トップ ニュース 【舞台裏】台湾軍「サイバー部隊」に戦力空白の危機?中国の指名手配が示す実力と、組織再編の真実
【舞台裏】台湾軍「サイバー部隊」に戦力空白の危機?中国の指名手配が示す実力と、組織再編の真実 台湾軍の「第4軍種」と称される資通電軍。最近では所属将兵が中国側から執拗に指名手配の対象とされているが、現在、同部隊は戦力に影響を及ぼしかねない重大な危機に直面している。(写真/総統府公式サイト提供)
「第四の軍種」と呼ばれる台湾軍の「資通電軍(情報通信電子軍)指揮部」。先日、中国・広州市公安局が同部隊の将兵20名を、中国へのサイバー攻撃に関与した「主犯格」として指名手配した一件は記憶に新しい。表向き、台湾軍は「事実無根」と否定したが、軍内部からは「(中国を怒らせるほど)何か正しいことをした証だ」と、その実力を自負する声も漏れ聞こえる。
しかし、このサイバー・電子戦の精鋭部隊は今、静かなる激震に見舞われている。2026年の元旦、これまで統合されていた各作戦区の通信部隊が、こっそりと陸軍へと返還されたのだ。顧立雄・国防部長(国防相)は立法院(国会)で、「野戦通信を陸軍に戻し、資通電軍はサイバー戦と電子戦という専門領域に特化する」と説明。さらに重要課題として「専門人材の育成と確保」を挙げた。
顧部長の発言は、裏を返せば現在の資通電軍が深刻な人材難に直面しており、「戦力の空白(ギャップ)」が生じかねないという危機感の表れでもある。一体、資通電軍で何が起きているのか。
国防部長・顧立雄氏は、資通電軍の一部部隊を陸軍に復帰させ、サイバー戦と電子戦に専念させるとした。(写真/陳品佑氏撮影)
蔡英文政権下の「統合」から、陸軍への「回帰」へ かつて蔡英文前総統は、国防部(防衛省)で通信・電子戦を担っていた「資電指揮部」を格上げし、「資通電軍指揮部」を発足させた。陸軍の各軍団や防衛部の通信部隊を統合し、「資通作業大隊」として再編したが、人員構成は依然として陸軍が主体であり、海・空軍と並ぶ完全な「第四軍種」とは言い難い、憲兵隊のような性格を持っていた。
運用面でも課題が生じていた。通信業務は陸軍から切り離されたものの、業務の上層部(陸軍司令部通資処)と現場(各旅団の通信中隊)は陸軍のままであり、中間層である作戦区レベルだけが独立した「資通電軍」に属するという、指揮系統のねじれが発生していたのだ。この歪な構造を解消するため、2026年1月1日をもって関連部隊は陸軍へ復帰した。今後、資通電軍はサイバー戦および電子戦に専念することになる。顧部長はさらに、電波傍受や信号諜報(SIGINT)を担当する「電展室」との連携強化も視野に入れているという。
前総統・蔡英文氏が資通電軍指揮部を創設したが、本来の陸軍の一元的な指揮系統に障害が生じる結果となった。(写真/蘇仲泓氏撮影)
激化する中国のサイバー攻撃、「やるかやらないか」だけの台湾の反撃能力 同局の統計によれば、2025年だけで4万5000組以上の異常アカウント、231万件超の不審情報を特定し、政府機関に通報した。さらに重要インフラへのハッキング脅威も深刻で、「2025年 中国対重要インフラ・サイバー脅威分析」では、1日平均263万回の侵入試行が確認されたほか、医療機関から盗まれたデータがダークウェブで売買される事例も少なくとも20回確認されている。
中国からのサイバー攻撃が激化し、重要インフラが直接的な標的となる中、最前線で対抗しているのが資通電軍だ。軍内部では公然の秘密として、台湾側にも確かな反撃能力と攻撃手段があることが知られている。ある軍関係者は、その能力についてこう語る。「技術はある。あとは『やるかやらないか』だけの問題だ」
中国人民解放軍は絶えず台湾に対してサイバー攻撃を行い、大量の論争的情報を投下して世論に浸透させ、認知戦を操作している。写真はイメージ。(写真/AP通信提供)
難関資格と民間の高額オファー、軍に留まる理由なし 通信部隊を陸軍へ返還し、電子・サイバー戦への特化を図った今回の組織改編。しかし、顧立雄国防部長が懸念した「人材の育成と確保」は、掛け声だけで解決できる問題ではない。台湾メディア『風傳媒』の調査によると、資通電軍(情報通信電子軍)において専門手当を受給している有資格者は年々減少しており、さらに手当受給者の退職率も年々上昇している。「専門人材が軍に定着していない」のが実情だ。
