Labubuが瞬く間に世界を席巻、著名人の支持や店舗の行列、転売騒動が海外ファンを中国へと駆り立て、中国に対する印象すら変化させている。この現象的な「醜くて可愛い」ぬいぐるみは、中国のソフトパワーの象徴となったのか、それとも単なる一過性のブームに過ぎないのか。
Labubuの魅力はまず、その驚異的なSNSでの存在感に表れている。TikTokなどのプラットフォームでは、#Labubuのタグが付いた動画が100万本を超え、ファンは開封動画や装着動画、さらにはコスプレまで楽しみ、Labubuのキャラクターを日常生活に取り入れている。
この熱狂はリアーナ、キム・カーダシアン、BLACKPINKのリサといった著名人の支持も呼び、ファッション界で熱烈に支持されるバッグチャームへと成長し、その影響力をさらに拡大させている。
ポップマート創業者・王寧氏:「“無用”こそが真の永遠である」
Labubuの驚異的な魅力は、運営会社であるポップマート(Pop Mart)の業績に如実に表れている。2024年、ポップマートの売上高は1304億元人民元に達し、そのうちぬいぐるみ玩具の売上は前年比1200%超の急増を記録し、全売上の22%を占めた。この大幅な成長はLabubuの市場潜在力を証明するとともに、トイコレクション業界の強い勢いを示している。
この熱狂はオフラインにも波及している。2025年初頭からはロンドン、ソウル、ラスベガスなどでLabubuを求める行列が続き、一部店舗では混雑による衝突が発生し販売を一時中止する事態も起きている。ソウルの店舗では早朝5時から人が集まり、転売業者が在庫を買い占め中国へ高額(20〜30倍)で転売している。英国の行列現場でも「グループによる脅迫や買い占め」など治安リスクが浮上し、Labubuの人気の高さとそれに伴う市場の混乱が際立っている。
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ポップマート創業者の王寧氏はかつて、「すべての消費行動は二つのことを解決している。ひとつは満足感、もうひとつは存在感であり、これこそが潮玩(トイコレクション)の『無用の用』である」と述べている。彼は、純粋で実用的な機能を持たない商品に人々がお金を払うことは決して容易ではないと考えている。王氏は高級ブランドとアーティストのコラボを例に挙げ、「無用」のものこそが真の永遠であると指摘する。その理由は、商品に機能性が備わると、その寿命が短くなってしまうからだという。
王寧氏が語る「USBメモリ論」は、この考え方をより分かりやすく表している。「たとえば、MOLLYの頭を取り外したらUSBメモリになっていたとします。それでもあなたは何体も買うでしょうか?きっと買わないでしょう。なぜなら、買うたびに『またUSBメモリを買ったのか?もういくつも持っているし、そんなに使わないのに』と考えてしまうからです」。この言葉は、潮玩(トイコレクション)が実用性を超えた“感情的な価値”や“コレクションとしての魅力”を備えていることを浮き彫りにしている。
また、ポップマートは経営戦略として、ディズニーやマーベルといった西洋のIP(知的財産)とのコラボレーションを積極的に展開し、「純粋な中国文化の輸出」というイメージを巧みに和らげている。この戦略により、Labubuは国際市場でも受け入れられやすくなり、文化的なギャップによる拒否反応を回避することに成功している。
《人民日報》、Labubuを「中国の新たなソフトパワーの象徴」と評価
中国国営メディア『人民日報(英語版)』は、5月末に「Chinese toy sensation Labubu leads wave of pop-culture exports(中国の潮流玩具Labubuがポップカルチャー輸出の波をけん引)」と題する記事を掲載し、Labubuの成功を高く評価した。
記事ではさらに、《Black Myth: Wukong(黒神話:悟空)》における「悟空」という名称の翻訳の工夫や、『哪吒2』のアニメーションが文化的記号として国際的な観客と共鳴できる点、そしてTikTokや小紅書(RED)などのプラットフォーム上で外国人ユーザーが築く文化の架け橋を通じて、中国が「クール・チャイナ(Cool China)」という新たなナラティブを打ち出していると指摘している。リアルな交流と自然な相互作用を通じて、この文化的な力は既存の偏見を和らげ、「ソフトパワー」のさらなる広がりを後押しする可能性があるとしている。
