評論:台湾が100億ドルで「米国のパイプ役」?アラスカLNG計画の不可解な投資

2025-06-12 16:04
台湾がアラスカ天然ガスパイプ計画に出資する価値はあるのか?写真には、米国アラスカの天然ガス採掘場に立つ雪に覆われた石油会社の看板が写っている。(AP通信)

台湾政府が、アラスカの天然ガスパイプライン計画に対して100億米ドル(約1兆5700億円)を出資しようとしている。これは常識的に考えて、まったく筋が通らない投資に見える。台湾がアメリカ側の要求を無抵抗に受け入れただけ――そう解釈してもおかしくない状況だ。

総統府秘書長・潘孟安氏は、頼清徳総統の指示で「アラスカ持続可能エネルギー会議」に参加。台湾はアメリカとの二国間エネルギー協力を深めることを目指しており、アラスカの天然ガスプロジェクトへの参加がその成果だと語った。

このアラスカ計画は、北極圏で産出される天然ガスを南部まで約800マイル(約1287キロ)のパイプラインで運び、現地で液化してアジアへ輸出するというもの。2026年に着工、2028年に運転開始予定で、総コストは440億米ドル(約6兆9000億円)。アメリカは台湾、日本、韓国に資金協力を求めており、台湾には最低でも100億ドル以上の出資が必要とされている。

だがこの計画、疑問点が多すぎる。

まず供給と需要の関係。台湾は消費側、アラスカは生産側だ。通常、消費側が生産インフラに出資するのはレアケースで、その理由として製品の希少性などが挙げられるが、天然ガスは世界中に供給元があるありふれたエネルギーだ。台湾がアラスカから輸入している天然ガスは全体の約10%にすぎない。

「船舶よりパイプラインの方が安定している」という見方もあるが、台湾のLNG輸入はどこからであってもすべて船舶によるもの。今回のパイプラインと台湾の輸送の安定性は直接関係していない。

しかもこのパイプライン、アメリカの公共インフラとして位置づけられるのか、それとも民間投資案件なのかもはっきりしない。アメリカでは通常、こうした設備はエネルギー企業が出資・建設・運営するもの。もし台湾が出資するなら、それは投資参加という意味を持つが、そのリスク評価や利益見込みに関する専門的な分析が全く示されていない。

政府資金を企業投資に使うなら、正当な専門評価と社会的合意が欠かせない。それがなければ、国民の税金を「政治的な一声」で動かすことになる。

加えて、問題は資金調達元。現在の政府基金では100億ドル(約1兆5700億円)を一度に投じる余力はなく、立法院での承認も困難。ここにきて政府が主権基金を立ち上げようとしているのは、このプロジェクトを進めるための布石かもしれない。

この構図、まるで米国が同盟国に「保護費」を請求しているようにも見える。実際、このLNG計画はアメリカ国内でも最もコストが高く、効率も悪く、他の国際プロジェクトと比較しても“割に合わない”とされている。それなのに、日韓台に負担を求めてくるのは、米国自身がこの計画のリスクとコストを負いたくないからにほかならない。

アメリカ側は「アジアにより安価にLNGを届けるため」と言うが、だったら米企業が自ら投資すれば済む話だ。日韓台は喜んで輸入するだろう。

実際、日本と韓国はまだ態度を保留しているか、より良い条件を引き出そうと交渉している。そんな中、頼政府だけがあっさり“膝をつき”、3月には中油がLNGの購入と上流投資を含む意向書にサイン。6月には潘氏をアラスカに派遣し、即座に参加を約束した。

この後、政府は資金の出どころを真剣に考える必要がある。そして、かつて主権基金を支持していた在野党の政治家たちも、この巨額資金を政府に自由に使わせてよいのか、再考が求められる。

本当にこの出資は、台湾を守るためなのか。それとも――売るためなのか。

​編集:田中佳奈