トップ ニュース 台北101を「命綱なし」で制覇 米オノルド氏の偉業とNetflix生中継が問う「死のリスク」と報道倫理
台北101を「命綱なし」で制覇 米オノルド氏の偉業とNetflix生中継が問う「死のリスク」と報道倫理 2026年1月25日、「極限クライミングの王者」ことアレックス・オノルド氏が台北101を素手で登攀した。(写真/AP通信提供)
2026年1月25日、米国の世界的クライマー、アレックス・オノルド(Alex Honnold)氏が、命綱や保護具を一切使用せず、重力と強風に抗いながら台北101の巨大なガラスと鉄骨の外壁を素手で制覇した。Netflixによる世界同時生中継を通じ、台北のスカイラインは世界中の視聴者が固唾を飲んで見守る舞台となった。国際メディアの報道からは、オノルド氏への熱狂だけでなく、極限への挑戦が持つ多面性や、「死」のリスクを伴うライブ配信の倫理的な是非まで、様々な視点が浮き彫りとなった。
台北の空に触れた男、その「究極の準備」 国際メディアが描くオノルド氏の姿は、無謀な「命知らず」ではない。緻密な準備を通じてリスクを制御可能な範囲に収める、極めて冷静なトップアスリートとしての姿だ。日韓メディアも彼の背景を深く掘り下げ、その伝説的なキャリアを詳報している。彼の名を不動のものにしたのは、2017年に行った米ヨセミテ国立公園「エル・キャピタン」のフリーソロ(ロープなし単独登攀)だ。その偉業を追ったドキュメンタリー映画『フリー・ソロ(Free Solo)』はアカデミー賞を受賞し、彼を一躍、世界的な著名人へと押し上げた。
今回の台北101挑戦に際し、日本メディアは過去の輝かしい実績を振り返りつつ、今回の登攀を彼の伝説の延長線上に位置付けた。「準備によって恐怖をコントロールする」という彼の哲学や、無意識レベルで体が動くまで何千回も脳内シミュレーションを繰り返すストイックな姿勢を紹介。極限まで研ぎ澄まされたメンタリティこそが、恐怖を凌駕する基盤であると報じた。
一方、韓国の『毎日経済』新聞はクライマーとしての側面に加え、2012年に「オノルド財団(Honnold Foundation)」を設立し、太陽光発電など持続可能エネルギーの普及に尽力している社会活動家としての顔も紹介した。また米紙『ニューヨーク・タイムズ』は、今回が彼にとって初の超高層ビル挑戦である点に注目した。変化に富んだ自然の岩壁とは異なり、人工的な摩天楼特有の「反復する構造」が、これまでとは異なる肉体的・精神的負荷をもたらすと指摘。岩壁から鉄骨へ、その挑戦自体が未踏の探求であったと分析した。
世界が息を呑んだ「91分間」 英紙『ガーディアン』や『インデペンデント』は、現場の熱気を生々しく伝えた。地上には多くの群衆が集まり、オノルド氏が登攀の途中で一度手を止め、振り返って観衆に手を振ると、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こったという。オノルド氏自身も事後インタビューで、「このやり取りが、本来孤独なクライミングに祝祭のような雰囲気を与えてくれた」と語り、世界中の視聴者にもその臨場感が共有された。
意外な難敵?「竹の節」と「反復動作」 スポーツ専門メディア『ExplorersWeb』や『ニューヨーク・タイムズ』は、クライミングの対象としての「台北101」の特異性を詳細に分析した。最大の特徴は、植物の竹を模した「節(ふし)」のあるデザインだ。8階ごとに外側に突出したバルコニー状の障害物が現れ、クライマーはそれを乗り越えなければならない。さらに韓国『毎日経済』は、ビルの壁面が完全な垂直ではなく、10度から15度外側に傾斜(オーバーハング)している点を指摘。通常の垂直な壁とは異なり、体力を激しく消耗させる要因となった。
