本音を話せる相手はAI?チャットボットに潜む「迎合」のリスク

2025-06-15 17:48
友人と話すことを避け、多くの人がDeepSeekやChatGPTといったチャットボットに心を開く。(AP)
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現代社会において、AIツールは仕事や日常会話のなかで欠かせない存在となっている。ChatGPTやGeminiなどのチャットボットは、いまや世界中の数百万人にとって、心のガイドやキャリアアドバイザーとして機能し始めている。

だがこうした「親しみやすい」AIたちは、時に危うさをはらんでいる。というのも、ユーザーが本当に必要とする「貴重な視点」ではなく、「聞きたい言葉」だけを返してしまう恐れがあるからだ。

午前3時、台湾在住で30歳の女性リー・アンさんは、不安な気持ちを抱えて眠れずにいた。だがその悩みを家族や友人に打ち明けることは難しかった。そんなとき、彼女はChatGPTに思いを綴ったという。「深夜にAIと話す方が、ずっと気持ちが楽なんです」と、英ガーディアン紙の取材で語っている。彼女にとってチャットボットは、他人に言いづらい感情を吐き出すための安全な手段となっている。

AIの台頭、その背後に進む「心のケア」のデジタル化

同じような経験を持つのが、中国・広東省に住む25歳の女性ヤンさんだ。彼女はこれまで心理カウンセラーに相談したことはなく、代わりに日常的にAIチャットボットと会話を交わしているという。「現実の人に心の内を話すなんて、私には無理です」と語る彼女は、AIとの対話に依存するようになった自覚があると話している。

台湾のトゥルーカラーズ診療所に所属する臨床心理士スー・イーシェン氏は、ガーディアン紙の取材に対し、「一定の範囲で、AIチャットボットは有益です。特に中国社会のように感情表現が抑圧されやすい環境では、AIが心の支えとなることもあります」とコメントしている。

スー氏はまた、台湾の学校や病院で精神的ケアの提供を推進しているが、「Z世代の若者は問題を話すことに対して比較的オープンになりつつある一方で、メンタルヘルスの支援体制はまだ整備途中です」とも指摘している。

台湾では、ChatGPTが最も広く利用されているチャットボットのひとつだ。一方、中国では西洋アプリの利用制限もあり、ユーザーは百度が開発したErnie Botや、最近登場したDeepSeekといった国産のAIに移行している。これらのチャットボットは、感情的なサポートや心理カウンセリングの要素も取り入れつつ、急速に進化している。

リーさんやヤンさんのように、AIとの対話を心理的な支えと感じる人は決して少数派ではない。特に若い世代を中心に、メンタルヘルスへの関心が高まる中で、チャットボットは心理相談の「新しい代替手段」として静かに浸透し始めている。 (関連記事: AIが「心の相談相手」に?広がるチャットボット依存と自殺トラブルの現実 関連記事をもっと読む

AI利用者に迎合しすぎ、効果的な防御機構の欠如

TechCrunchによる6月初めの報告では、Metaの月間アクティブユーザー数は約1億人、GoogleのGeminiは4億人、OpenAIのChatGPTに至っては6億人に達しているという。多くの人々が、こうしたAIを心の支えや感情の避難所として受け入れている状況だ。