トップ ニュース 慶應義塾大学大学院の田中浩一郎教授が「2026年初のイラン危機とその行方」を解説 経済苦境から始まったデモは体制存続の「不可逆点」を超えたか
慶應義塾大学大学院の田中浩一郎教授が「2026年初のイラン危機とその行方」を解説 経済苦境から始まったデモは体制存続の「不可逆点」を超えたか 慶應大・田中教授は2026年のイラン危機について、経済破綻と外部の扇動が招いた過去最悪の流血事態であり、現体制は存続の正念場である「不可逆点」を超えたと分析した。(写真/日本記者クラブ提供)
現代イラン研究の第一人者である慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の田中浩一郎教授は2026年1月23日、日本記者クラブで「2026年初のイラン危機とその行方」と題した記者会見を行った。田中教授は、2025年末からイラン全土に拡大した反政府デモの背景にある深刻な経済危機と、それに対する治安当局の強硬な弾圧の実態を詳説し、イラン・イスラム共和国体制が存続の危機に瀕する「不可逆点(ポイント・オブ・ノー・リターン)」に差し掛かっているとの見方を示した。
通貨暴落とガソリン値上げが引き金 田中教授の解説によれば、今回の危機の発端は明確に経済問題にある。2025年12月の1カ月間だけで対ドルレートでイラン・リアルが約40%下落するという異常な通貨暴落が発生し、市民生活を直撃した。さらに、政府が6年ぶりにガソリン価格の改定に踏み切り、実質的な値上げを行ったことや、食肉や卵などの物価高騰、首都テヘランでの深刻な水不足などが重なり、民衆の不満が爆発した。当初はバザールの商人たちが主導する平和的な抗議活動であったが、過去の事例と比較しても極めて短いリードタイムで反体制運動へと急進化し、宗教施設が焼き討ちに遭うなど、これまでにない激しい暴動へと発展したことが特徴である。
「死者2万人」説も、内戦に近い混乱 事態を重く見たイラン当局は、インターネット通信を完全に遮断するという強硬手段に出た。田中教授は、今回の通信遮断が過去に例を見ないほど徹底されたものであり、それは当局が大規模な暴力行使を行う「予告」でもあったと指摘する。実際の犠牲者数について、イラン政府(殉教者財団)は1月21日時点で3117人と発表しているが、国連特別報告者などは2万人以上の可能性を示唆しており、過去最悪規模の惨事となっている。また、デモ隊側にも武装した集団が含まれていたことや、治安部隊とデモ隊の双方に向けて発砲する正体不明のグループの存在など、内戦に近い混乱した状況が報告されている。
トランプ政権の動向が鍵 国際情勢との関連において、田中教授はアメリカのトランプ政権やイスラエルの動向が事態を複雑化させたと分析する。トランプ大統領は「民衆を殺傷すれば軍事介入する」と警告し、ネタニアフ首相と共にデモ隊を鼓舞する発言を繰り返した。これによりデモ隊の行動が大胆化した側面がある一方で、外部からの「扇動」があったとしてイラン当局が弾圧を正当化する口実にもなった。田中教授は、トランプ大統領の発言の真意や実際の軍事介入の可能性は依然として不透明であり、アメリカの出方が今後のイランの行方を決定づける要因の一つになると述べた。
崩壊か軍事独裁か、負の連鎖止まらず 今後のシナリオについて、田中教授は現体制が国民の信頼を完全に失い、負の連鎖を止める術を持たない「不可逆点」を超えた可能性があると結論付けた。ハメネイ最高指導者が不在となった場合、体制が崩壊し国内が内戦状態に陥るリスクや、革命防衛隊(IRGC)が全権を掌握する軍事クーデターに近い体制へ移行する可能性などを指摘した。いずれにせよ、イラン情勢は極めて不安定な局面を迎えており、地域全体に波及する恐れがあるとして警鐘を鳴らした。
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