日本の有権者が政党を選ぶ際、掲げる政策への賛同度だけでなく、「どれだけ信頼できるか」「実務能力があるか」といった政策以外の属性(ヴェイレンス)も同程度に重視していることが明らかになった。早稲田大学、明治大学、米ウィスコンシン大学による研究チームが2025年参院選前に実施したオンライン調査とコンジョイント実験の結果、政党選好行動における新たな傾向が浮かび上がった。
この研究は、ウィスコンシン大学のジョーダン・ハムザウィ助教、明治大学の加藤言人専任講師、早稲田大学の遠藤晶久教授らが共同で行い、政治学専門誌『Party Politics』に2025年5月に掲載された。
調査では、政策に関する3項目と、政党のヴェイレンスを示す11項目(所属議員数、公約実現度、法案提出数、スキャンダル報道の有無、党首の在任期間など)を組み合わせた架空の政党プロフィールを提示し、回答者にどの政党を好むかを選ばせた。統計的な手法により、各要素が政党選好に与える影響を分析した。
結果として、有権者は「政策」と「ヴェイレンス」のいずれも強く重視していることが分かった。特に影響力が大きかったのは、議会内での存在感(議員数・委員長数)、公約の実現度、法案提出数(立法生産性)、そしてスキャンダルの少なさだった。一方で、結党年数や党首の在任期間、ベテラン議員の割合といった「経験」に関する指標は、支持の決め手としては相対的に弱かった。
また、ヴェイレンスの高さが政策の重要性を打ち消すわけではなく、両者は独立した評価軸として有権者の判断に影響していることも明らかとなった。つまり、有権者は「政策の近さ」と同時に「実務能力」や「信頼性」も求めている構図が浮き彫りとなった。
支持層ごとの傾向にも差が見られた。自民党支持層では、複数回当選議員の割合に「中程度」を好む傾向があった一方で、野党支持層や無党派層はスキャンダルへの反応が強く、政党への信頼性が投票行動に大きく影響していた。日本維新の会の支持者などでは、スキャンダルや政治経験への関心が比較的低い傾向もみられた。
この研究は、自由民主党が長年にわたり政権を維持してきた要因として、単に「歴史」や「経験」ではなく、政党としての実務能力に基づくヴェイレンス評価が背景にあった可能性を示唆している。近年は自民党の議席減が続いており、その実務的優位性が揺らぎ始めているとも解釈できる。
野党にとっては、政策的対立軸の提示に加え、有権者が重視する「信頼できる政党か」「成果を出しているか」といったヴェイレンス属性を高め、効果的に訴求することが、無党派層を含む幅広い支持の獲得において鍵を握るといえる。
研究チームは今後、実際の選挙結果や世論調査との連動分析を通じて、政党のヴェイレンスが投票行動にどのような影響を与えるのかを実証的に検証していくとしている。また、異なる国や選挙制度との比較、候補者レベルでのヴェイレンス評価との関連についても今後の研究課題に位置づけている。
論文情報
● 論文タイトル:What brings you to the party? Voter preferences on parties through policy and valence dynamics
● 雑誌名:Party Politics
● 著者:Jordan Hamzawi(University of Wisconsin-Eau Claire)、加藤言人(明治大学)、遠藤晶久(早稲田大学)
● 公開日:2025年5月5日(オンライン先行)
● DOI:https://doi.org/10.1177/13540688251339631 (関連記事: 台湾・頼清徳総統はどんなリーダー?最新世論調査で見えた「7つの総統資質」 | 関連記事をもっと読む )
● URL:https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/13540688251339631