日本と台湾のビジネス交流がいっそう活発になるなか、サイボウズ(Cybozu)は台北で「kintone Day Taipei 2025 — AI NEXTREAM」を開催し、アジア巡回の最終回を飾った。会場には台湾初代デジタル担当政務委員のオードリー・タン(唐鳳)氏と、サイボウズの青野慶久社長が登壇。AI、アルゴリズム・ガバナンス、多様な合意を企業や社会でどう実装するかを掘り下げた。
青野慶久:AIと制度設計で「働き方」を更新する
青野氏は、同社がかつて「長時間労働」や離職率28%という課題に直面した歴史を振り返る。そこで「残業しない自由」「出社とリモートの柔軟運用」「副業可」「最長6年の育休」など思い切った制度を導入し、理念も「チームワークあふれる社会をつくる」へ再定義。
併せて「情報のオープン共有」と「自律的に動く文化」を根づかせ、離職率は約5%まで低下、平均勤続年数や業績も伸びた。核にあるのは徹底した情報共有だという。
生成AIの波に対しては、ノーコード基盤を活用すれば営業・人事・製造など現場が自前で業務アプリを素早く作り、同一基盤でつなげられる点が効くと指摘。中小企業が多い台湾市場でも、ITのハードルを下げデジタル化を加速する有効な手立てになると見解を示した。
オードリー・タン:技術で「共通項」を増幅し、分断を縮める
タン氏は近年提唱する「Plurality(多元性)」の実践を紹介。2015年前後から多くのSNSが“能動配信+拡散”型へ舵を切り、エンゲージメントは高まった一方で、分断と極化が進んだと指摘する。
その対案として台湾で用いる合意形成ツール「Pol.is」を説明。拡散機能を排し、各発言に「賛成/反対/スキップ」で反応していくと、対立するグループ双方が受け入れやすい“橋渡し意見”が浮かび上がる仕組みだ。同性婚やUber規制といった争点でも、この方法で「稀だが確かな共通項(uncommon ground)」を可視化し、社会的な動揺を抑えつつ制度設計につなげられたという。
中学生の「朝の始業を遅らせ睡眠時間を確保すべき」という提案が教育行政の見直しに反映された事例や、高校生が国際調査ICCS(2022年)で市民参加・関与が世界首位だった点にも触れ、「プロセス設計×テクノロジー」で公共に実効的インパクトが生まれると語った。
企業ガバナンスへの応用:広く聴き、AIで「地図」を描く
企業の現場に落とし込む技術として、タン氏はGoogleのオープンソース「Sensemaking」を紹介。多数の社員の意見から“最大の分岐点”と“最大公約数”を即時に可視化し、経営側が妥協点を探りやすくなる。「人数が多いほど、AIは集合意見の輪郭を明らかにしてくれる」と述べた。
青野氏も、社内会議で多様な声を可視化する「ブロード・リスニング」を試行中だと応じ、「透明な対話と自発的参加」を核に据えるkintoneの価値と相性が良いとした。
次の一手:民主的レジリエンスとAIガバナンス
タン氏は、極化に対抗する「橋渡しアルゴリズム」を“アルゴリズムのワクチン”としてオープンコンポーネント化し、YouTube、X(旧Twitter)、Facebookなど主要プラットフォームが採用できる形で普及させたいと提案。「超知能は単一のAIではなく“We the people”。多様なコミュニティがAIツールで相互理解を深めたとき、集合知こそ真の超知能になる」と強調した。
日本と台湾が公共・企業の両領域で共創を進め、「多元性」と「橋渡しアルゴリズム」をより多くの意思決定の場に実装していくことで、越境協働の効率化と社会のレジリエンス強化につなげたい、と締めくくった。
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