資通電軍は高度な専門性が求められる兵科であり、「専門家級」「エリート級」「専精(スペシャリスト)級」など3等級5段階のサイバー戦加算手当が設定されている。これは官兵の能力向上と国際資格の取得を奨励するためのものだが、現実は厳しい。関係者によれば、同軍の資格試験合格率は2022年の約60%から、2024年には約48%へと年々低下し、半数を割り込んでいる。
さらに深刻なのは、国際資格を持つ希少な人材は、民間企業にとっても垂涎の的であるという点だ。企業側はサイバーセキュリティ担当として高給を提示して引き抜きにかかるため、多くの官兵が軍を去ることを選ぶ。また、資格取得には数万台湾元(数十万円規模)の費用がかかる上、有効期限が切れれば再受験が必要になるなど、個人のコスト負担も重い。資格がなければ手当は出ず、民間の待遇の方が圧倒的に良いとなれば、人材流出は避けられない。実際、サイバー戦手当受給者の減少傾向の中で、2024年だけで受給者の44%が退職したという衝撃的なデータもある。中国とのサイバー攻防の最前線で、この離職率は致命的な「戦力の空白」を生み出しかねない。
資通電軍内で専門資格手当を受給する人員は年々減少しており、同時に退職率も高まっている。写真はイメージ。(写真/張曜麟氏撮影)
米・イスラエルに学ぶ「インテリジェンスとの融合」 現在、資通電軍の手当はランクに応じて月額5000台湾ドル~5万台湾ドル(約2万3000円~23万円)が支給される。最高位の「専門家級」であれば、年間60万台湾ドル(約270万円)の手当が上乗せされる計算だ。ただし、この最高ランクを得るには、立法院(国会)予算センターの資料によると「2つ以上の専門家級資格」、あるいは「1つの資格に加え、サイバー攻防演習での実績が部隊の上位2%以内」という極めて高いハードルを越えなければならない。
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軍としては破格の待遇だが、それでも民間の高給には敵わない。李喜明・前参謀総長らが発表した『2022-2023 中華民国国防評価』報告書は、構造的な問題を指摘している。「他国のサイバー部隊は、情報機関や防諜機関と一体となって活動している。米国やイスラエルがその好例だ。サイバー作戦において、正確なインテリジェンス(情報)がなければ、その攻撃効果は把握できず、全てが絵空事になってしまう」 つまり、組織を切り離すのではなく、国家安全局や軍事情報局との協同作戦体制を築くべきだという提言だ。
前参謀総長・李喜明氏は数年前から、サイバー戦部隊が反復的な業務に時間を浪費すべきではないと警告していた。(写真/顔麟宇氏撮影)
「ハッカーの脳」を殺す軍隊文化 さらに同報告書は、軍特有の文化が「ハッカー部隊」の性質と相容れない点も指摘している。 サイバー戦部隊の本質はハッカー集団であり、彼らの多くは自由を愛し、権威を嫌う。創造的な頭脳こそが最大の資産であり、常に新奇な問題を解決することに意欲を燃やす彼らにとって、単調なルーチンワークは苦痛でしかない。
元部隊メンバーへの取材からは、現場の無力感と諦めが透けて見える。 「布団畳みや基本教練、当直任務、安全士官勤務、そしてパワーポイントの体裁を整えるだけの無数な時間……。夜10時には就寝し、朝6時には点呼で叩き起こされる」 こうした軍隊特有の規律や雑務に忙殺されるうち、彼らは気づくのだ。「民間に転職すれば、こんな無意味なことに時間を浪費せず、給料は倍以上になり、家族との時間も大切にできる」と。こうして、軍に残るインセンティブは消滅していく。
資通電軍は本質的にハッカー部隊であり、布団畳みや資料作成といった伝統的な軍の管理様式は、かえって部隊の精神を摩耗させる。写真はイメージ。(写真/顔麟宇氏撮影)
組織いじりだけでは「天才」は留まらない 李喜明氏はかつてこう述べている。「サイバー戦の人材は極めて優秀だが、現在の部隊構造では出世の機会がない。技術はあるが待遇格差は大きい。自分の将来を考えれば、彼らが軍を去るのは必然だ」 国防部がこの根本的な問題(キャリアパスと待遇、そして組織文化)を解決しない限り、単に通信部隊を陸軍に戻したり、組織図を書き換えたりするだけでは意味がない。
2026年の元旦に行われた組織改編。「資通電軍」をサイバー・電子戦専任にしたところで、それだけで稀有な「天才」たちを軍に留め置くことはできるのか。抜本的な改革なき対症療法では、台湾のサイバー戦力における最大の懸念材料を払拭することは極めて困難だろう。
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