2026年1月23日深夜、ワシントンD.C.から世界地政学の再調整を迫る文書が発表された。トランプ政権による新版『国家防衛戦略(National Defense Strategy, NDS)』である。
「西半球」の重要性への急激な回帰、中国に対する意図的なトーンダウン、さらには「名誉ある平和」の追求。その一方で「第一列島線」に沿った「拒否的防衛」の構築も明記された。トランプ政権の戦略計画は、米中台のパワーゲームに何を意味し、今後数年のインド太平洋の安全保障環境にどのような影響を与えるのだろうか。
「トランプ版モンロー主義」の台頭
2026年版『国家防衛戦略』で最も注目すべき変革は、「米国本土と西半球」を議論の余地なき最優先事項へと格上げした点だ。文書では「トランプ版モンロー主義(Trump Corollary to the Monroe Doctrine)」が明確に打ち出され、西半球における米国の軍事的主導権の回復を目指すとともに、グリーンランドやパナマ運河などを戦略的要衝と位置付けた。この転換は、近年の米国の防衛戦略とは対照的である。
トランプ第1次政権下の2018年版『国家防衛戦略』は中国との「長期的戦略競争」を主軸とし、バイデン政権の2022年版は中国を「迫りくる挑戦(pacing challenge)」と定義した。しかし今回、トランプ政権のピート・ヘグセス国防長官は文書内で過去の政策を鋭く批判。「介入主義、終わりのない戦争、政権交代、国家建設」に気を取られ、米国国民の具体的な利益を軽視してきたと断じた。
対中関係における新たなレトリック
2026年版『国家防衛戦略』における対中関係の記述、その語調の変化は著しい。「迫りくる挑戦」といった競争的なレッテルは姿を消し、代わって「現実的な外交」、「衝突と緊張の緩和」、そして中国やその貿易相手国との「名誉ある平和」の共有といった修正主義的な論述が採用された。
記述から消えた「台湾」、しかし戦略的枢軸は変わらず
2022年版と比較するとその差は歴然だ。当時は「中国の挑発的な言動や威圧活動は安定を損ない、誤算を引き起こし、台湾海峡の平和と安定を脅かす可能性がある」、「(米国)国防総省は、進化する中国の脅威に対応するため、台湾の非対称自衛能力を支援する」と明記されていた。しかし、今回の新版『国家防衛戦略』では「台湾」の文字が完全に欠落している。
だが、台湾の国防安全研究院(INDSR)の研究員は、台湾こそが米国の戦略計画において無視できない「隠れた主役」であり続けていると指摘する。
その理由は、新戦略が「第一列島線」沿いに「強力な拒否的防衛(strong denial defense)」を構築すると強調している点にある。同研究院の蘇紫雲氏と許智翔氏は、第一列島線の中心的枢軸に位置する台湾は、米側の戦略構造において代替不可能な結節点であると分析する。
蘇氏は次のように述べる。「米国が台湾を重視しているか否かは、報告書に台湾の記載があるかどうかよりも、より重要な指標で判断すべきだ。すなわち、中国の脅威に対する論述、インド太平洋地域への軍事投資、対台湾武器売却と協力、同地域での演習と配備である。これらの指標はすべて、米国の台湾海峡の安全に対する関与が『低下』するどころか、むしろ『増大』していることを示している」
許智翔氏は、国防責任の分担において台湾が果たしている役割、統合防空システム「T-Dome」の計画、非対称戦力への投資、戦場認識・指揮統制の強化、米国防産業とのサプライチェーン統合、国防予算の大幅増額などは、米国が現在高く評価し、共同で取り組む意欲を見せている項目であると指摘する。さらに、米国の工業基盤再建においても、サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)や半導体の重要性は不可欠であり、台米双方の国家安全保障協力は今後さらに深化すると予測される。
米側は「拒否的防衛」の詳細を多く語っていないが、米空軍退役中将のデビッド・A・デプテュラ氏は、その本質は「受動的な防御」ではないと指摘する。重要なのは、侵略を開始した瞬間に自国本土が即座に攻撃されることを相手に認識させる点にある。これは、第一列島線の各空軍基地の抗堪性(第一撃を受けた後も作戦能力を維持すること)の強化、「機敏な戦力展開(Agile Combat Employment, ACE)」の全面的な推進による航空戦力の分散、そして米本土から世界中を攻撃できる長距離打撃能力の維持を意味している。
シンガポールの学者「トランプ新戦略は人民解放軍を見誤っている」
李氏は、『国家防衛戦略』が「第一列島線に沿った拒否的防衛」を概説している点には同意する。台湾を中心(ハブ)に据えなければ、この地理的配置は無意味だからだ。それにもかかわらず、この文書は頑なに「台湾」の名を避けている。李氏はこれを、米国が曖昧なコミットメントを通じて北京との交渉余地を最大化しようとしていると分析する。トランプ氏はホットライン(直通電話)の推進を通じて、「抑止力の強化は必ずしも安定を損なうものではない」と同盟国に信じ込ませようとしているのだ。
しかし、李氏はここに危うさを感じる。2026年版『国家防衛戦略』は「対立ではなく実力で、インド太平洋における中国の影響力を抑制する」と明言している。トランプ氏が求めているのが「安定した平和」と中国との直接対話である以上、ペンタゴンの役割は再定義されつつある。かつての国防総省(War Department)のような「権威主義モデル」と戦うイデオロギーの闘士ではなく、大統領が「実力の優位性を持って交渉する」ための補佐役に変貌したのである。
