舞台裏》台湾でスパイ事件続発 副総統の機密漏洩で政界に衝撃

2025-06-17 14:40
頼清徳総統(前列中央)と国家安全会議の呉釗燮秘書長(前列右)の側にスパイがいる事態が発生した。(写真/柯承惠撮影)
頼清徳総統(前列中央)と国家安全会議の呉釗燮秘書長(前列右)の側にスパイがいる事態が発生した。(写真/柯承惠撮影)
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台湾海峡情勢の緊張が高まる中、中国共産党による台湾への浸透作戦が着実に進行している。2025年2月、元宵節が終わった直後、法務部調査局は、ある人物の携帯電話から、現職の賴清徳総統が副総統だった時代のパラグアイ訪問記録を発見した。この情報は一部の高官しか知らない極秘情報であり、国家維持局(国維局)や調査局、国家安全会議の高層はただちに警戒態勢を敷いた。

捜査は特別調査へと発展し、その過程で中国共産党のスパイが総統府や国家安全会議秘書長、外交部の補佐官といった要職にまで入り込んでいたことが明らかになった。国家の重要人物の周辺にまでスパイの手が及んでいた事実に、台湾世論は衝撃を受けた。軍事演習以上に危険な「情報戦」の深刻さが改めて浮き彫りとなった。

20250107-法務部調査局調査班第61期舉行結業典禮。(蔡親傑攝)
調査局(写真)が共産スパイ事件を追及した結果、台湾と中国のスパイ戦の状況が、中国軍機による台湾包囲よりも危険であることが明らかになった。(写真/蔡親傑撮影)

調査局、民進党の古参党員3名を事情聴取 水面下で進む浸透工作

2025年2月18日、法務部調査局傘下の国維局は、国家安全に関する重大事件の調査のため、民進党の古参党員である黄取榮氏、邱世元氏、何仁傑氏の3人を事情聴取した。

黄氏は新北市議会議員・李余典氏の元特別補佐を務め、邱氏は民進党の組織部、社会運動部、宗教部の各部長を歴任。さらに、党内の研修機関「民主学園」の元副主任という経歴を持つ。

なかでも、何氏の経歴は調査官を驚かせた。現職の国家安全会議秘書長・呉釗燮氏の補佐を務め、国家中枢に深く関与している人物であり、調査において一歩の誤りも許されない対象であった。

3人とも「根っからの民進党員」とされ、事件が国維局や調査局にとっていかにデリケートな案件であったかがうかがえる。特に、黄氏がかつて中国で学び、現地でビジネスを展開していた経歴が注目された。調査では中国官員との接触の有無などが詳細に問われたが、事態は思った以上に複雑であることが判明した

国安会秘書長呉釗燮(中央)とその側近の何仁傑(右後)は共産スパイ事件に関与したとして、検察に拘束された。(取自黃國昌臉書)
何仁傑氏(右後方)は、国家安全会議の呉釗燮(ご しょうしょう)秘書長(中央)の信頼を得ていた側近であり、調査官は軽々しく行動できなかったという。(写真/黄国昌氏のフェイスブックより)

「知らなかった」は通用しない 偽証の発覚と対スパイ戦の転換点

事件の核心は、黄氏の虚偽発言にあるとされている。ある調査関係者は「明らかに接触していたにもかかわらず、それを“認識していない”と述べるのは、収賄官僚が『知らない』と主張するのと同じ。明白な偽証だ」と語る。

黄氏が留学していた広東省の暨南大学は、中国共産党の統一戦線部に直結しているとされ、国維局は事情聴取の前にすでにこの点を徹底調査していた。ただし、黄氏はそうした背景を意図的に避けており、国維局もその場で強く追及することは避け、次の段階へ進むことを選んだ。

国維局は、万が一の事態に備えて黄氏を継続的に監視する準備も整えていたが、その後の対応によって状況は一変する。新北市中和区の国維局では、3名の携帯電話を徹底調査する方針が決定された。しかし、黄氏と何氏の携帯からは決定的な証拠は得られなかった。 (関連記事: 「軍の中に敵がいる」 台湾で広がる不信、中国スパイ事件が過去最多に 関連記事をもっと読む

20250421-調査局長陳立白21日至立法院備詢。(柯承惠攝)
調査局は、不正確な回答をしようとする黄取榮(こう しゅえい)氏を監視した。写真は陳立白(ちん りはく)調査局長。(写真/柯承惠撮影)

邱氏の携帯から「行程情報」が流出──捜査は政権中枢へ迫る

突破口となったのは、邱氏の携帯から黄氏に送られていたメッセージだった。それは、賴総統(当時は副総統)のパラグアイ訪問に際する宿泊先と行程を記したものだった。この情報は、一部の高官しか知り得ない極秘内容であり、捜査の方向性が一変した。

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