トップ ニュース トランプ氏、軍事圧力でイランを交渉の席へ──英誌が描く「協議決裂時」の3つの軍事シナリオと双方の譲れない一線
トランプ氏、軍事圧力でイランを交渉の席へ──英誌が描く「協議決裂時」の3つの軍事シナリオと双方の譲れない一線 ホワイトハウスの大統領執務室にて、メディアの質問に応じるドナルド・トランプ米大統領。(写真/AP通信提供)
米国が過去20年で最大規模の軍事力を中東に展開する中、イランに譲歩の兆しが見え始めた。米国とイランは26日(木)にジュネーブで核協議を再開する見通しだ。イラン側は「制裁解除と引き換えに、高濃縮ウランの希釈および国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れ」を表明している。しかし、米特使は「ウラン濃縮ゼロ」という譲れない一線を主張しており、交渉の行方は予断を許さない。
英誌『 エコノミスト 』は、もし26日のジュネーブ交渉が決裂すれば、ドナルド・トランプ氏は困難な決断を迫られると分析している。斬首作戦を実行するか、革命防衛隊を破壊するか、それとも核施設を再び爆撃するか。米国は軍事力で圧倒的優位にあるものの、軍事攻撃が「イランの政権交代」や「核合意の推進」を保証するわけではなく、かえって米国を底なしの中東の泥沼に引きずり込む恐れがある。
トランプ氏の大軍集結は奏功か? 米国とイラン、木曜に交渉再開へ 米『 ブルームバーグ 』によると、仲介役のオマーンは、米国とイランが26日(木)にスイスのジュネーブで会談を再開する見通しだと明らかにした。イランの外務大臣・アラグチ(Abbas Araghchi)氏が、トランプ氏の中東特使スティーブ・ウィトコフ(Steve Witkoff)氏と会談し、イランの核開発計画を巡る膠着状態の外交的解決を模索する。 英紙『ガーディアン 』は、トランプ氏のホワイトハウス復帰後、米国とイランの関係は極度の緊張状態にあると指摘している。トランプ氏は20日、イランに対する限定的な軍事打撃を検討しているとさえ述べた。
『エコノミスト』は、トランプ氏が中東地域に「過去20年で最大規模の軍事力」を集結させたと報じている。これには空母2隻、米海軍艦艇の3分の1以上、戦闘機200機が含まれ、E-3早期警戒管制機や空中給油機などの支援機も配備されている。海上には数百発のトマホーク巡航ミサイルを発射可能な軍艦が展開し、さらにサード(THAAD)やパトリオットミサイル防衛システム、誘導ロケット弾を搭載したF-15E戦闘飛行隊も進駐し、イランの無人機(ドローン)の脅威に備えている。
トランプ氏の中東特使であるウィトコフ氏は21日、米FOXニュースのインタビューで、米側の強硬姿勢を隠そうとはしなかった。「彼(トランプ氏)は不思議に思っている。なぜ彼ら(イラン)はまだ……『降伏(capitulate)』という言葉は使いたくないが、なぜ彼らはまだ降伏していないのか」。ウィトコフ氏はさらに続けた。「我々がこれほど強力な海空軍力を展開している中で、なぜ彼らはまだ我々のところへ来て、『我々は兵器を望んでいない、だからこうする準備がある』と言ってこないのか」
イランのアラグチ外相は22日、米CBSに対し、双方の交渉担当者が26日(木)にジュネーブで会談し、「迅速な合意」を目指す見通しであると語った。しかし同氏は同時に、もし米国が攻撃を仕掛ければ、イランは自衛権を絶対に行使すると警告し、イラン国内の米軍基地が報復の標的になる可能性を示唆した。英紙『フィナンシャル・タイムズ』は22日、イランが5億ユーロ相当の武器購入を承認し、今後3年間でロシアから数千発の最新鋭肩撃ち式ミサイルを購入する予定だと報じた。
2025年2月18日、米国の中東特使ウィトコフ氏。(写真/AP通信提供)
イラン外相:新たな核合意は「恒久的な平和」をもたらす 『ガーディアン』によると、イラン側の交渉における最低条件は、「国連の核監視機関である国際原子力機関(IAEA)の監督下で、『平和利用』のためにウランを濃縮する権利を維持すること」である。その見返りとして、イランは既存の高濃縮ウラン在庫を希釈し、以前爆撃を受けた核施設へのIAEAの査察を受け入れ、それによって米国の経済制裁解除を求める構えだ。
この進展により、米共和党内でトランプ氏にイラン爆撃を求めていた「主戦派」(リンゼー・グラム上院議員など)の発言力は弱まりつつある。現在、トランプ氏が直面している最大の政治的課題は、いかにして米国の有権者に、この新合意が2015年にオバマ政権主導で締結され、トランプ氏自身が2018年に離脱を決めた「包括的共同行動計画」(JCPOA、いわゆるイラン核合意)よりも「優れている」と証明するかだ。
