日本自民党の第29代総裁に就任した高市早苗氏は、3度目の挑戦でついに党のトップに上り詰めた。26年にわたって続いた自公連立は公明党の離脱によって終止符を打ったものの、自民党はわずか1週間足らずの集中協議を経て、国会第3党である日本維新の会との連立に成功。これにより、高市氏は念願の首相官邸入りを果たした。
安倍晋三元首相を「政治の師」と仰ぐ高市氏は、首相就任の半年前に台湾を訪問。さらに3か月前には極秘に来日した台湾の外交部長・林佳龍氏とも会談している。高市氏はかねてから台湾に親しい政治家として知られ、今回タッグを組んだ日本維新の会も「台湾支持の姿勢は変えない」と明言してきた。高市政権の誕生は、果たして台日関係をさらに前進させることができるのだろうか。
日本は最近、参議院選挙と自由民主党総裁選を経て、政局が大きく動いた。石破茂前首相(左)が退陣し、高市早苗氏(右)が後任として政権を引き継いだ。(写真/AP通信提供)
日本初の女性首相・高市早苗 安倍の遺志を継ぎ台湾支援を表明 東京都霞が関西側の永田町にある首相官邸に入った高市氏は、石破茂氏の後を継いで日本初の女性首相となった。外相や防衛相などの閣僚人事を発表したが、その政策の全容はまだ見えていない。
注目すべきは、高市氏が自民党史上初の女性総裁であり、同党政策責任者である政務調査会長も務めた初の女性政治家である点だ。政調会は政策立案や審議を担う自民党の中枢組織であり、高市氏は岸田文雄政権下で政調会長として「台湾など普遍的価値を共有するパートナーとの連携強化」や「台湾のCPTPP加盟支持、WHAへのオブザーバー参加を歓迎する」など、台湾を明確に支援する政策を公約に盛り込んだ。
また、高市氏は政調会長時代、「安倍晋三氏の遺志を確実に継ぎ、台湾との関係をさらに強固にする」と公言。友好関係のみならず、政策面での協力を深めることで相互の安全保障を高める必要があると訴えた。
自民党総裁選の期間中には、米国のシンクタンク「ハドソン研究所(Hudson Institute)」からの質問に対し、「台湾海峡の平和と安定は日本にとって極めて重要」と明言。中国の指導者とは「率直で現実的な対話」を望むとし、「台湾問題を武力や威圧によって一方的に変えることは断じて許されない」と強調した。その上で「台湾は日本にとってかけがえのない友人であり、基本的価値を共有する重要なパートナーだ」と改めて語った。
高市早苗氏は「安倍晋三氏(写真)の遺志を継承する」と強調しています。(写真/AP通信提供)
維新との連立で新局面 高市政権は台湾に新たなチャンスとなるか 安保政策で穏健路線を取る公明党に対し、日本維新の会は防衛力強化を重視する姿勢が自民党に近い。台湾外交部によると、2021年に日本の参議院が「WHOにおける台湾問題の処理」を求める決議を全会一致で採択したことが象徴するように、台湾への支持は日本国内で超党派の共通認識となっているが、各党の「台湾支持度」には微妙な温度差があるという。
公明党の議員も「日華議員懇談会」に参加し、台湾を訪問しているが、日本維新の会の関係はより積極的だ。2023年には、当時の党代表・馬場伸幸氏が自ら率いる代表団を台湾に派遣し、蔡英文総統や立法院長の游錫堃氏、外交部長の呉釗燮氏らと会談。国際情勢、経済安全保障、台日協力など幅広い議題について意見交換を行った。
台湾外交部は「日本維新の会は日本第2の野党であり、極めて台湾に友好的」と評価。同党は花蓮地震の際に1000万円を寄付するなど、実質的支援も行っている。蔡英文総統も「日本維新の会は台湾の重要な友人であり、国会で常に台湾のために尽力してくれている」と感謝の意を表した。
「台湾の平和は日本の平和」 維新が示す一貫した親台姿勢 現在も日本維新の会の顧問を務める馬場伸幸氏は、かつて台湾訪問中に「台湾の平和は日本の平和であり、台湾有事は日本有事だ」と述べた。また、「日台の情報共有を実現するため、憲法改正や立法などあらゆる手段で努力すべき」と主張。