ホワイトハウスは戦争計画の実質的な欠陥を修正するための時間を稼ごうとしており、「戦略的安定性」と「軍事対話の拡大」によって偶発的なエスカレーションを防ごうとしている。だが、李氏はこの考え方が根本的な前提を間違えていると指摘する。「人民解放軍は、電話になど出る組織ではない」からだ。
特に中国モデルは高度な政治的統制を要求するため、彼らの国際軍事協力部門が優先するのは「政権の安全」であり「透明性」ではない。北京にとって、沈黙とは往々にして計算された外交カード(切り札)なのである。
「空虚な呼び出し音」と硬直する人民解放軍
近年の事例がそれを物語っている。2022年8月、当時のナンシー・ペロシ米下院議長が高らかに台湾を訪問した後、北京は怒りに任せてワシントンとの複数の外交・軍事対話ルートを遮断した。2023年2月、米空軍のF-22戦闘機が米東海岸沖で中国の高高度偵察気球を撃墜した際も同様だ。当時のロイド・オースティン国防長官は直ちに危機管理ホットラインで中国の魏鳳和国防相(当時)に連絡を取ったが、中国国防省はこれを拒否し、後に「米国が適切な対話の雰囲気を作らなかった」と非難した。
バイデン政権下のカート・キャンベル・インド太平洋調整官(当時)が嘆いたように、北京とのホットラインは常に「誰も出ない呼び出し音(dial tone)」が鳴り響くだけだ。過去20年間の米中危機がこれを証明しているだけでなく、最近の張又侠氏と劉振立氏の失脚劇が、この構造的な膠着状態をさらに悪化させている。
李氏はさらに、トランプ政権が機密文書や内部指針(ガイダンス)を用いて、台湾を中心とした戦略推進案を再定義しているのではないかと疑う。そうした機密の付帯文書であれば、台湾に対するより明確な緊急対応計画を盛り込むことも可能だ。だが、そこにはリスクも伴う。もし台湾側が米国の「沈黙(公式文書での不記載)」を見捨てられたと解釈すれば、パニックを引き起こしかねない。同盟国が自国の安全を「交渉のチップ」にされたと疑えば、同盟関係そのものが動揺する。そして北京が、米国は「安定」維持に必死だと見なせば、再び「沈黙」を武器として利用するだろう。
ワシントンのシンクタンクで激論:新戦略は弱腰か、現実路線か、それとも巧妙な欺瞞か
この矛盾するシグナルに満ちた新『国家防衛戦略』は、ワシントンのシンクタンク界にも衝撃を与え、解釈を巡って激論が交わされている。
一部の専門家はこれを「弱腰」のシグナルと捉える。ある匿名の元空軍高官はメディアに対し、「中国を『ペースメーカーとしての課題(pacing challenge)』と呼ぶのをやめたことは、米国が抑止の決意において軟弱な姿勢に転じたと解釈されるだろう」と懸念を示した。
一方で、現実主義(プラグマティズム)の立場をとるブルッキングス研究所のマイケル・オハンロン氏(外交政策研究部長)は、「この報告書は率直だ」と評価する。米国が中国に対し全面的かつ永続的な軍事的優位性を追求することは「達成困難な目標」であると認め、終わりのない軍備競争ではなく、安定したパワーバランスを模索する戦略へと転換したという見方だ。
第三の視点は、この報告書を「看板の掛け替え(換湯不換薬)」に過ぎないと見るものだ。タカ派色の強いアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)内部でさえ、見解は一枚岩ではない。上級研究員のエレイン・マッカスター氏は国防投資の観点から、米軍がB-21「レイダー」次期戦略爆撃機などの先進兵器への投資を継続していることを挙げ、その照準は明らかに依然として中国にあると指摘する。台湾・国防安全研究院の分析もこれに呼応しており、新戦略は米軍がここ10年進めてきた軍事変革を、正式に公式文書に書き込んだに過ぎないと見る。
しかし、マッカスター氏の同僚であるザック・クーパー氏は、戦略の効果に懐疑的だ。彼は「北京はいかなる有意義な危機管理メカニズムにも同意しないだろう」と断言する。なぜなら中国は「米軍が中国沿海で活動する際のリスクを高めること」こそを望んでいるからだ。
だが、トランプ政権の新戦略には一つの明確なロジックが存在する。それは同盟国に対する「責任分担」の要求だ。NATO(北大西洋条約機構)や韓国に対し、自国の防衛における「主たる責任」を負うよう求め、米国は「より限定的な支援」に留めるという姿勢である。
ワシントンの視点から見れば、この戦略の目的は、欧州や朝鮮半島に配備された米軍リソースを解放し、より柔軟にインド太平洋戦域へ投入することにある。
しかし、国防安全研究院・中共政軍作戦概念研究所の洪子傑所長は警鐘を鳴らす。トランプ政権の極めて不確実な政策は、米国の伝統的な同盟国に対し、経済・外交分野における「中国という選択肢」の再評価を促しているというのだ。
頼れるはずの「兄貴分」の約束が信頼できなくなった時、自国の利益を守るために代替案を探し、バランスを取ろうとするのは、多くの国家にとって避けて通れない現実的判断となる。この信頼の流出こそが、中国に同盟の隙間へ楔(くさび)を打ち込む機会を静かに与え、米国が数十年にわたり築き上げてきた同盟システムを内側から侵食しているのである。