アラグチ外相はCBSに対し、新合意はJCPOAのような煩雑な手続きはないものの、より進歩的な内容になるだろうと明かした。JCPOAには「期限(サンセット条項)」(例:「今後15年間、イランは新たなウラン濃縮施設を建設してはならない」といった規定)があったが、新合意はイランの核計画が「恒久的に平和的であること」を約束するものになるという(2015年のJCPOAには時間制限があった )。専門家は、イランが原則として原子力発電のためのウラン濃縮の権利を保持する可能性はあるものの、実際にそれを行う能力は厳格に制限されるだろうと分析している。
しかし、核合意の詳細については、トランプ氏と他の高官の間で矛盾が生じているようだ。ウィトコフ氏は21日、FOXニュースに対し、「濃縮ゼロ」は合意に向けた交渉不可能な条件であると語った。これは、半国営の『イラン学生通信』(ISNA)が報じた「米国はイランによるウラン濃縮継続という一線を受け入れた」という内容と矛盾している。アラグチ氏は22日、イランがゼロ濃縮に同意する可能性について問われると、「ウラン濃縮は我々の権利だ」と強調し、イランの核計画は平和目的であり、核兵器を追求するものではないと述べた。このため、26日の交渉は波乱含みとなることが予想される。
2018年5月11日、イランの首都テヘランで、トランプ大統領がJCPOAから離脱したことに抗議する市民らが、アメリカ国旗を燃やした。(写真/AP通信提供)
英誌『エコノミスト』:交渉が決裂した場合、トランプ氏の3つの対抗策 双方は26日に交渉を再開する予定であり、トランプ氏も繰り返し外交的解決を望む姿勢を示している。しかし、これほど大規模な軍事力を維持するコストは極めて高く、周辺地域を不安定化させるリスクもある。英誌『エコノミスト』は、トランプ氏が忍耐を失い武力行使に踏み切った場合、国防総省は3つの主要な攻撃目標を検討する可能性があると分析している。
第一に「最高指導者の排除」。イランの最高指導者ハメネイ師や側近を直接攻撃し、親米的な新指導部の樹立を狙う案である。トランプ氏はベネズエラのような展開を期待する可能性があるとされる。イラン国内では、すでに水面下で慎重な交渉が進んでいるとの見方もある。
第二に「イスラム革命防衛隊(IRGC)の壊滅」。抗議デモの弾圧に関与してきた体制の中核的軍事組織を標的とし、本部や指導部を攻撃する案である。ただし、これまでのところIRGC指導層が政権と決別する兆候は見られていない。
第三に「正規軍や核関連施設への攻撃」。米軍基地や同盟国を脅かす弾道ミサイル基地など、イランの軍事能力を標的とするほか、残存する核施設に再び焦点を当てる可能性もある。昨年6月にB2ステルス爆撃機で地中貫通爆弾を投下した作戦を拡大し、イランの核能力を徹底的に無力化する構想である。
では、イランはどのように反撃するのか。『エコノミスト』は、イラン空軍は老朽化しているものの、長年整備してきた弾道ミサイルや巡航ミサイル、長距離無人機は依然として高い攻撃力を持つと指摘する。昨年6月の衝突では、米国とイスラエルが制空権を握る中でも、イランはイスラエルに向けてミサイルを発射することに成功した。
イスラエルの高官は、米国が体制転覆を狙う大規模攻撃に踏み切れば、イランは「失うものは何もない」と判断し、保有する兵器を四方に向けて一斉に発射する可能性があると警告する。標的はイスラエルだけでなく、カタールなどペルシャ湾岸の米軍基地、さらにはレバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派を動員した攻撃に拡大し、地域全体を巻き込む戦争に発展しかねない。
『エコノミスト』は、こうした状況がトランプ氏を戦略的ジレンマに陥らせていると指摘する。同氏は自らの成果となる「新たな核合意」を望む一方、体制転換への支持も示唆してきた。しかし軍事攻撃がそれらの目標達成につながる保証はない。空爆だけではイランに核計画での譲歩を迫ることは難しく、体制転覆を狙う大規模攻撃は、米国を再び長期化する中東戦争に引きずり込む可能性が高い。これはトランプ氏が最も避けたい事態である。軍事的圧力を高めればテヘランが屈するとの期待もあるが、歴史は爆撃だけで政治的変化を直接もたらすことがいかに困難かを示している。
(関連記事:
【李忠謙コラム】トランプは「ベネズエラ斬首作戦」を再現し、テヘランでイラン神権体制を打倒するのか?