馬場氏はさらに「台海の緊張は高まり続けているが、日本維新の会の“台湾支持”の立場は変わらない」と明言。「日本は日米同盟の枠組みのもとで『台湾有事』を防ぎつつ、台湾の国際機関参加やCPTPP加盟を後押しし、台湾の国際的地位を高める」と強調した。
馬場氏の後任である現党代表・吉村洋文氏も、大阪市長在任中に台湾を訪問した経験を持つ。こうした人脈と姿勢を踏まえると、高市政権下での台日関係は、これまで以上に実務的かつ戦略的な協力関係に発展していく可能性がある。
日本維新の会と高市早苗氏(右中央)は合意に達し、連立与党を結成することで協力することになった。(写真/日本維新の会フェイスブックより)
高市早苗氏、足取りは軽快 元暴走族でヘビメタ好きの異色首相 4月28日、高市早苗氏は訪台団を率いて台湾を訪問。2日目には外交部で林佳龍外交部長による昼食会に招かれ、午後には白の抽象柄ジャケットに黒のスーツスカート、黒のハイヒールにパールのネックレスという洗練された装いで、「2025国際政経フォーラム」に登壇した。講演では原稿を一切見ず、明快な論理と正確な時間配分で演説を行い、会場を魅了。タイトなスケジュールのためか、入場や登壇の際には常に足早に動く姿が印象的で、日本政界の“大物政治家”像を覆した。
閣僚歴最長は総務大臣だが、多岐にわたる経歴を持つ。少子化対策や男女共同参画、食品安全、沖縄・北方領土対策、知的財産戦略、科学技術、宇宙政策、クールジャパン戦略、経済安全保障など、数々の特命担当大臣を歴任し、政策運営への深い理解を培ってきた。同日の講演では、台日両国が半導体、AI、量子技術、宇宙、新エネルギー分野で協力できる可能性をスムーズに語り、先端技術への深い造詣を示した。外部から「政策通」と評される理由がうかがえる場面だった。
政治家一家ではない高市氏は、裕福ではない家庭に育ち、学費を弟に譲るため進学を断念。地元・奈良に近い国立神戸大学に進学し、毎日6時間通学していた。学生時代はヘビーメタルバンドのドラマーを務め、バイクで疾走する「暴走族」としても知られる異色の経歴の持ち主。政治家となってからも、靖国神社参拝を貫き、岸田政権に正面から異を唱えるなど、常に独自の姿勢を崩さない。党内でも一目置かれる存在だ。
4月28日に台湾を訪れ、フォーラムで台日関係について演説する高市早苗氏(写真/劉偉宏撮影)。
官僚主導の日本政治 首相でも独断は許されない 高市氏は英国の元首相マーガレット・サッチャーを敬愛しており、近年は「日本の鉄の女」と呼ばれることも多い。政調会長時代には自ら政策文書を作成し、首相に相談せず発表することもあったとされる。しかし、彼女の“強さ”と“安倍イズムを継承する親台姿勢”は、首相となった今後も貫かれるのだろうか。
台湾政府関係者は「国会議員の高市早苗氏と、首相としての高市早苗氏は全くの別人」と指摘する。日本は官僚主導の体制が強固で、首相といえども個人的な好悪で外交政策を動かすことはできない。外務省が策定する対中・対台方針を無視することは不可能だという。「安倍路線を継承して台湾との友好を深めることは確実だが、外務省の提言を完全に無視して“親台一直線”とはならない。日本の外交は保守的で、緻密な官僚システムに支えられている」との見方を示した。
さらに、台湾と日本は相互に第3・第4の貿易相手国だが、中国は依然として日本にとって第1〜2位の取引相手である。台湾政府の知日関係者は、高市政権でも北京との交流は避けられないと分析。 領土問題や歴史認識をめぐり、日中間には国民感情のわだかまりが残るものの、元日台交流協会台北事務所代表で駐中国大使も務めた垂秀夫氏が提唱した「戦略的互恵関係」が依然として経済関係の基礎にあるとし、「日中関係は緊張を抱えながらも、実利を重んじる現実主義が続く」と結論づけている。