かつて2004年にロープを使用して台北101を登ったフランスの「スパイダーマン」、アラン・ロベール(Alain Robert)氏は、今回のルートの難易度をヨセミテ・デシマル・システム(YDS)で「5.10a」程度と見積もっている。これはオノルド氏が制覇したエル・キャピタンのルート(5.12d~5.13a)に比べれば、技術的な難易度ははるかに低い。 しかし、ロベール氏や米メディアが強調するのは、単一動作の難しさではない。「同じ動作を延々と繰り返す」ことによる極限の持久戦だ。果てしなく続く身体の引き上げと移動は、筋肉と精神を確実に摩耗させていく。
世界はどう報じたか 米国の「熱狂」と英国の「困惑」 米国メディアは、今回の登攀をエクストリーム・スポーツ、メディア・テクノロジー、そして台湾当局の反応が融合した一大エンターテインメントとして報じた。CNNはトップページに特集を組み、リアルタイム更新で詳細を追跡。オノルド氏の登頂成功と同時に速報を打ち、頼清徳総統のSNS投稿(「本当に緊張した、心臓の鼓動が早まるのを感じた」)を引用して伝えた。 CNNは、このイベントを単なるスポーツの快挙としてだけでなく、台湾が世界という舞台でその存在感をアピールする好機と捉えた。NBCニュースはオノルド氏による台北への賛辞を強調し、『ニューヨーク・タイムズ』は彼を世界に十数人しかいない「摩天楼クライマー」の歴史的列強に加えた。
アジア近隣諸国のメディアは、より個人的な側面に焦点を当てた。韓国の『毎日経済』新聞は、登攀そのものに加え、約9億ウォン(約9700万円)とされる報酬額や、メジャースポーツに比べれば少額だとする本人の見解、さらには慈善活動への献身など、彼の「社会的責任を持つプロアスリート」としての人物像を掘り下げた。日本を含むアジアのメディアは総じて、今回の挑戦をオノルド氏の「伝説の最新章」として位置づけ、過去の偉業という文脈の中で、台北101登攀に歴史的な重みを与えて報じた。
エンタメか、倫理的難題か Netflix生中継が投げかけた波紋 オノルド氏の挑戦はそれ自体で十分に衝撃的だが、Netflixによる全世界生中継という決定は、メディア倫理に関する激しい議論を巻き起こした。一人の人間がいつ墜落死してもおかしくない状況を放送することは、歴史の証人となることなのか、それとも危険を消費しているだけなのか。
『ガーディアン』によれば、Netflix側も対策は講じていた。画面には視聴上の注意喚起を表示し、実際の現場からは10秒間の遅延(ディレイ)を設けて配信することで、万が一の事態には「必要に応じて」映像を切断できる体制を整えていた。また、オノルド氏は常に撮影チームやプロデューサーと連絡を取り合っていたという。
しかし、高さ508メートルのビルを命綱なしで登る様子を配信することに対し、クライミング界の一部からは強い反発の声が上がった。『ウォール・ストリート・ジャーナル』のコラムニストを含む批判的な立場の人々は、フリーソロには多くの死亡事故が伴うこと、そしてオノルド氏が今や夫であり父であることを指摘。今回の生中継を「窃視症的(覗き見趣味的)であり、身の毛がよだつ無責任な行為」と断じた。昨年、アラスカの登山インフルエンサーがTikTokのライブ配信中に滑落死した事故も、人々の懸念を増幅させている。
「死もまた生の一部」 擁護派の論理 一方で、擁護する声もある。フランスの著名なビルクライマー、「スパイダーマン」ことアラン・ロベール氏はインタビューで、示唆に富む視点を提示した。彼は、戦争や暴動といった死のリスクに満ちた出来事も日常的に中継されていることを挙げ、「死は生の一部である」として、高リスク活動の中継を擁護した。
当のオノルド氏は、自身の挑戦が決して「無謀な賭け」ではないことを強調し続けている。彼にとって、すべてのクライミングは緻密な計算と極限までの準備の上に成り立つプロフェッショナルな行為であり、これこそが批判への直接的な回答となっている。
台北のスカイラインにおけるオノルド氏のパフォーマンスは91分間という短いものだった。しかし、その指先と足跡は、台湾という物語の中に、鮮烈で忘れがたい一ページを刻み込んだことは間違いない。
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