トランプ政権「米台半導体五五分」構想　TSMC投資が台湾経済を空洞化させる危機

米国が打ち出した「米台半導体製造五五分」構想を受け、台湾の産業界と学界では影響の洗い出しが加速している。複数の専門家は、これは単なる生産配分の問題ではなく、米国が経済効率よりも国家安全保障を優先する姿勢を示すシグナルだと指摘する。もしTSMCが米国での生産拡張を強いられ、五五分のバランスが求められれば、資本・人材・サプライチェーンが移転し、最終的に台湾国内の投資活力を奪う恐れがある。さらに敏感なのは、台湾が長年にわたり世界の先端半導体製造の9割以上を掌握してきたという優位性である。この「シリコンシールド」が再定義されれば、台湾は短期的な分散コストと長期的な安全保障の利益を戦略的に秤にかけざるを得ない。

生産集中リスクを名指し　米国のリショアリングと正面衝突

財信メディア董事長の謝金河氏は、米国の最新の発言の本質は「台湾の半導体生産能力が過度に集中しているため、米国へ分散させる必要がある」という警告だと分析する。これはトランプ政権が掲げるリショア（産業回帰）政策と軌を一にする。謝氏は「トランプは常に“ディール”の手法を取る。台湾が現在約20%の関税を15%以下に下げたいと望むなら、代償を支払う準備が必要だ」と強調した。さらに「ルートニックが登場したのは、台湾にとって“時が来た”という合図だ」とし、TSMCが新しいルールの下で世界的な地位を維持できるかどうかが鍵になると述べた。

安全保障は効率に優先　「シリコンシールド」の再定義

台湾経済研究院の劉佩真総監は、「半導体製造五五分」という構想は単なる割合の問題ではなく、米国が「国家安全保障を純粋な経済効率よりも優先する」という明確なメッセージだと指摘する。米国は台湾を「独占的サプライヤー」から「不可欠な技術同盟国」に転換させ、地政学リスクを分散し、戦略的な結び付きを強化しようとしている。だが、安全保障のリターンはコスト増と効率低下を伴う。台湾が先端製造の中核を握ってきた事実は、交渉のカードの使い方を変えることを意味する。台湾は短期的な産能移転の損失と、中長期的な安全保障・国際的役割の格上げを同じテーブルで評価する必要がある。（関連記事：米国「半導体は台湾と五五分に」　ルートニック商務長官が供給網再編を要求、シリコンシールド論に異議｜関連記事をもっと読む）

5000億ドル規模の重圧　投資・人材・供給網への波及

中央大学経済学科の呉大任教授は、もしTSMCが米国での拡張に5000億ドルを投じざるを得なくなれば、台湾の投資活力を掘り崩し、内需や雇用を直撃すると警鐘を鳴らす。サプライチェーンも無傷では済まない。上流の装置・材料から下流の封測や先端パッケージまで米国に引き寄せられれば、台湾の集積効果は崩壊し、歩留まりの学習曲線や工場間協業の効率、コスト構造が構造的に変化する。金融市場にとっても、巨額設備投資による減価償却負担と経営リスクが増大し、投資家は自由現金流や資本収益率の基準を厳格に当てはめて「五五分」の実現可能性を精査するだろう。

アリゾナ拠点の現実　記録的規模と人材不足の壁

中華経済研究院区域発展研究センターの劉大年主任は、TSMCがアリゾナ州に1,650億ドルを投資し、6つのウェーハ工場、2つの先端パッケージ工場、1つの研究開発センターを建設する計画は、同社史上最大で最先端の海外展開だと説明する。しかし資金調達は完全には進んでおらず、現場では技術人材不足や建設と量産のギャップが既に顕在化している。さらに米国製造比率を急速に引き上げるとなれば「不可能に近い」と指摘し、最終的には海外人材に頼らざるを得ないだろうと述べた。だがそれは、トランプ政権が掲げる「国内雇用と技術内製化」という目標と矛盾する。

交渉戦術と副作用　半導体インフレリスク

台新・新光金控の李鎮宇首席エコノミスト李鎮宇氏は、ルートニック氏の発言を「交渉前の先制的圧力」と解釈する。台米間の経済協議を前に、発言で交渉空間を縛ろうとする手法だ。仮に行政手段や関税政策で米国生産比率を急拡大させれば、短期的に「半導体インフレ」を引き起こし、そのコストはクラウド、データセンター、最終電子製品に転嫁され、米国のインフレ再燃リスクを高める。人材・インフラ・エネルギーコスト・補助金透明性といった政策の裏付けがなければ、供給面でボトルネック、需要面で価格転嫁が発生する危険がある。

台湾の選択：量の優位から「規格と標準」の主導権へ

「シリコンシールド」が書き換えられる今、台湾は単なる生産量や技術ノードの優位を超え、制度や標準における主導権を築く必要がある。第一に海外工場における知的財産と運営権の保護、第二に先端パッケージやEUV/High-NA技術、生産信頼性やセキュリティ標準を国際同盟の枠組みに組み込むこと、第三に税制・人材・再生可能エネルギーを活用して国内サプライチェーンの革新力を維持することが求められる。安全保障のための協力が効率と革新力に裏打ちされなければ、最終的にはコストが市場に跳ね返る。台湾が「生産量の優位」から「規格と研究開発の優位」へと進化できるかが、五五分体制の下で長期的な主導権と産業の韌性を保つ鍵となる。