夢は美容師だった――ノーベル平和賞受賞者ナディア・ムラド氏、台湾・中央研究院で語った「ISによる性被害と生還」

2025-12-04 15:09
ナディア・ムラド(Nadia Murad)氏と中研院の廖俊智院長との記念写真。(写真/中央研究院)
ナディア・ムラド(Nadia Murad)氏と中研院の廖俊智院長との記念写真。(写真/中央研究院)

台湾の最高学術機関である中央研究院と国際平和基金会(International Peace Foundation)が共同で推進する「台湾ブリッジプログラム」は、12月1日、第2回目の著名な講演を迎えた。2018年ノーベル平和賞を受賞した、国連薬物・犯罪問題事務所の人身売買生存者親善大使であるナディア・ムラド氏は、静かな強さで「紛争関連性暴力」(Conflict-related Sexual Violence, CRSV)の過酷な現実を語った。その言葉の重みは、もし痛みが重量を持つなら、ムラド氏が背負ったのはおそらく民族全体の血と涙の歴史だっただろう。

血で染まったコチョ村 故郷が地獄と化した時

ムラド氏の毅然さを理解するためには、2014年の夏に戻る必要がある。

ムラド氏はイラク北部の少数民族ヤズディ(Yazidis)出身で、古代の信仰を持ち、長年誤解され、周縁化された民族だ。2014年8月、過激組織「イスラム国」(IS)が黒い旗を掲げて彼女の故郷コチョ村(Kocho)に侵攻した。ヤズディにとって、それは単なる侵略ではなく、民族浄化だった。

ナディア・ムラド(Nadia Murad)と国立中山大学社会科学学院の陳美華特任教授の対談。(中央研究院)
ナディア・ムラド(Nadia Murad)氏と国立中山大学社会科学学院の陳美華特任教授の対談。(中央研究院)

その年、ムラド氏は21歳で、未来に希望を抱いていた時期だった。しかし、過激組織の武装勢力が村の男たちと年長の女性たちを虐殺し、若い女性や少女たちを強制的にさらっていった。ムラド氏もその一人で、地獄のような囚われの中で尊厳を失い、家族も失った。しかし、生死の間隙で彼女は逃げるわずかなチャンスを掴んだ。

「逃げた時、私は本当の自由を手にしたわけではない。私の魂は今もそこに残っています。」と、ムラド氏は講演の中で台湾の中山大学社会科学部特任教授の陳美華氏との対談で静かに語った。

ただの被害者ではない 傷を鋭い剣に変えた生存者

多くの人々はトラウマに直面すると、忘れたり隠したりすることを選び、これは自己防衛の一形態で、心理学では「解離」と呼ばれる。しかし、ムラド氏はもっと困難な道を選んだ。彼女は自分が単なる「被害者」(victim)として定義されることを拒み、「生存者」(survivor)として、さらに「活動家」(activist)として立ち上がることを決意した。この決意こそが、ムラド氏が「世界の衝突関連性暴力の終焉をどう導くか—個人の物語の力と活動家の役割」(Who Can Influence the End of CRSV Worldwide? – The Power of Personal Stories and the Role of Activism)をテーマに講演を行った中心的な訴えでもあるのだ。

ニュースの補足:紛争関連性暴力(CRSV)

「紛争関連性暴力(CRSV)」は、紛争の状況で直接的または間接的に行われる性暴力を指し、強姦、性奴隷、強制売春、強制妊娠、強制中絶、強制不妊、強制結婚などが含まれる。このCRSVは、国連安全保障理事会で数多くの決議を通じて、戦争の副産物ではなく、戦争戦略やテロリズムの手段として使われ、国際的な平和と安全に深刻な脅威を与えていると認識されている。

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