台湾・国民党主席選の投票日は10月18日。元台北市長の郝龍斌、立法委員の羅智強、前立法委員の鄭麗文が三つ巴で争い、誰が抜け出すかはまだ見えない。3人のうち出馬表明が最も遅かった郝龍斌氏は、9月24日の『風傳媒』インタビューで、党内から出馬要請が相次ぐ中でも「まずは党の財務を回せるかを考えた」と打ち明けた。国民党は毎年、相当額の資金を必要とする。工面できなければ出馬のしようがない——そう考えたという。一方で郝氏は、「これまでの選挙で自分は募金をしたことがない」とも繰り返した。では、なぜ最終的に火中の栗を拾う決断ができたのか。理由は意外なところにあった。生前に「資金の縁」を託してくれた恩人の存在が、財務の難題に向き合う背中を押したというのだ。その人物とは——。
関係者によれば、朱立倫主席の下でこの4年、人件費の削減など党務・シンクタンクのスリム化は進んだものの、財政の重圧はむしろ増している。郝氏は最近、資金集めで奔走してきた連勝文・副主席を訪ね、当選後に直面する資金難の厳しさについて改めて釘を刺されたという。直近4年で大きな選挙は3回(2022年の県市長選、2024年の総統・立法委員選、2025年の大型リコール)あり、総支出は約10億元に達した。政党助成金だけでは回らず、平時の運営を維持するためにも毎年1.5~2億元(約7億3500万~9億8000万円)の追加調達が必要だという。
江丙坤、逝去前「人脈」を託す
だからこそ出馬を促されるたび、「最初に確認したのは党の懐具合だった」と郝氏は明かす。必要額は大きい。覚悟がなければ挑めない。勧めに来た人には、資金面でどこまで力になれるかを必ず尋ねたという。郝氏はこれまで、選挙で自ら資金を募った経験はない。台北市長時代も、市政と関わりのある相手からの献金は受け取らなかった。それでも副主席としては相当額を集め、候補者の選挙戦に回せた。鍵を握ったのは、すでに他界した前海基会董事長の江丙坤氏だ。「江先生は生前、ほとんどの人脈を私に引き継いでくれた」。逝去前の最後の訪中で福建にいた際、江氏は郝氏に電話をかけ、同席していた台商たちに彼を紹介。「この関係は彼に任せたい」とわざわざ橋渡しをしてくれたという。
『出会いの起点は趙耀東——“理由は要らない、江を支えよ”』
経建会主委を務め、1999年には三三企業交流会(三三会)を立ち上げた江丙坤氏は、財界に幅広い人脈と高い信望を持っていた。郝氏と深い関係を築いたきっかけは、元中鋼董事長の趙耀東氏だ。初当選のあいさつに郝氏が趙氏を訪ねた際(父・郝柏村氏と趙氏は旧知)、趙氏は「頼みが一つある。江丙坤は良い官僚だ。どんな状況でも支えてほしい。理由はいらない」と告げたという。その後、江氏が経建会主委として週休二日制の導入などを進める間、郝氏は一貫して後押しした。

「事故ゼロ」の資金集め——江流の作法
国民党から台北市長候補に指名されたとき、当時副主席だった江氏は、誰も名乗り出ない中で自ら選対本部長を引き受け、資金集めなどの実務を担った。市長就任後には「台北の道路は傷みがひどい、必ず直してほしい」と直言。郝氏が力を入れた「路平計画」は、実は江氏の進言が起点だという。その後も江氏は市政の要所を電話で助言する“上級顧問”のような存在であり、台商や企業人脈の橋渡しも買って出た。
さらに江氏は、クリーンな資金調達の原則も“手ほどき”した。「資金のお願いに行くとき、当事者2人きりにしない。必ず第三者を同席させ、受領の際は立会人を置く」。ごく親しい間柄を除き、このルールを徹底すること——郝氏は「相当額を集めても疑義を招かず、トラブルは一切なかった」と語る。ただし、江氏から託されたネットワークがあるとはいえ、必要経費の規模を考えると「それだけではまだ足りない」のも現実だと率直に認めた。
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