中国の「幸福強制令」発布 悲観禁止令で論評抑制、社会現象の説明でも警察が訪問

2025-12-02 15:15
中国経済。(写真/AP通信提供)
中国経済。(写真/AP通信提供)

中国山東省の渤海沿岸に位置する濰坊市は、人口約900万人の大都市だ。地元政府の統計によれば、市民の99.1%が公共の安全に「満足」と回答し、昨年の犯罪発生率も低下したという。一見すると治安は極めて良好だが、濰坊の警察が今もっとも頭を悩ませているのは、秩序維持や犯罪対策ではなく、住民の間で膨らみ続ける「負の感情」への対応だ。

英誌『エコノミスト』は、濰坊市公安当局が11月17日に発表した公告を報じている。それによれば、過去1カ月に起きた一連の事例が列挙されているものの、その内容は理解しがたく、何が「違法」とみなされるのか基準がきわめて曖昧だ。

たとえば、ある男性は農業政策を批判する動画をSNSに投稿したところ、「フォロワーを増やすために事実を歪めた」とされ、警察は本人を説得して動画を削除させたという。また、ある学生は学校でトラブルを起こした後、ネット上で「教師からのいじめ」を訴えたが、警察はこれを「学校の名誉を傷つけた」と判断し、学生を連行して厳しく訓戒し、行動を改めさせたとしている。

こうした「感情の管理」を行う自治体は濰坊に限られない。中国全体では、悲観的な感情を抑え、前向きな感情を奨励する全国的なキャンペーンが進められている。ただし、これは今に始まった動きではない。2012年に習近平氏が党・政府・軍の最高指導者に就任して以降、宣伝政策の中心には「正能量(ポジティブエネルギー)」を称揚する方針が据えられている。特にインターネット世論の統制を重視しており、政府を批判すればSNSアカウントが停止される可能性もある。

The Chinese Communist Party’s latest campaign to squash pessimism and promote positivity has taken aim not at criticism of the government but rather at depictions of reality. In such a situation censorship can only mask the symptoms of economic gloomhttps://t.co/l3X7Vhdvbx

— The Economist (@TheEconomist)November 28, 2025

いま警察がかつてないほど厳しい基準で市民の「感情表現」まで取り締まっている背景には、中国当局が抱えるより大きな問題がある。もっとも顕著なのは景気の低迷だ。最新の公式統計では、16〜24歳の非学生層の失業率が17%に達しており、他国と同様、不満を抱えた若者とSNSの拡散力が結びつけば、社会不安につながりやすい。 (関連記事: トランプ氏のウクライナ和平案に中国が注視 台湾戦略に転用か 関連記事をもっと読む

さらに、世論の風向きそのものも変わりつつある。これまで数十年にわたり、中国は世界でも屈指の「楽観的」な社会とされ、「明日は今日より良くなる」という信念が共有されてきた。だがここ数年、その前提が揺らぎ始めている。

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