AP通信社のデイジー・ヴィーラシンハム社長兼CEOが11月12日、日本記者クラブで会見し、急速に変化するメディア環境の中で、同社が取り組むデジタル戦略、AI活用、収益モデルの多角化、さらにアメリカの報道自由を巡る現状について説明した。
冒頭、司会者より同氏の経歴が紹介され、ロンドン出身でフィナンシャル・タイムズ紙を経てAP通信社に入社し、欧州・中東・アジアでマーケティングや映像事業拡大を進め、2019年に常席副社長兼最高収益責任者となり、2022年に第14代社長へ就任したことが説明された。米国外出身者として初、女性としても初の社長であることが紹介された。
ヴィーラシンハム氏は、消費のパターンが大きく変化し、AIを含む技術革新が全産業に影響を与える中で、メディアも財務上のプレッシャーや偽情報の増加に直面していると指摘した。そのうえで、APが取り組む重要領域として、「デジタルファーストの報道」「収益源の多角化」「AIによる組織とジャーナリズムの進化」を挙げつつ、「使命の中核である信頼は変わらない」と強調した。
同氏は、デジタル環境での受け手の行動変化に触れ、ビジュアルジャーナリズムへのシフトを説明。APは毎日5000本のジャーナリズム素材を生産し、約75%がビジュアル重視の内容になっていると述べ、オンラインやモバイルでニュースに触れる受け手に対し、視覚的で分かりやすい形式の重要性が高まっているとした。また、読者のアテンションスパンの低下、若年層のSNS移行、ニュース回避の増加など、オーディエンスの急速な変化に対応する必要性を語った。
さらに、同社の収益モデルについて、従来のライセンス契約や購読だけでは持続可能性が保てないとし、広告、寄付、サービスビジネス、データ事業など多様なモデルを組み合わせる必要があると説明。収益の約40%が米国外で占められるようになった現状を紹介した。
AI活用については、APが2023年に米オープンAIと報道機関として初めてライセンス契約を結んだ経緯を説明し、「知的財産権の尊重」と「クリエイターへの公正な補償」という原則を明確に掲げていると述べた。記事生成そのものでは、翻訳、文字起こし、ショットリスト作成、タグ付け、ユーザー生成コンテンツの真偽確認、見出し案・要約など多分野でAIを活用しているものの、「最終的な編集・確認には必ず人間のジャーナリストが関与する」と繰り返し、透明性と基準維持の重要性を強調した。
また、アジア地域の取材について、中国の影響力拡大を踏まえ、監視・検閲・人権・経済など多様な角度からの調査報道の重要性を語り、現地報道とグローバルな視点を組み合わせることで、複雑な状況を多面的に伝える意義を説明した。「正確で独立した事実に基づくジャーナリズムは、これまで以上に重要になっている」と述べ、報道の自由は民主主義の基盤となる権利であると強調した。
質疑応答では、収益の多角化やプラットフォーマー収入、AI契約を巡る議論、メディアのマネタイズ、ライブビジネス参入の可能性などについて質問が寄せられた。ヴィーラシンハム氏は、プラットフォーマーとの収益割合が変化していることに触れつつ、新聞社からの収入が減少している現状を認めた。また、APとしてライブビジネスの領域に参入する役割はないとし、多様なビジネスモデルを複数同時に運営する必要性を述べた。
報道の自由についての質問には、アメリカのファーストアメンドメント(憲法修正第1条)が「チャレンジを受けてはいるが無傷である」と回答し、言論の自由を守る姿勢は揺らがないと断言した。また、BBCに関する質問には個別コメントは避けつつ、報道機関は誤りがあれば透明性を持って速やかに是正する必要があると述べた。
最後に、日本記者クラブが同氏の訪日時に時間を割いたことへの謝意を示し、会見は締めくくられた。
世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版X:@stormmedia_jp
(関連記事:
日本新聞協会・中村史郎会長「生成AIの無断利用が報道を脅かす」 法整備の必要性を訴え
|
関連記事をもっと読む
)
編集:小田菜々香




















































