李忠謙コラム:「AIは電力という現実なしに成立しない」非原発後の台湾、計算資源革命の隠れたコストが浮上

(写真/呉逸驊撮影)
(写真/呉逸驊撮影)

世界各国が人工知能(AI)の主導権を争う中、十分かつ安定した電力の確保が、静かに勝敗を分ける決定的な要素となりつつある。台湾は「非原発」目標を達成した直後に、「計算資源革命」や「主権AI」という国家戦略級の構想へ踏み出したが、この二つは果たして両立し得るのだろうか。

米ワシントンのブルッキングス研究所とアジア太平洋強靱性研究基金(CAPRI)はこのほど、「台湾とアジアのAI野心が直面するエネルギーの課題」をテーマにフォーラムを開催した。急増するデータセンター、台湾の電力構成、原子力を巡る住民投票、さらには「主権AI」と地域のエネルギー安全保障までを俯瞰し、計算能力が爆発的に拡大する前提として、台湾が本当にこの技術革命を支えきれるのか検証された。

AIの前提条件は「電力という現実」

ブルッキングス研究所のライアン・ハス台湾研究共同議長(中国センター主任)は、「AI拠点を目指す経済体にとって、信頼性があり、持続可能で安全なエネルギーシステムは不可欠だ。これがなければAIは机上の空論に終わる」と直言する。英BPで34年間勤務し、アジア太平洋地域および中国事業のトップを歴任、現在はアリゾナ州立大学で持続可能エネルギー政策を専門とするゲイリー・ダークス氏は、データセンターの拡大スピードが従来の電力計画の想定を大きく超えていると警鐘を鳴らした。

ダークス氏によると、米アリゾナ州フェニックス周辺にはすでに約125のデータセンターが立地し、電力網には今後5年間で計40ギガワット(GW)分の接続申請が寄せられている。これは既存の電力網容量の1.5倍に相当する。最新型のデータセンター群では、1拠点あたり2〜4GW規模も珍しくなく、世界を見渡しても、こうした需要を余力をもって受け止められる電力網は存在しないという。さらに見落とされがちなのが、データセンターを支える周辺インフラだ。高圧送電線、変電設備、水資源、大量の土地利用に加え、施設から排出される膨大な排熱や騒音は、周辺コミュニティや都市インフラに新たな負荷を与える。

ダークス氏は、データセンターに供給された電力のほぼすべてが最終的に熱へ変換される点にも言及する。フェニックスでの実測では、約100メガワット(MW)規模のデータセンターが、450メートル離れた地点の気温を華氏3度(約摂氏1.7度)上昇させた。数値としては小さく見えても、都市部では空調需要を押し上げ、「ヒートアイランド」と電力ピークの二重苦を招きかねない。

台湾電力構造の「三重苦」

CAPRIのシニア研究員、周思廷氏は台湾の視点から、AIがもたらすエネルギー問題を「価格」「安定供給」「持続可能性」という三つの制約で整理した。 (関連記事: 独占インタビュー》AIが労働力を代替し、週休3日が到来へ? ノーベル経済学賞受賞者が台湾産業の「あるリスク」に警鐘 関連記事をもっと読む

台湾はエネルギーの約97%を輸入に依存しており、原発の段階的廃止後は天然ガスが移行期の主力とされてきた。しかしそれは、燃料コストの上昇やインフラ投資の拡大を意味する。再生可能エネルギーを拡大する過程では、夏季の昼間に太陽光発電が急増する一方、夜間には短時間で約20GWもの電力不足を埋めなければならず、電力調整力と予備容量への負担はすでに限界に近い。加えて、再エネの多くは沿岸部や生態的に敏感な地域に設置されるため、環境アセスメントや社会的合意形成のコストが高く、系統安定性に新たな課題を突きつけている。

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