トップ ニュース ホンジュラス大統領選、トランプ氏の「支持表明」影響浮上 開票率84%で1ポイント差
ホンジュラス大統領選、トランプ氏の「支持表明」影響浮上 開票率84%で1ポイント差 2025年ホンジュラス大統領選。中道右派「自由党」の候補者サルバドール・ナスラヤ氏が、記入済みの投票用紙を示す様子(AP通信)
11月30日、米 中ホンジュラスで大統領選と議会選挙が行われた。開票状況を見ると、右派系の野党2党が議会選で躍進し、改選後の議席は合計90議席に達する見通しとなった。これは憲法改正の発議ラインを超える数である。一方、大統領選では、ドナルド・トランプ氏が支持を表明した右派・国民党(PN)の候補ナスリ・アスフラ氏が、前副大統領のサルバドル・ナスラヤ氏をわずか1ポイント未満の差でリードしている。世論調査では両者が拮抗し、アスフラ氏がわずかに優位と見られていたが、開票の過程ではナスラヤ氏が一時1万票近いリードを奪う場面もあった。意外な接戦の展開により、トランプ氏が隠そうともしない「選挙介入」があらためて注目を集めている。
選挙開始3 6時間前、トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿し、自分が推す候補が敗れた場合、米国はホンジュラスにこれ以上「 無駄な出費をやめる」 と警告した。同じ投稿で、悪名高い元ホンジュラス大統領フアン・オルランド・エルナンデス氏に対する「赦免」を一方的に宣言し、彼は政治的な操作の犠牲となり「司法不公」に遭ったと主張した。エルナンデス氏はトランプ氏が支持するナスリー・アスフラ氏と同じ右派・国民党(PN)所属で、2004年頃から麻薬組織から賄賂を受け取りコカイン数百トンを米国に密輸する計画に関与したとして、2024年に米ニューヨークの裁判所から懲役45年の判決を受けている。
ホンジュラス国民党から出馬した前テグシガルパ市長のナスリ・アスフラ氏(AP通信)
選挙翌日の月曜日、ホンジュラスの有権者が目を覚ますと、自国の政治に対してトランプ氏の言動が現実に影響を及ぼしているという感覚が、一段と強まっていた。
大統領選の開票作業は5日目に入り、現地時間12月4日未明の時点で開票率は84.4%に達した。トランプ氏が強力に後押しするアスフラ氏と、中道右派「自由党(PL)」のナスラヤ氏の争いは依然として大接戦で、得票率はそれぞれ40.05%と39.75%。途中経過ではナスラヤ氏が一時1万票近いリードを築いたものの、現在は逆にアスフラ氏が約8000票差でわずかに先行している。左派与党「自由再建党(リブレ)」の候補リクシ・モンカダ氏は、大きく水をあけられている。ホンジュラス出身で、米国務省西半球担当の首席次官補代理を務めたリカルド・スニガ氏は、選挙戦はまだ決着していないと前置きした上で、「米大統領による強い『お墨付き』が、明らかに態度を決めかねていた有権者をアスフラ氏に傾かせた」と分析する。
米紙『ニューヨーク・タイムズ』によると、ホンジュラスの政治アナリストは、与党リブレに対する失望感が広がるなか、多くの有権者が「新しい選択肢」を求めながらも、アスフラ氏とナスラヤ氏のどちらに投票すべきか決めかねていたと口をそろえる。そうした状況の中で、トランプ氏は選挙直前になってアスフラ氏支持を公然と打ち出し、ナスラヤ氏を「ほとんど共産主義者だ」と非難した上で、「自分が推す候補が敗れれば、米国はホンジュラスにこれ以上ムダ金を使わない」と、事実上の資金打ち切りをちらつかせた。この投稿は国内外のメディアで大きく報じられた。スニガ氏は、「ホンジュラス社会は米国との対立を望んでいない。そこが今回の重要な要因だと思う」と指摘する。
アスフラ氏とナスラヤ氏は選前の世論調査で互角の支持を得ていたものの、終盤に入るとデータ上はナスラヤ氏がわずかに優勢となり、さらに多くの有権者が投票先を決めきれずにいた。こうした状況で、トランプ氏の支持表明はアスフラ陣営が劣勢を縮める追い風になった可能性が高い。AP通信の分析によれば、現職の自由再建党政権(カストロ大統領)下でホンジュラスの殺人率は低下し、経済の基礎指標も改善しているにもかかわらず、多くの国民はノスタルジーから「前政権(エルナンデス時代)のほうが暮らしが良かった」と感じているという。
