南アジアを直撃したサイクロン・ディトワで死者900人超　インドネシアでは食料略奪、スリランカは大津波の悪夢再び

南アジアと東南アジアが相次いで壊滅的な自然災害に見舞われている。英紙『ガーディアン』によれば、強力なサイクロン「ディトワ（Cyclone Ditwah）」と季節風による豪雨が重なり、インドネシア、タイ、スリランカの3カ国で深刻な洪水や土砂崩れが発生した。12月1日までに確認された死者は900人を超え、さらに数百人が行方不明となっている。

スリランカ当局は、今回の災害を「2004年のインド洋大津波以来、最も深刻な自然災害」と位置づける。インドネシア・スマトラ島でも400人以上が死亡し、被災者が泥まみれになりながら物資を奪い合う光景も確認された。

国境をまたいで被害が広がる今回の災害は、気候危機への警鐘を改めて鳴らすものとなり、極端気象がより頻繁かつ致命的な形でアジアを襲っている現状を浮き彫りにした。

スリランカ20年で最悪の天災　334人死亡、首都が浸水

サイクロン「ディトワ（Cyclone Ditwah）」は11月28日にスリランカへ上陸し、記録的な豪雨をもたらした。これにより島全域で大規模な土砂崩れと洪水が発生し、11月30日までに死者は334人に増加、さらに多くの住民が行方不明となっている。政府によれば、首都コロンボの低地は広範囲で水没し、約20万人が家を失って1,275か所の臨時避難所に身を寄せているという。

今回の災害は、2004年に約3万1,000人が死亡し、100万人以上が家を失ったインド洋大津波に次ぐ、過去20年で最悪規模の自然災害となっている。

アヌラ・クマラ・ディサナヤケ大統領は国家の非常事態を宣言し、国際社会の支援を受けて復興に取り組む姿勢を示した。大統領は「これは私たちの歴史で最大級、かつ最も困難な自然災害だ。必ず以前より良い国を再建する」と述べた。

当局によると、「ディトワ」はスリランカ東方の海域で発達したもので、今後30日以降にはインド南部の沿岸へ進む可能性があるという。

被災者の厳しい状況は胸を締めつける。コロンボに住む46歳の女性セルヴィ（Selvi）さんは、衣類を詰めた4袋と貴重品だけを抱えて自宅から避難した。「家は完全に水没してしまいました。これからどこへ行けばいいのか分かりません」と『フランス通信社』に語った。

また、コロンボ北東部のマナンピティヤ（Manampitiya）では、72歳のシヴァナンダン（Sivanandan）さんが恐怖を明かす。地域はこれまでも洪水が頻発してきたが、「これほどの水量は見たことがない」と話し、自身の店の前では車が濁流にのまれて横転していたという。

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東部の町ウェラワヤ（Wellawaya）に住む女性は、激しい轟音を聞いて外に出たところ、山肌から転げ落ちた巨大な岩が自宅近くで止まっているのを目撃したという。避難所に移った後、彼女は記者に「岩が動くたびに木々がなぎ倒されていくのが見えました。恐ろしくて家には戻れません」と語った。

インドネシアで442人死亡、被災者は絶望的に物資を求め商店略奪が発生

インドネシアでも被害は深刻だ。これまでに確認された死者は442人に達し、依然として402人が行方不明となっている。スマトラ島の一部地域は洪水で外部と孤立し、数千人が取り残されて必要な物資が不足している。30日時点で少なくとも2地域には依然として立ち入ることができず、政府はジャカルタから軍艦2隻を派遣して物資輸送を急いでいるものの、救援は被災者の需要に追いついていない。

『AP通信』によれば、豪雨による土砂崩れで道路が寸断され、通信も途絶した後、飢えと不安が高まった一部地域では略奪が発生した。住民らは倒壊寸前のバリケードや冠水した道路、割れたガラスを踏み越え、濁流をかき分けながら食料や薬品、ガスボンベを奪い合ったという。

現地警察の報道官は『AP通信』に対し、「略奪は後方支援が届く前に起きた。住民は支援が来ることを知らず、飢え死にの不安に駆られていた」と説明した。

西スマトラ州の州都パダン（Padang）では、41歳の生存者アフリアンティ（Afrianti）さん一家9人が、自宅に唯一残った壁のそばにテントを張って身を寄せている。彼女は「家も店も商売もすべて失いました。何一つ残っていません。残ったのはこの壁だけで、ここに住むしかないのです」と絶望を語った。

パダンから約60マイル（約96キロ）離れたスンガイ・ニャロ（Sungai Nyalo）村では、30日までに洪水がほぼ引いたものの、厚い泥に覆われた家屋、車、農作物が残されたままだ。住民は『フランス通信社』に対し、道路の清掃は始まっておらず、外部からの支援もまだ届いていないと述べた。

北海岸へ向かう途中では、絶滅危惧種のスマトラゾウが厚い泥と瓦礫の下から見つかった。また、北タパヌリ（North Tapanuli）では、生存者が救援物資を運ぶヘリコプターに向かって必死に手を振っており、海軍の艦艇4隻が港に到着し、物資の配布を支援している。

タイも今回の洪水で甚大な被害を受け、少なくとも162人が死亡した。これは同国で過去10年の中でも最悪級の洪災となっている。政府は物資輸送と復旧作業を進める一方、遺族への補償など救済策を打ち出しているが、対応の遅れに対する国民の不満は高まっており、すでに地方当局者2人が職務怠慢の疑いで停職処分を受けている。

気候危機の警鐘　モンスーンの期間が9月から11月まで続き、風雨はより厳しさを増す

この南アジアから東南アジアにまたがる大災害は、決して偶然ではない。専門家は、例年6〜9月は元々モンスーン期にあたるものの、気候危機によって暴風雨のパターンが変化し、雨量はより激しく、風はより強く、そして長時間に及ぶ傾向が強まっていると指摘する。

今年は熱帯性低気圧が季節性の降雨を一段と強めたことで、インドネシアとタイでは洪水による死傷者数が近年で最多規模となった。サイクロン「ディトワ」がインド南部へ向けて移動を続けるなか、南アジア一帯ではいまだ警戒が解けない状況が続いている。

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編集：柄澤南 （関連記事： インドネシアのスマトラ島で大雨被害、174人死亡・8万人避難 ｜ 関連記事をもっと読む ）

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