「東京は令和、地方は江戸時代」若年女性が地方を離れる本当の理由とは

「東京が令和なら地方は江戸時代」と語る山本蓮氏は、若年女性の地方流出の主因は低賃金と固定的な性別役割にあると指摘し、女性に選ばれる地域になるための意識と構造の改革を訴えた 。(写真/FPCJ提供)
「東京が令和なら地方は江戸時代」と語る山本蓮氏は、若年女性の地方流出の主因は低賃金と固定的な性別役割にあると指摘し、女性に選ばれる地域になるための意識と構造の改革を訴えた 。(写真/FPCJ提供)

「江戸時代」のままの地方と、現代女性のギャップ

冒頭、山本氏は現在の地方と都市部の意識差を「東京が令和だったら、地方は江戸時代」という鮮烈な言葉で表現した。現代の女性たちが仕事と家庭の両立やキャリア形成を望んでいるにもかかわらず、地方には依然として「男は仕事、女は家庭」という旧態依然とした価値観が根強く残っている。この意識の乖離こそが、若年女性が地方を見限る根本原因であると山本氏は指摘する。

「東京が令和なら地方は江戸時代」と語る山本蓮氏は、若年女性の地方流出の主因は低賃金と固定的な性別役割にあると指摘し、女性に選ばれる地域になるための意識と構造の改革を訴えた 。FPCJ
「東京が令和なら地方は江戸時代」と語る山本蓮氏は、若年女性の地方流出の主因は低賃金と固定的な性別役割にあると指摘し、女性に選ばれる地域になるための意識と構造の改革を訴えた 。(写真/FPCJ提供)

同プロジェクトが実施した120人以上の当事者インタビューでは、地方を離れる理由として「やりたい仕事がない・給料が低い」が90%と圧倒的多数を占めた。さらに「地域の女性役割が息苦しい」(50%)、「結婚・出産の圧を感じる」(40%)といった声が続き、経済的な要因と社会的な圧力が複合的に絡み合っている実態が明らかになった

絶望的な賃金格差とケア労働の低待遇

ある36歳の滋賀県在住の女性は、「手取りは13万円ほど。せめて一人暮らしができる20万円は欲しい」と訴えたが、周囲からは「結婚すればいいじゃないか」と返されたという。山本氏は、地方において「女性は家計補助的な役割でいい」という前提が賃金構造に反映されており、これが女性の経済的自立を阻んでいると分析した。

「透明人間」にされる女性たち

インタビューからは、地方特有の人間関係や同調圧力に苦しむ女性たちの悲痛な叫びも浮かび上がった。「地元で子どものいない女性は透明人間のように扱われる」と語ったのは三重県出身の女性だ。また、沖縄県出身の30代女性は、東京での就職を親に伝えた際、「女が一生懸命働かなくていい。それよりいい人を見つけて結婚して」と反対された経験を持つ

地域コミュニティにおける役割分担の不平等も深刻だ。19歳の山形県出身の女性は、「集まりで女性が料理をよそい、男性が座って食べているのを見て、将来自分もこうなるのかと絶望した」と語っている。実際、家事育児時間の男女差を見ると、妻の負担は夫の約5倍に上り、過去20年間でその差はほとんど縮まっていない。こうした「女性らしさ」を強いる空気感が、多くの女性を地方から遠ざけている。

行政の「婚活支援」のズレと限界

質疑応答の中で、山本氏は行政による対策のミスマッチを示す象徴的なエピソードを紹介した。ある自治体が人口減少対策として税金を投じ、若者の結婚を支援するマッチングイベントを企画したところ、定員42人に対し女性の応募はわずか3人、参加者のほとんどが男性という結果に終わったという

山本氏は「そもそも女性が住み続けたいと思える環境がない中で、税金を使って結婚支援を行っても効果は薄い」と断じた。地域の男女バランスが崩れている現状を直視せず、表面的な「婚活」に頼る政策の限界を指摘し、まずは女性が一人の人間として尊重され、自立して生きられる土壌を作ることこそが先決であると訴えた。

「地方創生2.0」への期待と課題

政府は新たな指針「地方創生2.0」において、「若者・女性に選ばれる地域づくり」を掲げ、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の解消や職場改革を進める方針を打ち出した。山本氏は、これまで優先順位が低かった女性の権利やジェンダー格差の問題が政策課題として浮上したことを前向きに評価しつつも、単なるスローガンに終わらせないためには、国レベルでの本質的な取り組みが必要であると強調した。

「日本の地方にとって重要なのは、女性たちが声を上げられる環境を作ること」。山本氏はそう締めくくり、地方が「女性に選ばれる場所」へと変わるためには、社会全体の意識変革と構造的なアップデートが不可欠であると呼びかけた。

編集:小田菜々香

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