独占インタビュー》AIが労働力を代替し、週休3日が到来へ？ ノーベル経済学賞受賞者が台湾産業の「あるリスク」に警鐘

産業化とAIの波の中で、週休3日制がトレンドになると予想されている。ノーベル経済学賞受賞者であるクリストファー・A・ピサリデス（Christopher A. Pissarides）氏は、『風傳媒』の独占インタビューに応じ、「過去200年間の工業化の傾向を見ると、人々はより多くの余暇時間を求めてきた。週の労働日数は7日から5日へと減少し、今後はさらに4日に短縮され、週休3日がトレンドになるだろう」と述べた。

ピサリデス氏、労働経済学の専門家で市場摩擦理論の権威

ピサリデス氏は、英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス（LSE）およびキプロス大学ヨーロッパ研究所の教授であり、労働経済学を専門とする市場摩擦理論の権威である。彼は、デール・モーテンセン（Dale Mortensen）氏、ピーター・ダイアモンド（Peter Diamond）氏とともに、市場摩擦分析理論を共同で開発し、政府の介入が失業率、求人、賃金に与える影響を分析した。この功績により、3氏は2010年にノーベル経済学賞を共同受賞している。また、2013年には英国のエリザベス2世から爵位を授与された。

「台湾橋梁計画」の一環として、12月9日に台南の成功大学で初の講座「成大がノーベル賞受賞者と出会う—AI × 持続可能性：未来への啓示」が開催され、ピサリデス氏が初めて台湾南部に訪れた。彼は「AIと未来の仕事の福祉」をテーマに講演し、若者たちから熱烈な歓迎を受け、成功大学国際会議センターはかつてないほどの盛況となった。「台湾橋梁計画」は、中央研究院が台湾大学など国内11の学術研究機関、そして国際平和基金会（International Peace Foundation）と連携して推進しており、台湾と世界のトップレベルの学者との深い交流を促進している。

AIによる仕事の代替に悩む学生に、ピサリデス氏が優しく回答

若者たちは、将来的に自分の仕事がAIに奪われるのではないかという不安を抱えている。成功大学は事前に学生の質問を収集し、現在77歳のピサリデス氏は、親しみやすい人柄で学生たちの質問に丁寧に答えた。彼はイベント終了後、『風傳媒』のインタビューに応じ、今後の週休3日制のトレンドや台湾の半導体産業の将来などについて独自の洞察を提供した。

国立成功大学は、沈孟儒学長のリーダーシップのもと、最近発表された『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション（THE）』の「2026年学際的科学ランキング（Interdisciplinary Science Rankings）」で、世界第35位、台湾第1位の評価を受けた。オックスフォード大学で博士号を取得している沈学長は、フォーラム終了後、ピサリデス氏と会談し、AI時代の新たな考え方と対応策を成功大学の教員と学生にもたらしたノーベル賞受賞者に感謝の意を述べた。 （関連記事： ディズニーが10億ドルでOpenAIに出資！「スター・ウォーズ」や「マーベル」をSoraに独占ライセンス、ハリウッドに失業の波が懸念 ｜ 関連記事をもっと読む ）

ピサリデス氏はキプロス（Cyprus）出身で、17歳で高校を卒業後に英国へ留学した。元々建築に興味があったが、両親の勧めで経済学か会計学を選択し、後に経済学に傾倒したことから労働経済学の分野に進んだ。

ピサリデス氏の研究は、AIと自動化の時代において、いかにして質の高い仕事と心身の健康のバランスを確保するかに焦点を当てている。彼はまた、ロンドン未来の仕事研究所（Institute for the Future of Work）の共同創設者兼共同議長も務めている。彼の著書『均衡失業理論』は、労働経済学の分野における重要な参考書である。

AIの未来に対するテクノロジー業界の二極化した見解

AIと自動化の波について、ピサリデス氏は講演で、テクノロジー業界のAIに対する見解が二極化していることを指摘した。2024年ノーベル物理学賞受賞者で「AIのゴッドファーザー」と呼ばれるジェフ・ヒントン（Jeff Hinton）氏は、AIはいずれ世界を支配し、人類はそれを制御する方法を知らないだろうと警鐘を鳴らしている。

