アメリカと中国は今週、ロンドンで新たな通商協議を開始する予定だ。今回の会談では、人工知能(AI)向け半導体、レアアース(希土類)輸出、留学ビザといった一連の対立案件について協議が行われる見通しだ。この協議は、先月ジュネーブで合意された「90日間の関税停止措置」に実質的な意味があるかどうかを見極める重要な局面とされており、世界経済およびサプライチェーンの安定にも大きな影響を与える可能性がある。
先月12日、ワシントンと北京はジュネーブで、100%を超える大半の相互関税を一時停止することで合意し、激化する貿易戦争の緊張緩和を図った。しかしその翌日、米商務省は中国の通信機器大手・華為(ファーウェイ)が開発したAI用半導体「Ascendチップ」に対する輸出規制のガイドラインを発表。このチップに米国の技術が不正に使用されている可能性があると判断したためだ。この動きに対し中国側は強く反発し、アメリカが合意の精神を尊重していないと非難。「休戦」ムードに早くも亀裂が入りつつある。
ジュネーブに行かなかった米商務長官が今回ロンドンに行く
中国商務部の報道官は、アメリカの措置を「誤ったかつ破壊的な行動」と批判し、ただちに是正するよう求めた。北京は長年にわたり、米国による中国企業の先端プロセス技術や半導体装置の取得制限政策を敵対的とみなし、事実上の技術封鎖だと強く反発している。両国のハイテク分野での対立は、単なる貿易問題にとどまらず地政学的な戦略競争へと拡大している。
米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席は6月5日に長時間の電話会談を行い、今後のロンドンでの交渉に向けた道筋を探った。トランプ氏は翌日、SNSで6月9日に両国間の正式な交渉が始まることを発表した。今回の会談には米商務長官ハワード・ルトニック氏が出席し、ワシントンがこの問題を重視していることを示すとともに、中国側の輸出規制に関する懸念に応じる姿勢とみられている。
レアアース(希土類)供給問題も両国間の重要な争点の一つだ。レアアースは自動車の電動モーターや軍事装備、ロボット技術など幅広い産業で不可欠な資源であり、中国は長年にわたり世界の供給を独占している。中国政府は今年4月、レアアースの輸出管理を強化する新たな許認可規定を施行し、世界の複数の自動車メーカーの供給網に混乱をもたらし、一部は生産停止のリスクに直面している。トランプ氏は最近の発言でレアアースに直接言及していないものの、5月30日に中国が協定違反をしているとの非難は、レアアース政策に対する間接的な批判と受け止められている。
米国の中国人学生ビザ制限が中国の抗議を招く
技術や資源問題に加え、最近アメリカ側が中国人学生のビザに対して新たな制限措置を打ち出し、物議を醸している。アメリカ国務長官のルビオ氏は5月28日、中国共産党と関係のある者や高度に機微な技術分野を専攻する学生を中心に、中国人学生のビザを積極的に取り消す方針を表明した。2023~2024学年度には27万人以上の中国人学生が米国で学んでおり、このビザ政策の変更は両国の人的・教育交流に影響を及ぼす可能性がある。
専門家は、今回のロンドン会談が両国の「限界線」を探る場になる可能性を指摘する。米国は半導体や国家安全保障の分野で強硬姿勢を強めている一方、中国はレアアースなど重要資源の優位性を握っている。両国がこの機会に摩擦の拡大を避け、全面対立に至らないかが注目されている。
編集:柄澤南 (関連記事: トランプ氏、対中半導体規制緩和を検討 レアアース輸出と「バーター交渉」本格化? | 関連記事をもっと読む )
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