舞台裏》異例の沈黙、その裏に何があったのか――台湾・国民党の鄭麗文氏が「中央常務委員会」で語らなかった理由

2025-12-16 18:18
国民党の鄭麗文氏は国防予算の大幅増に反対する姿勢を明確にしているが、その方針が党内で貫徹できるかには疑問の声も出ている。(写真/柯承惠撮影)
国民党の鄭麗文氏は国防予算の大幅増に反対する姿勢を明確にしているが、その方針が党内で貫徹できるかには疑問の声も出ている。(写真/柯承惠撮影)

台湾・国民党主席の鄭麗文氏は、2025年11月の就任以降、「和解を重視し、戦争を避ける」という対中姿勢を前面に掲げる一方で、最も鮮明な政策スタンスとして「国防予算の大幅増額に反対」を打ち出してきた。台湾史上最高水準となる国防予算9,495億台湾ドル(約4兆6,526億円相当、GDP比3.32%)に対しても、さらに1.25兆台湾ドル規模の国防特別予算案(約6兆1,250億円相当)についても、鄭氏は一貫して「支持しない」と公言してきた。11月12日、鄭氏は米国在台協会(AIT)の谷立言処長と会談し、表向きは友好的な雰囲気が演出された。しかし、11月26日に頼清徳総統が国防特別予算を正式に発表し、AITが即座に支持を表明すると、鄭氏は米側の反応を意に介さず、強い言葉で反発。頼氏を「火遊びをしている」「台湾海峡を火薬庫に変えようとしている」と批判し、思いとどまるよう公然と警告したのである。

12月2日、頼政権が提出した国防特別予算条例案は、立法院で国民党と民衆党が連携して阻止し、委員会付託に至らなかった。これを受け、頼総統は総統府で北米各地の台湾系団体訪問団を接見した際、国民党が「別の道を選び、中国の要求を受け入れようとしている」と厳しく批判し、「将来は『愛国者による台湾統治』になる」とまで言及した。こうした露骨な「赤狩り(相手を「親中」などのレッテルで攻撃し、排除へ追い込む政治的な言説)」とも受け取れる発言に対し、これまで歯に衣着せぬ反撃で知られてきた鄭氏は、翌12月3日の国民党中常会で意外な対応を見せた。KMT Studioの責任者に連勝武氏を起用するなど人事を発表したのみで、11月26日のような強硬な政治的反論は行わず、国防特別予算にも一切触れなかったのである。その異例の沈黙に、現場の記者団からは驚きの声が上がった。

国民党にとって、毎週水曜午後に開かれる中常会は、党主席が政権与党と渡り合い、党の立場を明確に示す重要な政治舞台だ。歴代主席の多くは、民進党幹部から名指しで批判された場合、この場を使って反撃するのが常だった。それにもかかわらず、鄭氏が頼総統の発言に沈黙したことで、党内の政治感覚に敏い関係者の間では、「事態は単純ではない」「背後に米国の圧力があるのではないか」との見方が広がった。 (関連記事: 舞台裏》「秘書費」をめぐり批判噴出 台湾・立法院法案を動かした2人の存在 関連記事をもっと読む

賴清德総統宣布が4000億ドル(約台湾元1.25兆)の国防特別予算を計画することを発表した。(大統領府ウェブサイト)
頼清徳総統は、400億米ドル規模の国防特別予算を打ち出した。(写真/総統府公式サイト)

突然の沈黙、背後に米国の関心

国民党のある有力関係者は、「鄭麗文は誰に対しても遠慮しない性格で、影響力の大きい趙少康氏にすら引かない人物だ」と語る。その鄭氏が、国民党を正面から挑発する頼総統の発言を前にして口を閉ざしたのは極めて異例であり、「常識的に考えれば、米国を刺激したくなかった以外に理由が見当たらない」と指摘する。実際、12月4日、国民党報道官で立法委員の牛煦庭氏は、ラジオ番組で「鄭主席が『頼総統は火遊びをしている』と発言した件について、米側から関心が示されたのは事実だ」と認めた。ただし、牛氏は「圧力とは言えない」と表現を和らげた。

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