日本の行政機構では官僚の影響力が極めて強く、高市早苗氏が首相に就任したとしても、外交面では外務省の方針を尊重せざるを得ない。(写真/AP通信提供)
日本、対台湾政策で「門戸緩和」の兆し 8年ぶりに副大臣が相次ぎ訪台 日本の政権交代にあわせ、対台湾外交にも微妙な変化が見られている。9〜10月の自民党総裁選と首相交代で揺れる中、日本の農林水産副大臣・滝波宏文氏、環境副大臣・中田宏氏が相次いで台湾を訪問。安倍晋三政権下での前例以来、約8年ぶりに現職の副大臣が台湾の地を踏んだ。日本政府は長年、「政務三役」級以上の官員による台湾訪問を事実上自制してきたが、前首相・石破茂政権の終盤から新首相誕生までの空白期に、その“タブー”が緩和されつつある。
2017年3月下旬、当時の総務副大臣・赤間二郎氏が日本台湾交流協会主催の文化イベント開幕式出席のために台湾を訪問した。交流協会は当時、公式サイトでこの訪問を一切触れず、広報でも日本人俳優の出演のみを強調。赤間氏も台湾政府関係者とは接触しなかった。 しかし台湾外交当局は、交流協会の会長や代表ではなく、副大臣級の人物が来台したこと自体が日本側の「台湾重視」を示す動きだと分析。中国外交部はこの訪問に強く反発し、正式に抗議を行った。
それから8年あまり。自民党が参院選で苦戦し、石破首相が党内の圧力に直面する中、滝波宏文氏は9月4日に参議院議員として3日間台湾を訪問。台北で開かれた「台湾スマート農漁業ウィーク」に出席し、立法院副院長の江啓臣氏や、前駐日代表の謝長廷氏、前総統の蔡英文氏、米国在台協会(AIT)台北事務所の谷立言(レイモンド・グリーン)所長らと面会した。 滝波氏は台湾人の妻を持つ「台湾女婿」として知られ、日本の戸籍に「台湾」と記載できるよう尽力した人物でもある。しかし今回も赤間氏と同様、現職閣僚との接触は避け、慎重な姿勢を貫いた。
前日本総務副大臣の赤間二郎氏(左から2人目)は、2017年に台湾を訪問した。当時の日本台湾交流協会台北事務所代表・沼田幹夫氏(右から2人目)、亜東関係協会会長・邱義仁氏(右端)も同席していた。(写真/黄麒珈撮影)
林佳龍氏、外交部長として訪日 日台関係は水面下で進展 滝波氏の 訪台 から1カ月後、10月13日には環境副大臣の中田宏氏(非再選)が来台。日本メディアによると、中田氏は「政務上の立場」での訪問であり、国連環境計画(UNEP)が主導する海洋プラスチック汚染防止条約交渉に関する情報共有が目的だったという。台湾はUNEPに加盟していないため、中田氏は8月にスイス・ジュネーブで行われた政府間会議の内容を踏まえ、与党民進党関係者と実務的協力を協議した。 台湾外交部は職員を同行させたが、中田氏もまた慎重を期し、旧知の民進党議員と面会したのみで行政官との接触は控えた。
赤間氏が安倍政権 時代に築いた先例は45年ぶりの慣例打破だったが、滝波氏・中田氏の相次ぐ訪台も、日台外交の「新たな積み重ね」として注目される。外交関係者は「現職副大臣の訪台が続くことで、将来の訪問ハードルは確実に下がる。外交の突破口は一気に開くものではなく、ゆるやかな“波紋”のように広がっていく」と述べる。
一方で、「外交において悪い前例は将来的な障害になる」とも強調。そのため慎重な積み上げこそが信頼を生むという。実際、7月下旬には台湾の林佳龍外交部長が極めて静かに日本を訪問。双方の信頼関係の上に築かれたこの訪問は「外交の良例」として高く評価された。日本政府は形式上、副総統・行政院長・外交部長・国防部長といった台湾の「五長」の訪日を禁止していないものの、事前通告を数カ月前に求めている。台湾側は林部長の訪問計画を早期に通達し、結果的に日台間の信頼を一段と深める成果を残した。
