の当選 親中路線は国民党の難題に

深藍や軍系党員が期待を寄せる一方、多くの現職の国民党系首長や立法委員には、鄭氏の当選は受け入れ難い現実だ。党を破滅へ導きかねない「大災厄」と見る向きもある。台北市の国民党市議は、来年の統一地方選で党が苦戦すると予測。「もし鄭氏が党首になれば、2026年の市長選候補は『あなたは中国人か』という問いに向き合わざるを得ない」と語る。中国人と答えれば即座に批判が集中し、中間層や若年層の支持を失う。他方で否定すれば、党首との矛盾を突かれ、党内対立の火種となり得る。

南部のある自治体で勝利が見込まれる国民党の有力候補も、党主席選では中立を保っていたが、鄭氏の当選後、地元支持者に「控えの代替候補を探しておくべきだ」と伝えたという。親中路線では中南部での勝算が乏しく、無益な消耗戦を続けるより早期撤退を選ぶ判断だ。

選挙支援の実務を担う党内の重鎮は、鄭氏がこれまで党内の選挙で成果を積んでおらず、政績の裏付けも薄いため、新世代の小選挙区当選組が必ずしも忠誠を誓わないと見る。一方、洪秀柱氏は複数期の小選挙区当選、党副主席や立法院副院長の経験で存在感は大きかったが、対中路線で支持が広がらず、主席を約1年半で退いた。何より重要なのは、鄭氏が党の象徴的存在として注目を集めつつも、2026年の地方選では、対中路線と一定の距離をとる候補がいれば勝機は残るという点だ。 (関連記事: 人物》台湾・国民党に波紋――元民進党で台湾独立を掲げた鄭麗文氏、郝龍斌氏を破って新党首に 関連記事をもっと読む

20251016- 鄭麗文主席候補者(左)が前主席の洪秀柱(右)を訪問。
親中路線を掲げた洪秀柱氏(右)は短期で退いたが、鄭麗文氏(左)は八徳路の党中央から実効的に指示を出せるのかが焦点だ。(写真/蔡親傑撮影)

藍営の親中派を後ろ盾に 公認権を握り将来選挙を主導

これに対し、元党高官は異論を唱える。洪氏が主席に就いた当時、世論面では旺中の支援があったものの、個人主義的で基盤が弱く、地方の支持も乏しかったうえ、党中央も十分に敬意を払っていなかったという。鄭氏は事情が異なる。過半の得票で4年の任期を得ており、CK楊氏が外交政策を再構築。洪氏の勢力も鄭氏に合流し、元秘書長の李乾龍氏、桃園市議会議長の邱奕勝氏ら地方勢も支援に回る。加えて、旺中グループの後押し、親藍系の論者、韓粉(韓国瑜氏を強く支持するコア支持層を指す呼称)、深藍や軍系党員が取り巻き、藍営全体が後盾となって党機構の掌握を強めている。

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