トップ ニュース 張又俠氏の失脚は「台湾海峡の危険信号」か?米在住の翁履中氏が指摘「中国は“滑走路”を整備中」、台湾が最も恐れる「一点」とは
張又俠氏の失脚は「台湾海峡の危険信号」か?米在住の翁履中氏が指摘「中国は“滑走路”を整備中」、台湾が最も恐れる「一点」とは 中国共産党中央軍事委員会の張又俠副主席が失脚したとの情報が広がり、国内外に衝撃が走っている。在米学者の翁履中氏は、張又俠氏の案件は、習近平氏が唯一無二の服従をする軍隊を求めていることを示唆しており、現在の粛清は将来の「離陸」をより制御可能にするための「滑走路の清掃」のようなものだと分析している。(AP通信)
中国共産党中央軍事委員会の張又俠副主席が立件され、調査を受けていることが国内外に衝撃を与えている。習近平国家主席が中央軍事委員会主席を兼任しているため、張氏は実質的な中国軍の「ナンバー2」 にあたる。しかし、政治家である 習氏とは異なり、張氏は現場叩き上げの伝統的な軍人であり、中越戦争への参戦経験を持つ数少ない「実戦派」の伝統的軍人だ。軍内部での影響力は侮れず、ある意味で習氏に対する牽制役となり得る存在だった。 その張氏が失脚した今、習氏による 軍への支配力は必然的に強まることになる。
今回の事件について、米サム・ヒューストン州立大学政治学科の翁履中(デニス・ウェン)准教授は、「張氏の失脚は、習近平氏が『唯一絶対服従』の軍隊を求めていることを示唆している」と分析する。翁氏は現在の粛清劇を「滑走路の整備(障害物の除去)」に例え、「将来のある日、飛行機(軍事行動)を離陸させる際、より制御可能で予測可能な状態にするための準備だ」と指摘した。
さらに翁氏は、「中国にとって台湾問題は先送りできないプレッシャーがある」とした上で、「中国によるこの組織再編の期間を『準備期間』と捉えず、単なる権力闘争による『安全期間(台湾への脅威が低い時期)』と誤認することこそ、台湾にとって最も恐れるべき事態だ」と警鐘を鳴らした。
張又俠氏は「紅二代」の血統と「実戦経験」を兼備した稀有な存在 張又侠氏は、人民解放軍の中でも数少ない「紅二代(革命の功臣の子弟)」の血統と「実戦経験」を併せ持つ最高幹部だった。張氏の父・張宗遜氏は中国共産党の開国上将で、解放軍総後勤部長を務めた人物であり、習近平氏の父・習仲勲氏と同様に党の長老である。両者は似通った出自背景を持つ。
海外メディアが人民解放軍の戦力を評価する際、よく「40年以上実戦経験がない」と指摘されるが、張氏は1979年の中越戦争を最前線で経験しており、単なる「机上の空論」しか知らない軍人とは一線を画していた。
総じて言えば、習近平氏がトップの軍事委員会主席、張氏が副主席という体制下で、張氏は現役軍人として最高の政治的地位にあり、実質的なナンバー2であった。軍人出身である彼に引き立てられた高官も多く、軍内部における実質的な影響力は計り知れないものがあった。
中国の習近平国家主席は中央軍事委員会主席を兼任している。張又俠氏は中央軍事委員会副主席であったが、正統な軍人出身であるため、軍への影響力は侮れないものであった。(AP通信)
張又俠氏失脚、中国軍機関紙が指摘した「5つの重大な問題」 これを受け、中国 軍の機関紙『解放軍報』は25日付の1面社説で、張又侠、劉振立両氏が犯したとされる「5つの重大な問題」を激しく批判した。その内容は以下の通りである。第一に党中央および中央軍事委員会の信頼と信託への重大な背信。第二に「軍委主席責任制」の重大な蹂躙(じゅうりん)と破壊。第三に党による軍隊への絶対的指導に影響を与え、党の執政基盤を揺るがす政治的・腐敗的問題の助長。第四に軍事委員会指導部のイメージと威信の重大な毀損。そして第五に、全軍将兵の団結と前進の基礎となる政治的思想への重大な衝撃である。
習近平氏が求めるのは「絶対服従」の軍隊 翁履中氏は自身のFacebookページ「Dennisの全球政治筆記」で、「トランプ米大統領の最大の特徴が不確実性であるならば、習近平氏も形式こそ違えど同様だ」と指摘。張又侠氏の失脚は、中国の政治・軍事動向を注視するすべての者にとって、無視できない「分水嶺」であると分析した。
翁氏は、中国指導部の人事は不可解であり、多くの分析が今回の粛清を単なる「権力基盤の強化」と単純化しがちであると述べる。しかし、習氏の権力は既に盤石であり、高官の更迭を単なる権力固めと解釈することは、真に危険なシグナルを見落とす恐れがあると警鐘を鳴らす。
翁氏 によれば、張又俠 氏のような地位、人脈、象徴性を持つ人物が公然と立件された事実は、「習氏がより強くなった」ことではなく、より赤裸々な権力の論理を露呈している。習氏が求めているのは「信頼できる最高指揮スタッフ」ではなく、「唯一絶対服従の軍隊」なのだ。この統治手法は効果的かもしれないが、リスクも伴う。「専門性」より「忠誠」を、「軍事的効率」より「政治的(体制)安定」を優先させるからだ。
翁履中氏は、張又俠事件は習近平氏が「唯一服従」する軍隊を求めていることを示唆しており、現在の粛清は将来の離陸をより制御可能かつ予測可能にするための「滑走路の掃除」のようだと分析した。(撮影:柯承惠)
中国による「滑走路の整備」と台湾の誤算 さらに警戒すべきは、こうした粛清が意思決定環境を外部から読み取りにくくし、誤算が生じやすい状況へと追いやることだ。指揮系統の再編、古参の排除、新人の登用、相互不信などにより、人民解放軍の短期的戦力が低下するという見方には一理ある。特に東部戦区や中部戦区などの要職に新任者が着任したばかりで、システムや信頼関係の構築、実戦能力への転換には時間を要するため、台湾には一見すると「比較的安全な 期間(タイムウインドウ)」が生まれたように見える。
しかし、翁氏は「短期的な軍事衝突の確率が低下した理由は、『中国が穏健化した』からではなく、『より制御可能な指揮体系を再構築している』からに他ならない」と断言する。中国は、重要な任務で失敗せず、政治的な雑音も生じない軍隊を求めているのだ。換言すれば、現在の粛清は「滑走路の整備」であり、将来のある日に離陸(軍事行動)する際、より制御可能で予測可能な状態にするための準備といえる。
台湾が最も恐れるべきこと:「準備期間」を「安全期間」と錯覚する恐怖 翁氏は、中国にとって台湾問題はナショナリズムへの説明責任という圧力があるものの、現時点では「直ちに処理しなければならない」ほどの切迫性はないと分析する。中国が待っているのは、より従順な軍隊、より安定した経済、より制御可能な外部環境といった、有利な構造的条件だ。
したがって、台湾が最も恐れるべきは、中国が今日攻撃能力を持っているかどうかではなく、この構造再編の期間を「準備期間」ではなく「安全期間」と誤認してしまうことだ。
翁氏は結論として、「台湾の安定を維持する真の戦略は、この猶予期間を利用して中台衝突の可能性を低減させることだ」と述べる。内部結束、経済発展、国防準備、国際連携などを同時並行で進め、中国がコスト計算をするたびに「まだ急ぐ必要はない」と思わせ続けることこそが、現実的かつ不可欠な思考法であるとした。
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