林佳龍氏(左から三番目)が外交部長として日本を訪問した際、高市早苗氏(右から二番目)と会見した。(写真/古屋圭司氏フェイスブック提供)
日本と台湾、災害時に首相・総統が相互に慰問 世界でも極めて異例の関係 日本と台湾の関係は、静かな波紋のように着実に広がりつつある。人的往来の活発化に加え、国際社会における日本の台湾支持も年々明確化している。特に、台湾の世界保健機関(WHO)および世界保健総会(WHA)参加をめぐっては、安倍晋三政権下の外相・河野太郎氏が初めて公に支持を表明。続いて官房長官の菅義偉氏も「国際保健に地理的な空白を作るべきではない」と発言した。さらに安倍首相自身も国会答弁で「台湾を支持する」と明言している。 その後も菅義偉氏、岸田文雄氏、石破茂氏が相次いで首相として台湾支持を表明。発言は国会外にも広がり、ついにはWHO執行理事会の場で台湾への支援を直接訴えるまでに至った。
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台湾との深い縁で知られた安倍晋三氏は、在任中に「災害発生時には日本の首相と台湾の総統が互いに慰問する」という先例を築いた。その後を継いだ菅義偉氏、岸田文雄氏、石破茂氏も同じ対応を続けている。外交関係者によれば、「日本のように行政トップが災害のたびに台湾へ直接慰問を送る国は、世界的に見ても他にほとんど存在しない」という。さらに安倍政権以降、菅氏と石破氏は公の場で台湾を「国家」と呼び、中国政府の強い反発を招いた。岸田氏も「台湾は重要なパートナーであり、かけがえのない友人だ」と発言。台湾の頼清徳総統に向け、「日台の絆は今後さらに深まると信じている」と呼びかけた。
近年、日台関係は活発化しているものの、正式な外交面での交流は依然として慎重な歩みを重ねている。(写真/顏麟宇撮影)
「親台」高市早苗氏の現実 理想と現実の間にある壁 とはいえ、日本はしばしば「米国の弟分」と評されるが、1972年に台湾と断交した日本は、1979年に断交した米国よりも対台関係に厳しい制約を抱えている。米国が『台湾関係法』と「対台湾6つの保証」で法的裏付けを持つのに対し、日本は断交後、北京の意向に全面的に歩調を合わせ、台湾との関係に法的根拠を持たない。 当初、日本は「亜東関係協会」や「公益財団法人交流協会」といった名称でしか台湾と接触できず、国交断絶直後の交流は「ぎこちないもの」だった。民間や地方レベルでは良好な関係が築かれてきたものの、中央政府間の往来は依然として慎重さを保っている。
断交当初、両国間には1件の姉妹都市協定すら存在しなかったが、現在では日本の都道府県を含め200を超える友好都市関係が構築されている。中央・地方を合わせ、毎年数百名の議員が台湾を訪問しており、これらは長年にわたる民間交流の積み重ねの成果である。外交関係者は「政治レベルの交流は依然として国会中心。政府間の直接的な往来や格上げにはまだ困難が伴う」と指摘する。
日台関係の未来 焦らず、一歩ずつ 日本の行政機構はいまも霞が関の官僚が主導しており、台日関係の発展には段階的な積み重ねが不可欠だ。外交当局者は「関係は水面に広がる波紋のように、ゆっくりと着実に進むもの。高市早苗首相になったからといって、すぐに劇的な進展があるとは限らない」と語る。 「彼女の台湾への友好的な姿勢は理解しているが、一足飛びに関係が深まると思うのは早計だ」とも述べた。
さらに、家系継承と男性主導が根強い日本の政治文化において、高市早苗氏は自民党が危機に直面する中で登場した「異例のリーダー」である。だが、短期間で日本維新の会と連立を組んで新政権を樹立した現状を踏まえると、内外に多くの課題を抱える自民党と日本全体の中で、高市政権がどこまで歩みを進められるかは、いまだ未知数である。