一方、2024年ノーベル化学賞受賞者でGoogle DeepMindのCEO、デミス・ハサビス（Demis Hassabis）氏は、10年以内にAIがすべての病気の治療法を提供できるようになると予測している。ハサビス氏とOpenAIのCEO、サム・アルトマン（Sam Altman）氏は、5年から10年以内に汎用人工知能（AGI）が出現し、人間のすべての仕事を、より優れた方法でこなせるようになると考えている。

マスク氏の予測「AIがすべての仕事を代替」に、ピサリデス氏は異論

AIは将来、労働力を代替するのか、それとも強化するのか？ テスラCEOのイーロン・マスク（Elon Musk）氏は、AIがすべての人間の仕事を奪い、将来的に人類には仕事がなくなる可能性があると予測した。しかし、ピサリデス氏はこの予測に賛同していない。

歴史的に見ると、新技術は常に労働市場に構造的な変化をもたらしてきた。ピサリデス氏は、これらの構造的変化が経済に与える影響について、「私たちは一部の仕事を破壊するが、同時に他の場所で新しい仕事を創出している。鍵となるのは、労働者たちが失われた仕事の部門から、新しい仕事のある部門へと移行することだ。世界はこのようにして前進していく」と分析した。

ピサリデス氏は中国を例に挙げ、1980年代には労働力の68%が農業部門に従事していたが、一連の改革を経て20年後には製造業の従事者が労働力の20%を占め、農業従事者の比率は20%に減少したと説明した。これは史上最大規模の労働力移動であり、農村部の労働人口が製造業部門へと移転し、単に仕事を変えただけでなく、農村から都市へと居住地や生活様式も変えた構造的変化である。新技術がもたらす変化は、世界中の多くの地域で同様に進行している。 （関連記事： ディズニーが10億ドルでOpenAIに出資！「スター・ウォーズ」や「マーベル」をSoraに独占ライセンス、ハリウッドに失業の波が懸念 ｜ 関連記事をもっと読む ）

AIと自動化の波に対応するため、ピサリデス氏は、現在の最大の課題は、労働者が古い仕事から新しい形態の仕事へとスムーズに移行できるようにすることだと述べている。さらに、職場の転換プロセスにおいて、情報が非対称であることやスキル・ミスマッチが発生し、これが転換の速度を遅らせていると指摘した。彼は、質の高い教育、職場での訓練、そして生涯学習が、職場変革のための重要なツールであると強調した。

AI時代、最も重要なのは「学ぶ力」

「AI時代を迎えるにあたり、生涯学習の重要性がますます高まっている」とピサリデス氏は指摘する。「AI時代に対応する上で最も重要なスキルは、いかに学ぶかを学ぶことだ。成功の鍵は、STEM（科学、技術、工学、数学）の基礎知識をしっかりと身につけることにある。この基礎知識が、後の仕事でさらに多くのことを学ぶのに役立つだろう」。

AIは働く人々の役割を大きく変えるだろうと彼は述べ、「AI時代において、AIによって自分の役割が変わるたびに、すでに新しいことを学ぶ方法を習得しているため、迅速に適応できるはずだ」と指摘した。

ピサリデス氏はマッキンゼー・グローバル・インスティテュートの調査を引用し、従業員に毎年少なくとも75時間の職場訓練を提供する企業は、経営実績が成功する確率が高いという結果を示した。

AI時代に若者が備えるべき技術と能力について、彼は「企業が求めているのは、データを読み解き分析できる人材、効果的なコミュニケーションと意思決定能力を持つ人材、そして共感力や良好な対人能力といったソフトスキルを備えた人材だ」と述べた。

ノーベル賞受賞者の息子がChatGPTに質問：父は英国財務大臣になれるか？

AIは将来、一部の人間の仕事を代替する可能性がある一方で、求職者と仕事をマッチングする手段としても活用できる。ピサリデス氏は学生からの質問に答え、「AIは確かに求職者と仕事をマッチングする手助けができるし、ソーシャルマッチングに応用して、恋人同士をマッチングするといったことも可能だ」と述べた。