|
関連記事をもっと読む
)
2020年11月28日、イランのテヘランで、外務省前に集まった抗議者らが、当時の米国大統領ドナルド・トランプ氏の写真を焼却した。(写真/AP通信提供)
弾圧続く:イランの大学キャンパスでの抗議が再び暴力的衝突に発展 外交交渉や戦略的な駆け引きの背後で、イラン国内では市民の怒りが高まっている。英紙『ガーディアン』によると、昨年12月から今年1月にかけて大規模な反政府デモが発生し、当局による激しい弾圧を受けた。政府は死者数を約3,000人としているが、人権団体は少なくとも6,000人が死亡したと推計している。
2026年1月9日、イラン当局は全国的にインターネットを遮断したが、SNSに流出した映像からは、市民が街頭に出て抗議デモを行っている様子が確認された。(写真/AP通信提供) 先週土曜日(21日)、動乱の影響で閉鎖されていた大学がようやく再開されたが、テヘランや北東部の大都市マシュハドの学生らは直ちに犠牲者を追悼する抗議活動を開始した。翌日の日曜日には、デモは学生と体制側を支援する民兵組織「バスィージ(Basij)」との暴力的衝突へと発展した。
国際社会からの批判に対し、イラン政府は国連の事実調査団の入国を拒否している。さらに今週には副外相が国連人権理事会で演説する予定で、各国代表による「大規模な退席抗議」が起きる可能性があるとみられている。トランプ氏はデモ初期に抗議者への支持を公に表明し、学生らに「支援は向かっている(help is on its way)」と語っていた。しかし、米軍がイラン周辺に展開する中で、同氏の関心は次第にイランの核計画へと移っている。
権力再編:穏健派の大統領が実権を失い、側近が拘束される
内外からの圧力にさらされるこの危機は、イラン指導部内で進む権力の再編も浮き彫りにしている。米国の情報当局によれば、最高指導者ハメネイ師と、2024年に就任した穏健派のペゼシュキアン大統領は、次第に対外交渉の意思決定の枠組みから外されつつあるという。現在、対米戦略を主導しているのは、アラグチ外相と最高国家安全保障会議のラリジャニ議長である。
2026年1月14日、ドイツ・ベルリンで、イランの反政府抗議を支持する集会に参加したデモ参加者が、イラン最高指導者ハメネイ師の火のついた肖像画を使ってたばこに火をつけた。(写真/AP通信提供) ペゼシュキアン大統領の「政治的失速」は、側近の粛清からも明らかだ。2024年の選挙で同氏を勝利に導いた「改革派戦線(Reformists Front)」は大規模な摘発を受け、軍によるデモ弾圧を批判した中核メンバーの多くが、「敵対勢力との結託」や「外国の利益を擁護した」といった罪で拘束・収監された。
最近になって同戦線の報道官や政治委員会議長など一部幹部は保釈を認められたものの、今回の政治的締め付けは、イラン国内の穏健派勢力に深刻な打撃を与えている。
世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版 X:@stormmedia_jp
編集:柄澤南
中国語関連記事
更多新聞請搜尋🔍風傳媒日文版
最新ニュース
台湾立法院、約5.8兆円の国防特別予算案が前進 頼総統の「国政報告」実現に向けた与野党協議も 台湾の行政院(内閣に相当)が提出し、長らく審議が滞っていた1.25兆台湾元(約5.8兆円)規模の国防特別予算に係る「防衛強靱性および非対称戦力計画調達特別条例草案」について、事態が大きく動いた。立法院(国会に相当)の韓国瑜院長は24日、与野党協議を招集。各党団(議員団)は、行政院版の国防特別予算案と野党・台湾民衆党版の軍事調達条例案を併合して審議することに合......
