欧州、プーチン氏に静かな警告 ロシア機が領空を再侵犯すれば「撃墜も辞さず」

ロシア空軍のMiG-31がエストニア領空に「侵入」したとされる事案。(写真/NATO公式サイト)
ロシア空軍のMiG-31がエストニア領空に「侵入」したとされる事案。(写真/NATO公式サイト)
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ロシア空軍のMiG-31戦闘機3機がエストニアの領空を脅かし、NATO各国の神経を逆なでした。各国が公に非難する一方、事情に詳しい関係者によれば、欧州の複数の外交官がモスクワでクレムリン側に非公式の警告を伝達。北大西洋条約機構(NATO)は「次に領空侵犯があれば、ロシア機の撃墜を含む直接的な対応を取る用意がある」と通告したという。

ブルームバーグによると、関係者が明らかにした内容では、英・仏・独の特使はモスクワでの緊張をはらんだ会合で、MiG-31の越境を追及。ロシア側は一貫して領空侵犯を否定し、「NATOを試す意図はない」と主張したが、英仏独は今回の行動を「ロ軍司令部の意図的な戦術」とみている。会合の内容からは、プーチン大統領が、ロシアの戦闘機・無人機による東欧諸国領空への相次ぐ接近に対し、強い警告を受け取ったことがうかがえる。

モスクワでの会合内容によれば、プーチン大統領は、ロシアの戦闘機や無人機が東欧各国の領空に相次いで接近・進入している件で、強い警告を受け取ったことがわかった。

事情通によると、非公開協議の場でロシアの外交官は欧州側に対し、これらの領空侵犯はウクライナ軍によるクリミア攻撃への「報復」だと説明。クレムリンは、NATOの支援なしにキーウがこうした軍事行動を実施することは不可能だとみなし、ロシアはすでに欧州諸国と「対立状態」にあるとの認識を示したという。

またロシア側の外交官は会議中に綿密なメモを取り続けており、欧州側は、NATOの現在の立場が上層部に詳細に報告されると見ている。

2025年6月25日、米国大統領トランプがNATOサミットに出席。(AP通信)
2025年6月25日、NATOサミットに出席するトランプ米大統領。(AP)

NATO条約第4条(想定される脅威に対する協議メカニズム)は、1949年の発足以来わずか9回しか発動されていないが、そのうち2回は今年9月で、ポーランドとエストニアの領空問題がきっかけだった。モスクワはエストニア領空の侵犯を否定し、自国機は国際法に則って飛行したと主張。ポーランドに越境した無人機についても「誤り」で、故意ではないと強調している。

積極的撃墜は宣戦布告に当たるのか

リトアニアのナウセーダ大統領は国連総会の場で、「ロシアは我々の備えと報復の意志を試している。団結を示すこと、そして迅速に反応することが何より重要だ」と述べた。

もっとも、クレムリンの真意が見えにくいなか、欧州各国は板挟みだ。緊張を一段と高めかねない行動は避けたい一方で、潜在的な軍事的脅威にも備えざるを得ない。この二面性は各国首脳の発言にも表れている。

合同演習に参加するスウェーデンの兵士。同国は義務兵役制度を採用している。(スウェーデン国防省より)
合同演習に臨むスウェーデン兵。スウェーデンは義務兵役制を採用している。(スウェーデン国防省)

ポーランドのトゥスク首相らは、侵犯したロシア戦闘機の撃墜を強く主張。これに対し、ドイツのピストリウス国防相やイタリアのメローニ首相は同盟国に慎重対応を促し、NATOが先に撃墜すれば「プーチン大統領のエスカレーション戦術に乗る」危険があると警告した。

ロシアのメシュコフ駐仏大使は仏メディアの取材に、「もしNATOが領空侵犯を口実にロシア機を撃墜するなら、それは宣戦布告に等しい」とけん制した。

NATO東側境界の脆弱性

内外の温度差や不確実性に加え、ロシアの最近の「試し行動」は、NATO東側の防空体制に現実的な課題——財政規模の差や装備のギャップ——を露呈させた。

とりわけルーマニアでは、ロシア無人機の領空侵入を早期に探知してF-16を2機発進させたものの、残骸落下リスクを懸念して撃墜命令を出せず、無人機は約50分間領空内を飛行。政府は厳しい批判にさらされた。

ルーマニアでの合同演習に参加するNATOヨーロッパ軍。(AP通信)
ルーマニアで実施された合同演習に参加するNATO欧州部隊。(AP)

ルーマニアの最高国防評議会は翌日になって、飛行体撃墜のための交戦規則を承認。事情に詳しい関係者は、ブカレスト当局が国家財政の逼迫と装備不足という二重苦に直面していると指摘する。戦闘機のミサイルで無人機を落とすのは「高コスト・非効率」で、いま同国に必要なのは、ウクライナが前線で活用している対UAS(無人機対処)システムや電波妨害・乗っ取り対策などの支援ツールだとしている。

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編集:田中佳奈

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