一文でわかる「内巻地獄」 EVから太陽光まで過当競争が中国をのみ込む なぜ習近平氏は介入せざるを得ないのか

2025-10-20 18:00
2025年10月9日、雨上がりの北京南鑼鼓巷、観光客がこの人気観光エリアを行き来する様子。(AP通信)
2025年10月9日、雨上がりの北京南鑼鼓巷、観光客がこの人気観光エリアを行き来する様子。(AP通信)
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「内巻化」が中国経済を覆う最大の影となっている。行き過ぎた競争が“下方への突進”を招き、企業の利幅を削り、労働者を疲弊させ、第2の経済大国をデフレの悪循環へと引きずり込む。EVの値下げ合戦が激化し、太陽光パネルの生産能力は世界需要の2倍――この不条理な消耗戦は経済問題にとどまらず、地政学の火種にもなりつつある。習近平国家主席は「反内巻化」を中核課題に掲げるが、自らが築いてきた経済モデルの見直しを果たせるのかが問われている。

「内巻化(Involution)」は本来、文化人類学の概念で「発展なき内部の複雑化」を指す。2020年以降、中国のネットで急速に広まり、当初は若者が教育・職場で感じる「皆が死に物狂いで頑張ってもパイは大きくならず、分け方だけが巧妙になる」という徒労と倦怠を指した。ところが数年でこの語は、個人の嘆きから国家経済の難局を言い表すキーワードへと変貌。利益を食い潰し、苛烈な労働競争を誘発し、デフレスパイラルを加速させる“巨大な内部摩擦”の象徴となっている。

本質は「千を殺して八百を傷つける」ゼロサムの競り合いだ。ハイテクから日用消費まで企業は狂気の値下げに呑み込まれ、“流血”が常態化。国内で余剰を消化できなければ、低価格品が津波のように海外に流れ、各国は自国産業への打撃に強く反発する。米中の通商摩擦も再燃の様相を見せる。

米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は18日、トランプ政権が中国経済の「内巻化」という脆弱性を見据え、交渉で中国を不利にし得ると指摘。対中の標的関税で一段と痛みを与えるだろうと報じた。北京の最高意思決定層も黙視できず、中共中央政治局会議から党機関紙の社説まで“反内巻化”の号令が相次ぐ。ただし、極めて難しい均衡を迫られる闘いでもあり、国家の行方を左右するジレンマが横たわる。

「寝そべり」は贅沢か 「996」から「007」へ、社会全体の消耗戦

中国の「内巻化」は産業競争にとどまらず、社会に蔓延する集団疲労を映す。マックス・プランク社会人類学研究所の項飆氏は「ゲームの意味が失われ、崩れ、疲弊している。抜け出したくても皆が同じことをしているから抜けられない」と指摘。IT業界で批判される「996」(9時〜21時、週6日)は、ネットではさらに自虐的に「007」(0時〜24時、週7日)と揶揄される。

報われない努力が“淘汰回避”のためだけに費やされるとき、内巻化は始まる。いまやそれが産業規模で再現され、同質化競争が資源を呑み込み、業界利益を薄め、誰も勝者になれない。 (関連記事: イギリス議会、中国スパイ疑惑を受け「中国市民の立ち入り制限」を検討 下院議長が安全強化に言及 関連記事をもっと読む

割喉の値下げ合戦 EVの価格が「骨」まで削れる

『ウォール・ストリート・ジャーナル』が指摘するように、中国の内巻化の渦中にいるのは、北京が近年手厚く育ててきた「新三品」――電気自動車、太陽光パネル、リチウム電池だ。本来は産業高度化を牽引する“次のエース”と見なされたが、今や内巻化の「重災区」と化している。

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