利下げ期待が渦巻く市場に対し、米連邦準備制度理事会(FRB)は再び冷や水を浴びせる役割を担った。経済指標は一見すると底堅く、労働市場も安定を保っているように見えるが、FRBは政策を据え置き、より慎重な姿勢を示した。その背景は明白である。関税の影響によるインフレリスクが静かに高まりつつあるのだ。
パウエル議長がインフレリスクに警戒感
FRBのパウエル議長は記者会見で、「今後が予測通りに進むと想定することはできない」と述べ、インフレの先行きにはなお不確実性が残るとの認識を示した。市場に対しては、「FRBが利下げを拒んでいるわけではないが、関税の影響が読みにくい中で、インフレが自然に低下するとの見通しに安易に賭けることはできない」との明確なメッセージを発信した。
ドットチャートが年内2回の利下げを示しているとはいえ、パウエル議長が記者会見で「金利は高くない」と口にしたことで、市場のアナリストの間では今年の利下げが見送られる可能性が浮上し始めている。
パウエル議長は、最近インフレ圧力が再び強まっていることを率直に認めた。その要因の一つとして、トランプ大統領による関税政策を挙げており、関税の影響はすぐに消費者物価に現れるわけではないが、製造業者、輸出業者、小売業者、そして消費者の間で、いずれかがそのコストを負担せざるを得ないと指摘した。「一部は消費者である」と述べ、今後数カ月のうちに、インフレへの影響がよりはっきりと表れる可能性があるとの見方を示した。
霧の中の運転のような予測 ドットチャートはあくまで参考にすぎず
将来の金利動向に対する市場の強い関心に対し、パウエル議長は慎重な姿勢を崩さなかった。金利予測について「誰も大きな自信を持っているわけではない」と述べた上で、「どのような金利パスにも合理的な説明が可能だ」と語った。また、FRBメンバーによる金利見通しを示すドットチャートについては、「あくまで霧の中での予測にすぎない」と表現し、市場に対して過度な読み込みを控えるよう呼びかけた。
パウエル議長は、FRBの予測能力について「常に謙虚でなければならない」と強調した。過去のデータだけを見れば、今は利下げすべきだという判断に傾きがちだが、すでに今後数カ月でインフレが再び加速する兆しが見えているとし、「われわれには先を見据える姿勢が求められる」との認識を示した。
関税の影響が不明瞭であり 利下げの時期は不透明
これまでのところ、米国経済は堅調に推移し、労働市場も安定しているため、利下げの緊急性は見られない。しかし一方で、インフレは明確に低下しておらず、関税政策が新たな外部的圧力となる可能性があることから、FRBの政策決定者はなかなか手綱を緩められない状況である。
パウエル議長は「インフレの上昇が差し迫っていることはすでに認識しているが、その規模がどの程度になるかはまだ不透明だ」と述べた。そのうえで、「インフレが確実に低下するのが確認できれば、FRBは利率政策を調整する自信を持つことができる」と語った。
利上げは基本予想ではない
利上げの可能性について問われたパウエル議長は、「現時点では基本的に想定していない」と答えた。同時に、現在の金利水準はそれほど高くなく、政策はやや引き締め効果を持つものの、完全に制約的な水準には達していないと指摘した。言い換えれば、FRBはさらなる金融引き締めを行ってはいないが、より緩和的な政策に戻るにはまだ距離があるということである。
パウエル議長は、関税措置がなければ市場のインフレ低下に対する信頼はより強固になると強調した。しかし現状では、政策決定者は状況を見極めながら対応せざるを得ず、「我々は関税とインフレに関するさらなる情報を待っている。最優先課題は物価の安定と完全雇用の達成である」と述べた。これは、インフレリスクが残る限り、利下げは先送りされることを意味している。
編集:柄澤南 (関連記事: 連邦準備制度理事会は現状維持》パウエル議長「利下げを急がない」 トランプ氏の圧力にも影響されないと強調 | 関連記事をもっと読む )
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