ピサリデス氏は、英国の財政は問題が山積みで、借金が増大し、増税も難しい状況にあると言及。彼はある興味深いエピソードを明かした。ある日、息子がChatGPTに「父親は英国財務大臣に適任か？」と尋ねたところ、AIは次のような回答をしたという。「ピサリデス氏は国会では非常に素晴らしい活躍をするだろう。彼はあれこれと行動を起こすだろうが、彼が有能な財務大臣になれる十分な証拠は私にはない」。この回答を見て、ピサリデス氏は笑いながら、「だから私は財務大臣の職に応募しなかったのさ」と語った。

労働者が未来の仕事に対してどのような考えを持っているかについて、ピサリデス氏は米国心理学会による労働者の未来の仕事に対する年次調査を引用した。この調査によると、労働者にとって、企業がメンタルヘルスをどれだけ重視しているかが、将来の仕事を考える上で重要な考慮事項になっているという。また、労働者は、柔軟な勤務時間、余暇を尊重する企業文化、リモートワーク、週休3日制などを求めている。 （関連記事： ディズニーが10億ドルでOpenAIに出資！「スター・ウォーズ」や「マーベル」をSoraに独占ライセンス、ハリウッドに失業の波が懸念 ｜ 関連記事をもっと読む ）

200年の経済発展を振り返り、人々は余暇時間を求めてきた

歴史的な大局から見ると、人々の労働時間は短縮傾向にあり、将来的に週休3日が実現する可能性は非常に高い。ピサリデス氏は『風傳媒』のインタビューで、「過去200年間の経済発展の歩みを振り返ると、工業化が進む中で、人々は余暇時間を獲得しようとし、週の労働日数は減少してきた。かつては週7日勤務だったのが5日勤務となり、2日間の週末休みができた。現在の労働時間は徐々に減少傾向にあり、次の段階は週4日勤務、週休3日となるだろう」と述べた。

仮に2つの選択肢があるとする。一つは週6日勤務で毎日半日働く（週休1日）、もう一つは週3日勤務で週休4日。どちらのパターンを選ぶかと問われたピサリデス氏は、「人々は通常、後者を選ぶだろう。勤務日数が少なく、週に4日間の休みが確保できるからだ」と語った。

週6日勤務で仕事を楽しみつつ、週休3日を期待

ピサリデス氏自身は複数の役職を兼任し、働くことを楽しんでいるが、現在は週6日勤務で休みは週に1日だけだと明かした。なぜそれほど仕事量が多いのかと聞かれると、両手を広げて笑いながら、「仕方がないだろう？ 週4日勤務、週休3日が早く来てくれることを願っているよ」と語った。

現在、英国では週4日勤務制度を導入している企業もあるが、まだ全国的な制度には至っていない。彼は「今後、週休3日制は徐々に世界中に広がるだろう。ただし、アメリカは例外かもしれない。アメリカの高所得層にはワーカホリック（仕事中毒）が多いからだ」と指摘した。

ピサリデス氏は過去に何度も台湾を訪問しており、台湾の半導体産業の発展に深い感銘を受けている。台湾経済が半導体とAI産業に高度に集中していることはリスクにつながるのだろうか？ 彼は、「台湾の半導体産業は非常に成功しており、世界的に半導体の需要が高まっているため、その観点から見れば、台湾のパフォーマンスは非常に優れている」と評価した。

台湾経済の半導体集中は、「卵をひとつの籠に入れる」リスクが高い

しかし、彼は同時に警鐘も鳴らしている。「『卵をすべてひとつの籠に入れるな』という古い格言がある。すべての卵をひとつの籠に入れるのは、確かにリスクが高い」と語った。

ピサリデス氏は、自身の生まれ故郷であるキプロスと隣国ギリシャを例に挙げた。「両国の経済発展は完全に観光産業に集中していた。戦争や新型コロナウイルスのパンデミックが発生した際、観光客が来なくなり、経済が急落した結果、国家財政が破綻してしまった。この例は、国家経済の発展が一つの産業に完全に集中することが、非常に大きなリスクを伴うことを示している」と締めくくった。

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