「ガラスの天井」を破った高市早苗氏 女権の旗手か、自民党の傀儡か 上野千鶴子が「期待しない」と語る理由

2025-10-21 18:19
高市早苗氏の自民党総裁選のキャンペーン宣伝。(画像/高市早苗フェイスブックより)
高市早苗氏の自民党総裁選のキャンペーン宣伝。(画像/高市早苗フェイスブックより)
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日本は職場でも政治でも女性が長らく周縁化されてきた。だが、自民党と日本維新の会が「閣外協力」で一致したことで、21日の特別国会では史上初の女性首相・高市早苗氏の選出が見込まれている。保守陣営の「鉄の女」を偶像視する向きがある一方で、女性の権利をめぐっては賛否が交錯。社会学者の上野千鶴子氏は、高市政権が日本女性を縛ってきた政策を温存しかねないと懸念を示し、政敵は党内の重鎮による「傀儡」、いわば大物派閥の「花嫁」だと批判する声もある。

一方で、多くの日本の女性は、高市氏が「強い女性リーダー」の像を定着させ、保育サービス拡充など家族に寄り添う政策を前に進めることに期待を寄せる。大妻女子大学の学生、皆川光さん(19)はニューヨーク・タイムズに「日本では初めてのこと。女性が政治家や議員になりやすくなり、自信を持って政治の世界に踏み出せるようにしてほしい。高市さんは強くてクール」と語った。

名古屋大学で政治学とジェンダーを研究する武田宏子教授は日本経済新聞に、高市氏の登場は国際評価の向上につながると指摘。世界経済フォーラム(WEF)の「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」には「過去50年の女性国家元首在任比率」という指標があり、女性首相の誕生は日本がこの分野で存在感を示すうえで有益だという。現実に女性トップが生まれれば、「ロールモデル効果」も期待できる。

性の視点が残す謎 非典型の女性リーダー像

ただし、ニューヨーク・タイムズは高市氏のジェンダー観は複雑で、本人も自らをフェミニストとは位置づけていないと指摘する。サッチャー元英首相やメローニ伊首相など保守系の女性指導者と同様、高市氏の政策の一部は批判者には女性の権利を後退させるものに映る。たとえば夫婦同姓を義務づける百年前の枠組みの見直しに反対し、皇室の男系継承の維持を支持してきた。

こうした立場から、研究者やアクティビスト、政治家の間では「高市政権下でも日本の女性の置かれた状況は実質的に変わらないのでは」との懸念が根強い。若者団体「No Youth No Japan」を立ち上げた能條桃子氏は毎日新聞に、「選出自体は非常に象徴的だが、自民党の幹部や有権者の保守的なイデオロギーを踏まえると、女性の状況が好転するとは思えない」と語る。「彼女は“最初の一歩”を踏み出した女性ではあるが、男女平等を阻むことでその地位に到達した。大きな前進を実証することはないだろう」とも述べた。 (関連記事: 歴史的瞬間 日本初の女性首相・高市早苗氏が第104代首相に就任 自民・維新連立で新政権発足 関連記事をもっと読む

武田教授も高市氏のキャリアを振り返り、野田聖子氏(2021年の総裁選で高市氏とともに出馬、最終的に岸田文雄氏に敗北)のように、超党派で女性議員の比率を引き上げる運動を主導してきたタイプではないと強調。むしろ男性が圧倒的多数を占める自民党の派閥政治の中で、「わきまえる」(状況を読み、道を選ぶ)という生存の知恵を発揮してきたとみる。組織の不文律に合わせ、折り合いをつけることで、複雑に張り巡らされた男性中心の権力ネットワークを上り詰めてきた、という評価だ。

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