トランプ氏によるエルナンデス元大統領の特赦宣言は、まさにその記憶を喚起し、一部有権者の最終判断に影響した。アスフラ氏個人をよく知らなくとも、国民党の名は知っている。そしてエルナンデス政権下の社会住宅支援、生活必需品やガソリンの安さを覚えている──そうした記憶が、アスフラ氏への投票につながったのだ。国際透明組織ホンジュラス支部のカルロス・エルナンデス氏は「状況は明らかだ。ナスラヤ氏が優勢だったが、最後の4日で流れが変わった。理由は皆わかっている」と語り、政治アナリストのホアキン・メヒア氏もトランプ氏の後押しについて「死者を蘇らせたようなものだ」と断じた。
トランプ、伝統的なラテンアメリカ外交政策を捨て、各国指導者を取り込む アスフラ氏、ナスラヤ氏の両陣営は「トランプ推薦」の威力を十分理解しており、選挙前にワシントンを訪れ、共和党系のトランプ氏側近と相次いで会談した。ナスラヤ氏は選挙運動でトランプ氏への敬意を示そうとし、妻が象徴的なMAGA帽をかぶるなどアピールを試みたが、肝心のトランプ氏は彼を支持せず、SNSでは「彼は自由の友ではない」と切り捨て、左派勢力の味方で出馬の目的は票割れだと批判した。選挙戦終盤では 三人の 候補が互いに買収疑惑や不正操作を警告し合い、その多くは与党・自由再建党に向けられていたが、実際の開票状況を見る限り、ホンジュラスは右派勢力同士の争いに突入している。
ホンジュラス自由党の選挙集会の様子(AP通信)
ここ数十年、米国の対ラテンアメリカ政策は自由貿易と民主選挙の促進に重点があり、選挙監視団の派遣や「特定候補を支持しない中立姿勢」が外交官の基本だった。しかしトランプ氏のアプローチはそれと正反対で、軍事・経済・政治的影響力を駆使し、西半球で米国の主導権を最大化させることを狙っている。
続いて、トランプ氏はホンジュラスの大統領選でアスフラ氏への全面的な支援を打ち出した。首都テグシガルパ(Tegucigalpa)市長としての実績を称賛し、民主主義の擁護者であり、ベネズエラの独裁者マドゥロ(Nicolás Maduro)に立ち向かう人物だと持ち上げた。
米国務省で西半球担当の元副次官補、スニガ氏によれば、米国が外国選挙で特定候補を明確に支持することは極めて異例であり、実際、ホンジュラスの米国大使館はここ数週間にわたり中立を維持し、「選挙の透明性と公正」を求める声明を出すにとどめていたという。スニガ氏は「多くの事例と同じく、政策転換はトランプ氏が直接関与した瞬間に起きる。政策とは、大統領の意思そのものだ」と語った。
トランプ氏がなぜアスフラ氏を選んだのかは不明なままだ。ただ、同じ右派・国民党(PN)出身の前大統領エルナンデス氏を突然恩赦したことで、大きな衝撃が走った。これをきっかけに、多くの有権者がエルナンデス氏の過去、すなわち麻薬組織との癒着やコカイン密輸への関与を改めて思い出し、反対派はアスフラ氏とエルナンデス氏を結び付けようとした。
アスフラ氏はこれに直接反論することを避け、「恩赦がエルナンデス氏の家族の苦しみに終止符を打った」とのみ述べている。エルナンデス氏は12月1日にウェストバージニア州の刑務所を出所し、12月3日にはSNSで自らの無罪を改めて主張、トランプ氏への謝意を示した。妻ガルシア氏は、身の安全に配慮して当面は「秘密の保護場所」に滞在していると説明した。
アナリストによれば、アスフラ氏とナスラヤ氏の選挙活動は政策が乏しく、互いを攻撃するメッセージが多くを占めていた。両者とも「雇用創出」「治安改善」を掲げる点は共通しているが、アスフラ氏は企業投資の促進を訴え、市長時代の実績をアピール。選挙戦ではジーンズ姿で支持者と踊りながら演説し、「与党が不正を画策している」と強い口調で非難した。
一方、ナスラヤ氏は「潔白」を前面に押し出し、左派・自由重建党を麻薬取引との関係で批判したが、現職のカストロ大統領はこれを否定。
ただし、ナスラヤ氏には「政治的変節者」との評価もつきまとう。かつてカストロ政権の副大統領を務めていたが、2024年に辞任し、その後右派・自由党から大統領選に出馬したためだ。 とはいえ、長年テレビ司会者として国民に知られた存在で、「顔を知らない人はいない」と言われるほど高い知名度を誇る。若々しさを演出するため、スポーツウェアとサングラス姿で、元ミスコン女王で現職議員の妻と共に遊説した。選挙直前のインタビューでは、「いまこそ絶好の機会だ」と強い自信を示していた。
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