台湾・頼清徳総統、立法院での国政報告に同意 韓国瑜院長「一括質疑・一括答弁」方式で礼遇へ 台湾の頼清徳総統は23日、五院(行政、立法、司法、考試、監察)の院長らと新春茶話会を行った。終了後、韓国瑜立法院長(国会議長に相当)は、頼総統に対し立法院で国政報告を行うよう要請し、頼総統がこれを快諾したことを明らかにした。総統への礼遇として、質疑応答は「一括質疑・一括答弁(統問統答)」方式を採用する方針だという。
新春茶話会での合意と「化」の精神韓院......
【論評】「唯一無二」を自負する頼清徳総統 立法院での国情報告は与野党融和の糸口となるか 丙午(ひのえうま)の新年を迎え、台湾の頼清徳総統は五院(行政・立法・司法・考試・監察)の院長を招き茶話会を開催した。その席で頼氏は、立法院長(国会議長)の韓国瑜氏が掲げた「化(転化・解決)」というキーワードに応じ、「誤解を理解へ、不一致を団結へ、個人の小利を国家の大義へ、対立を平和へ変えたい」との希望を表明した。さらに、「憲法の手続きに適合する」ことを前提に......
ロイヤルホストがグランドメニューを刷新、「洋食」の原点回帰で看板ハンバーグやドリアを改良 ロイヤル(東京都世田谷区)が展開するファミリーレストラン「ロイヤルホスト」は、2月26日(木)より全国の店舗でグランドメニューを改訂する。今回の改訂では「伝統と新しさ」をテーマに掲げ、創業以来の看板商品であるハンバーグやドリアといった洋食メニューの質を底上げし、家庭では味わえないレストラン品質の体験を強化する。外食市場において、安価な日常食と高付加価値な食事......
【自民】麻生派が60人に急増し過去最多へ 党内唯一の存続派閥、新人ら18人加入で影響力拡大 自民党の麻生太郎副総裁が率いる麻生派(志公会)は19日、衆院選後初となる例会を東京都内の事務所で開いた。同会合にて、新人議員11人やこれまで無所属などで活動していた北神圭朗氏、比例北海道ブロックで全国最年少の25歳で当選した村木汀氏、国政復帰を果たした元職4人を含む計18人が新たに加入したことが発表された。これにより、同派に所属する国会議員は1月の衆院解散前......
政府、特別国会に61法案提出へ 「国家情報局」新設や「年収178万円の壁」是正など 日本政府は19日、現在の特別国会にインテリジェンス機能の強化を目的とした「国家情報局」の設置法案や、今後5年間の赤字国債発行を可能にする法案など、計61の法案を提出する方針を固めた。衆議院議院運営委員会の理事会に出席した尾崎官房副長官の説明によると、今回の提出法案には情報機能集約の要となる「国家情報局」のほか、災害対応の司令塔として期待される「防災庁」の創設......
外国にルーツを持つ子供の支援を強化へ 文科省、日本語指導補助者らを法令上の「正規職員」に規定 文部科学省は、日本語指導が必要な児童生徒への教育体制を抜本的に強化するため、これまで外部人材やボランティアとして扱われてきた「日本語指導補助者」や「母語支援員」を、学校教育法上の正規の「職員」として位置づける方針を固めた。関係者への取材で明らかになったこの方針は、2026年度中にも学校教育法施行規則を改正することを目指しており、法的根拠を明確にすることで、人......
スノーピーク、吉野ヶ里歴史公園に体験型複合施設を開業 弥生時代をモチーフにした宿泊体験も 株式会社スノーピークは2026年3月18日、佐賀県の官民連携事業に基づき、新たな体験型複合施設「スノーピークグラウンズ 吉野ヶ里」を開業する。同施設は吉野ヶ里歴史公園内に位置し、複合施設エリアのほか、弥生時代の建造物をモチーフにした宿泊施設や九州最大級のキャンプ場を備える。複合施設エリアには、スノーピーク直営店に加え、スターバックスや「みつせ鶏本舗」のレスト......