中露の首脳はこの12年間で40回以上も会談してきた。こうした頻繁な交流は、両国の戦略的な結びつきを象徴するものと見られている。だが、『ニューヨーク・タイムズ』が入手したロシア連邦保安庁(FSB)の機密文書によって、その裏では情報戦が繰り広げられ、中国が「敵」と位置づけられていることが明らかになった。
この文書は、ハッカー集団「Ares Leaks」によって流出したもので、8ページにわたる覚書が含まれている。FSB第7局、アジア関連を担当する部署が作成したもので、日付は明記されていないが、内容から見て2023年末〜2024年初頭のものと推定されている。『ニューヨーク・タイムズ』が西側の6つの諜報機関と照合した結果、信憑性が高いと判断された。
露ウクライナ侵攻前から中国を警戒
文書によれば、ロシアがウクライナ侵攻を始める3日前、FSBは「Entente-4」という名の反情報作戦を発動。表向きには友好関係に見えても、裏では警戒を緩めていないことを示す作戦名だ。
中国はロシア軍のウクライナでの戦闘経験に注目し、西側の兵器に対するロシアの対応戦術を分析しようとしていた。中国側は特にドローン、兵器開発、制御システムや空力設計といった分野の専門家をリクルートしており、その対象には体制に不満を抱える者や経済的に追い詰められた人々が含まれていたという。
ターゲットのひとつには、ソ連時代に開発されて中断された「エクラノプラン」(地効果翼機)も挙げられている。中国の情報機関がこの技術に再び目を向けているとみられている。
また、ロシア側は中国の学者がロシア極東地域で「古代中国人の足跡」を探し、歴史的な地名を地図に復元しようとする動きを警戒。民族物語を利用した世論誘導の可能性があるとして、政治色の強い学者の入国制限を求める指示が出されていた。
「敵」と呼ばないが、疑念は根深い
プーチン氏と習近平氏は2013年以降、40回以上会談。互いを「古い友人」と呼び、国際舞台での共闘姿勢を演出してきた。この個人的な親密さは、中露関係に戦略的な安定感を与えていると評価されてきた。
このような頻繁な交流は、世界の指導者の中でも珍しく、中露関係の「戦略的安定性」に両首脳の関係性という側面を加えている。しかし、このような高層での親密さも、安全保障システムにおける冷戦思考を払拭することができなかった。

より興味深いのは、ロシア内部では中国に対する見方が分かれている。英に亡命したロシアの情報専門家ソルダトフ氏は「政治指導者たちは中国との関係強化に熱心だが、情報機関はこの“友情”をまったく信じていない」と語った。
FSB内部では、中国を公式に「敵」と呼ぶのは控えるよう指示が出されていたという。外交関係への影響を考慮しての措置だが、水面下での情報収集や反制作戦は今も継続している。 (関連記事: ロシア版「真珠湾攻撃」 ウクライナ無人機が戦果、ロシア軍極東基地まで爆撃 | 関連記事をもっと読む )
確かに、中国は経済面と技術面でロシアを支えている存在でもある。石油の最大の買い手であり、半導体や軍需部品も供給。また、西側企業が撤退した後のロシア市場にも積極的に進出している。表向きには完璧な“協力関係”に見えるが、今回の文書は、その舞台裏にある複雑な現実を浮き彫りにした。