日本は本当に「賃金と物価の好循環」へ向かうのか 渡辺努氏がポイントを解説

渡辺努氏はFPCJブリーフィングで、日本の物価と賃金はインフレ期待の高まりと深刻な人手不足による賃上げを背景に好循環へ向かいつつあるが、財政の裏付けや労働者の将来賃金への不安など課題も残ると述べた。(写真/FPCJ提供)
渡辺努氏はFPCJブリーフィングで、日本の物価と賃金はインフレ期待の高まりと深刻な人手不足による賃上げを背景に好循環へ向かいつつあるが、財政の裏付けや労働者の将来賃金への不安など課題も残ると述べた。(写真/FPCJ提供)

フォーリン・プレスセンター(FPCJ)は11月25日、「物価と賃金上昇の好循環を実現できるのか」をテーマに、株式会社ナウキャスト創業者で東京大学経済学研究科名誉教授の渡辺努氏を迎え、オンラインブリーフィングを実施した。渡辺氏は、日本のデフレの歴史と現在のインフレ局面を整理しつつ、賃金動向、インフレ期待、脱グローバル化、金融政策、財政運営などについて見解を述べた。

渡辺努氏はFPCJブリーフィングで、日本の物価と賃金はインフレ期待の高まりと深刻な人手不足による賃上げを背景に好循環へ向かいつつあるが、財政の裏付けや労働者の将来賃金への不安など課題も残ると述べた。FPCJ
渡辺努氏はFPCJブリーフィングで、日本の物価と賃金はインフレ期待の高まりと深刻な人手不足による賃上げを背景に好循環へ向かいつつあるが、財政の裏付けや労働者の将来賃金への不安など課題も残ると述べた。(写真/FPCJ提供)

渡辺氏は冒頭、90年代半ば以降に物価・サービス価格・賃金が「水平」へ転じた日本特有の慢性デフレを指摘し、「こうした現象は海外には見られなかった」と説明した。その上で、2022年春から物価上昇が続き賃金も上がり始めた現在は「過去3年半で日本経済に大きな変化が起きている」と述べた。

続いて、2023年1月時点のエコノミスト予測と実際のインフレ率の乖離を示し、「予想外の要因」が存在したと説明。具体的には、①消費者のインフレ予想の上昇、②春闘での高い賃上げの実現を挙げ、「これらは当時予測できなかったが、現在の賃金上昇とインフレを生み出している」と述べた。

賃上げの背景については深刻な人手不足を主因とし、「この状況は東京だけでなく全国で続いており、2026年以降も賃上げを支える」と分析。一方で、労働者の将来賃金に関する期待は慎重で、実質賃金が上がると見込む層が少ない点を挙げ「好循環が定着したと労働者が実感しているわけではない」と課題を示した。

また、世界貿易量の推移を示し、80年代半ばから2000年代初めの「グローバル化」が世界的な低インフレ・低賃金を招いた一方、近年の脱グローバル化は「世界各地で賃金と価格の上昇をもたらしている」とし、日本のインフレもその影響を受けているとの認識を示した。

金融政策については、日本銀行が2024年から進めた政策金利の引き上げ(正常化)に触れ、トランプ関税発表により一時中断されたものの、「影響は当初想定ほど大きくないとの見極めから、再び利上げ再開へ向かう状況」と説明。「現時点0.5%の政策金利は、1年後には1%近くに達する可能性がある」と述べた。

財政については、近年の税収が予算見込みを上回る状況を示し、「物価と賃金上昇が消費税・所得税・法人税を押し上げた」と分析。一方、高市政権の「積極財政」については、インフレ由来の税収増が将来も続くとは限らないとし、「資金的裏付けへの懸念は海外投資家を含め少なくない」と述べ、2026年が大きな正念場になるとの見方を示した。

質疑応答では、日銀が円安を容認し物価上昇を引き起こした政策の妥当性、財政再建の可能性、黒田総裁期の金融政策評価などが問われた。渡辺氏は、日本が長期デフレから脱却する必要性を背景に「円安容認と物価上昇の許容は日本ではやむを得なかった」としつつ、アベノミクス期のデフレ脱却が「結果として成功しなかった」と総括した。

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