オックスフォード大学の中国学者ロバート・チャード氏は、第2回武夷フォーラムにおいて、「西洋から見て中国がクールで面白く、学ぶ価値があると感じてもらえることを望んでいる」と述べ、これを文化的自信の重要な指標であると指摘した。『人民日報』はこの発言を記事の導入に据え、若い世代が「クールな文化」を受け入れる視線がもはや西洋だけに向けられているのではなく、東方――すなわち中国にも向かいつつあることを強調している。

世界に一体しか存在しない「初代ミントグリーンLabubu」が、北京で開催された永楽2025年春季オークションにて、108万元人民元(約2,144万円)という驚異的な高値で落札された。(写真/小紅書より)
「クール」文化が中国のネガティブな印象を和らげる
注目すべきは、このカルチャーブームが今後、世界の対中イメージにどのような影響を及ぼすかという点だ。ピュー・リサーチ・センターが2024年3月24日から30日にかけて、米国の成人3,605人を対象に実施した世論調査によると、中国に対して否定的な印象を持つ回答者の割合は、2024年の81%から77%へと減少し、過去5年間で初めて下落に転じた。また、中国を「敵対国」と見なす回答者の割合も33%まで下がり、前年の42%から大きく低下した。
この変化について報告では、トランプ大統領が政権復帰後に再び関税戦争を仕掛けたことで、国際的にアメリカへの好感度が急落したことが一因であると分析されている。香港浸会大学で米中のソフトパワーを研究する朱影教授も《ニューヨーク・タイムズ》の取材に対し、「アメリカの驚くべき孤立主義への傾斜」を背景に、「中国は相対的に堅実で安定している」とコメントしている。
《ニューヨーク・タイムズ》の報道でもこの傾向が裏付けられている。海外のLabubuファンたちは、他の中国製品にも関心を広げており、Redditなどの掲示板では、中国のECサイトで商品を注文するコツを共有したり、実際に中国を訪れて新たな楽しみを探す動きが見られている。
昨年、30歳のスー・オウさんはオーストラリアから上海を訪れた。目的のひとつはLabubuを探すことだったが、残念ながら売り切れで手に入らなかったという。それでも彼女は、今年再び中国を訪れて、自身が見つけた中国のファッションブランドを購入するつもりだと話す。また、彼女のオーストラリア人の友人たちも同様に「Labubuブームの後、中国へのイメージが確実にポジティブになった」と語っているという。
持久力のある魅力?ソフトパワーの真価を問う
しかし、《ニューヨーク・タイムズ》は警鐘も鳴らしている。Labubuブームは、中国のソフトパワーの台頭を象徴し、文化消費を通じて世界の一般層にリーチし、従来の中国イメージを和らげる役割を果たしている可能性があるものの、文化輸出に明確な「政府色」がにじむ場合、かえって国際的な反発を招く恐れがあるという。仮にそれが「流行の演出」として受け取られれば、ソフトパワーは逆に消耗され、負のイメージへと転じかねない。
また、Labubuに伴う希少性マーケティング(飢餓商法)やブラインドボックス(中身の見えない福袋的商品)による煽動、さらには実店舗での混乱なども、転売屋の蔓延や消費者の不信感といったリスクをはらんでいる。こうした仕組みが一度崩壊すれば、信頼の回復は困難を極めるだろう。これらの負の側面を適切にコントロールできなければ、ポップマートはブランドイメージと消費者の忠誠心という長期的課題に直面することになる。
Labubuの世界的なブームが、果たして真の「ソフトパワー」の証明となるのか、それとも一過性のヒット商品にすぎないのか――それは今後の重要な試金石となるだろう。アメリカの国際政治学者ジョセフ・ナイ氏が強調するように、ソフトパワーの本質は「強制」ではなく「魅力(アトラクション)」にある。Labubuが今後も世界の注目を集め続けられるかどうかは、中国が今後の文化輸出において、いかにして本物の創造性と多様性を発揮し、持続的な文化的魅力を提供できるかにかかっている。単なる一時の熱狂で終わらせないためには、「クール・チャイナ」の物語をいかに深化させるかが鍵となる。