なぜ「台湾地位未定論」で「台湾光復」ではないのか 台大・張登及教授が語る、戦後東アジア秩序に残った「欠口」

台大・張登及教授が18日、長風基金会の講座に出席。(写真/顏麟宇撮影)
台大・張登及教授が18日、長風基金会の講座に出席。(写真/顏麟宇撮影)
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今年は第二次世界大戦・対日戦勝から80年に当たる。ただ、台湾では立場の違いにより「80周年」への受け止めも分かれる。民進党政権や独立派の従来の主張の一つは、戦後に台湾の主権地位は確定していないというもので、略して「台湾地位未定」とされ、「台湾光復」とは位置づけない。

この点について、国際関係の研究者は、現実の国際政治の文脈で見れば「台湾地位未定論」は、戦後東アジア秩序に残った“穴”の一つであり、固定化しきれなかった戦後秩序とも連動していると指摘する。同時に、戦後東アジアの権力構造と国際秩序の変容とも関わるとされる。

20251018-前政大歷史系教授劉維開18日出席長風基金會講座。(顏麟宇攝)
前・政大歴史系教授の劉維開氏が18日、長風基金会の講座に出席。(写真/顏麟宇撮影)

「台湾地位未定論」はなぜ存続するのか?

「台湾地位未定論の争議」が土曜午後、集思台大会議中心で開かれた。会場には百人超が集まり、活気に満ちた。登壇したのは、国立政治大学・歴史系の劉維開退職教授と、国立台湾大学・政治系の張登及教授。両氏は歴史と国際関係の視点から、台湾が中華民国に帰属する歴史・国際法上の根拠と、列強のパワーゲームの背景を整理した。

国際秩序の論点について張氏は、米国が安全保障と法理の両面で対中「戦略的曖昧さ」を採っているため、ワシントンにはなお「未定論」を留保する立場があると説明。一方で北京は未定論を強く否定し、両岸が参加していない1952年のサンフランシスコ講和条約を無効と位置づけているという。

さらに張氏は、北京が「国家継承論」を用い、台湾の主権・統治権が中国本土と切り離され得るとの議論を抑え込もうとしていると分析。これに対し台湾側の見解は一枚岩ではなく、(中華人民共和国が中華民国の主権を継承したとする)北京の継承論を退ける立場や、台湾独立の法理的余地を残すため「台湾地位未定論」を支持する立場など、複数の立場が併存していると指摘した。

旧サンフランシスコ条約
1952年に署名されたサンフランシスコ講和条約の資料写真。(画像/Wikimedia Commons)

また、もし第二次大戦で連合国の最終勝利がなく大日本帝国の統治が続いていれば、台湾は満洲や朝鮮と同様に脱植民地化を果たせず、その後の民主化・工業化の機会もなかっただろう。琉球の歴史を踏まえても「台湾光復の意義は肯定されるべきだ」と述べた。

加えて、1945~1971年、1972~1979年の各期に、国連・米国・日本はいずれも台湾を実効管轄する中華民国政府と公式関係を長期に維持してきた経緯がある以上、列強の“善意”やサンフランシスコ体制に由来する構造・地理要因に依拠する必要はなく、「台湾地位未定論」という自己否定的な立場に固執する必然もないと強調した。

最後に張氏は、台湾が「主権はいまも未定だ」という立場を強めれば、秩序は不安定化し予測可能性が低下、列強の戦略的不安や防衛コストが増大し、結果として台湾の現状変更を加速させかねないと結んだ。 (関連記事: 花俊雄の視点》誰が「台湾地位未定論」を煽っているのか 関連記事をもっと読む

1960年、アイゼンハワー大統領が台湾を訪問、当時の中華民国総統蔣中正と夫人宋美齢が歓迎。(図/取自Wikimedia Commons)
1960年、アイゼンハワー米大統領が台湾を訪問。中華民国の蔣介石総統と宋美齢夫人が出迎えた。(画像/Wikimedia Commons)

米国はなぜ「台湾地位未定論」を再び持ち出すのか

近時、米国在台協会(AIT)と国務省が「台湾地位未定論」に関して記者団の問いに応じた件について、張登及氏は『風傳媒』の取材で説明した。米政府が「未定論」に言及するのは今年に限った特殊事例ではなく、ジョージ・W・ブッシュ政権下の2007年にも同様の議論が浮上しているという。

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