トランプ氏、対中半導体規制緩和を検討 レアアース輸出と「バーター交渉」本格化?

2025-06-10 11:53
2025年6月9日、中国国務院副総理の何立峰氏(右)がロンドンで米国財務長官のベイセント氏と米中貿易交渉前に握手している。(AP通信)

ホワイトハウス国家経済会議(NEC)のケビン・ハセット委員長は9日、米中の交渉担当者がロンドンでの協議で合意に至る可能性が高いとの見通しを示し、中国がレアアースや関連する磁性材料の輸出を加速させるとの期待を示した。
英紙フィナンシャル・タイムズによると、トランプ米大統領は中国によるレアアース輸出の加速を条件に、同国への半導体輸出規制を緩和することを検討しているという。レアアースをめぐる攻防は、米国産業の急所に迫っているようだ。

ハセット氏はCNBCのインタビューに対し、「今回は短時間の会談となり、力強い握手で終わることになるだろう」と語ったうえで、「われわれの期待としては、その握手を機に、米国のあらゆる輸出規制が緩和され、レアアースも大量に放出される。その後で他の細かい事項について交渉すればよい」との見解を示した。トランプ政権が輸出規制の緩和を交渉材料とする意向を示したのは、これが初めてとなる。ただし、ハセット氏は具体的にどの規制を緩和するかには言及せず、「ここで議論されているのは、NVIDIAのような非常に高性能な製品ではなく、中国にとっても重要なその他の半導体である」と述べるにとどめた。

2025年6月9日、中国国務院副総理の何立峰とアメリカ財務長官のベセント率いる交渉チームがロンドンでの米中貿易協議前に撮影した集合写真。(AP通信)
2025年6月9日、中国国務院副総理の何立峰氏とアメリカ財務長官のベセント氏率いる交渉チームがロンドンでの米中貿易協議前に撮影した集合写真。(AP通信)

ハセット氏は、中国がレアアース輸出の緩和に「動きが鈍い」と不満を示し、ジュネーブ協議後の「非常に厄介な問題」になっていると述べた。「もし中国側が意図的に対応を遅らせれば、これらの材料に依存する一部の米国企業の生産に影響が出る可能性がある」とも指摘している。英紙フィナンシャル・タイムズによると、トランプ政権はかつて複数の中国半導体メーカーを米商務省の輸出管理対象リスト(ブラックリスト)に追加する計画を立てていたが、一部の政権関係者が米中貿易交渉への悪影響を懸念し、実施の見送りを主張したという。仮にトランプ氏が本当に半導体輸出規制の緩和に踏み切れば、バイデン政権以降の「チップ戦争」における米国の政策が大きく転換することになる。

米中両国の代表団は9日、ロンドンで第2回となる貿易交渉を実施した。米国側はスコット・ベセント財務長官、ジェイミソン・グリア通商代表、ハワード・ルートニック商務長官らが出席し、中国側は経済政策を担当する何立峰副首相が代表を務めた。
日経アジアによると、9日の協議は数時間に及んだ後、いったん中断され、10日午前に再開される見通しだという。トランプ氏は記者団に対し、「中国は一筋縄ではいかない相手だ」と述べつつも、「米国代表団は非常によくやっている」と強調。ロンドンから「良い知らせが届いている」とも語った。

トランプ大統領は再び「中国は長年にわたって米国の利益を搾取してきた」との主張を展開した。一方で、「われわれは中国市場の開放を望んでいる。もしそれがかなわなければ、われわれは何も成し遂げられないかもしれない」とも述べた。
『日経』は、今回の協議の焦点が、米中双方による輸出規制の緩和にあると報じており、中国のレアアースと米国の半導体が主な議題となっている。
しかし、中国が9日に発表した貿易統計によれば、ジュネーブで「休戦協定」が結ばれたにもかかわらず、米中という世界二大経済大国のデカップリング(経済的分断)はむしろ加速している。5月の対米輸出は前年同月比34.5%減と大幅に落ち込み、4月の21%減からさらに減少幅が拡大。一方、米国からの輸入も18.1%減となり、4月の13.8%減を上回った。

米中両国にとどまらず、双方による輸出規制は第三国の産業にも深刻な影響を及ぼしている。ロイター通信によると、中国の輸出制限により磁石の供給が不足し、焦りを募らせる自動車メーカーや部品サプライヤーが代替供給源の確保に奔走しているという。
一部の企業は「代替磁石が確保できなければ、工場の稼働は7月中旬にも止まる」と警告しており、「自動車業界全体がパニック状態にある」との声もあがっている。欧州自動車部品工業会(CLEPA)は、すでに複数の自動車部品工場が操業停止に追い込まれており、今後さらに停止が広がる見通しだと発表した。ロイターはまた、中国のレアアース供給が一段と厳格になる中で、世界の自動車産業の行方は、レアアース輸出許可を審査するごく少数の中国当局者の判断に左右される状況にあると指摘している。

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