中東での戦火が拡大するなか、イランに対する米軍およびイスラエル軍の軍事行動は3週目に入った。世界的な原油価格が高騰し、米中関係や大西洋同盟の信頼が試されるなか、トランプ大統領は16日、3月末に北京で予定されていた習近平国家主席との首脳会談を延期することを明らかにした。
トランプ氏はホワイトハウスの大統領執務室で、「もちろん訪中したいが、戦争が起きているため、今はここに留まりたい」と直截に理由を述べた。3月31日から4月2日に予定されていた北京での「米中首脳会談」の急遽見送られたことで、イランでの戦況がトランプ氏の主張ほど順調ではないことを示唆している。特にホルムズ海峡封鎖による原油価格への深刻な打撃への対応を迫られている。英紙『フィナンシャル・タイムズ』によると、ホワイトハウスは中国に対し、訪問を「約1ヶ月延期」するよう要請したという。
「忠誠心のテスト」習氏への揺さぶりと盟友への非難
トランプ氏は15日の『フィナンシャル・タイムズ』のインタビューで、イランが実質的に封鎖しているホルムズ海峡において、中国が商船護衛のために軍艦を派遣しないのであれば、2017年以来となる訪中を中止する可能性があると警告していた。
世界の石油輸送の5分の1を握るこの海峡は、世界経済の急所となっている。しかし、中国はこの脅しを意に介していない様子だ。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、イランが海峡を封鎖しつつも、中国への石油販売を継続し、中国船の安全な通行を許可しているという厳しい現実を指摘している。自国の船に被害がない以上、中国が米国の護衛活動に協力する動機は極めて薄い。
一方、スコット・ベッセント財務長官は16日、CNBCの取材に対し、首脳会談の延期は軍艦派遣の要求とは無関係であり、純粋に「大統領がワシントンで戦争対応の指揮を執ることを優先したため」と説明し、火消しを図った。今回の延期決定は、ベセント氏とグリア通商代表がパリで中国の何立峰副首相と2日間にわたる協議を行った後に下されたという。
盟友たちの「拒絶」にトランプ氏の焦燥
トランプ氏の焦りは、中国の不協力だけでなく、同盟諸国からの「拒絶」にも向けられている。トランプ氏は連日、各国に護衛艦の派遣を呼びかけているが、賛同する声は極めて少ない。
トランプ氏は今回の要請を、同盟国に対する「忠誠心のテスト(Loyalty Test)」と位置づけている。トランプ氏によれば、要請の目的は米国の助けが必要だからではなく、「彼らがどのような反応を示すか見たかった」という。なお、トランプ氏は「多くの国が協力に向かっている」と主張しているが、現時点で具体的な国名は明かされていない。
盟友たちの「拒絶」、相次ぐ不参加の表明と外交的混迷
トランプ氏が提唱した「忠誠心のテスト」の結果は、同盟諸国からの冷淡な反応によって、米国の孤立を露呈する形となった。米紙『ニューヨーク・タイムズ』は、反イラン連合構築に向けた呼びかけに対し、各国が極めて否定的な態度を示していると報じている。
ドイツ・EU:「我々の戦争ではない」と一蹴
中でも、最も明確に拒否の姿勢を示したのはドイツだ。ピストリウス国防相は「これは我々の戦争ではない。我々が引き起こしたものではない」と断言し、軍艦派遣を求めるトランプ氏の要請を正面から拒絶した。
欧州連合(EU)のカラス外交安全保障政策上級代表も、海峡の通行保護に向けた海上作戦の拡大を否定。「欧州の戦争ではない」と強調した。英国とEUは海峡再開に向けた選択肢を協議しているものの、現時点で実質的な軍事的コミットメントには至っていない。
広がる拒絶の輪:日本、豪州も距離
欧州のみならず、アジア太平洋地域の同盟国も距離を置いている。日本、イタリア、オーストラリアの政府高官らは、海峡再開のための行動には参加しない意向を明言した。フランス、韓国、英国などは、態度を保留、あるいは慎重な姿勢を崩していない。
英国のスターマー首相は「より広範な戦争に巻き込まれることはない」と述べ、米国主導の軍事行動とは一線を画した。さらに、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国は共同声明を発表し、即時の緊張緩和を呼びかけるとともに、レバノンにおける人道状況の悪化や市民の大規模な避難生活に対し深い懸念を表明した。
外交的根回しの欠如が招いた「大失敗」
米紙『ニューヨーク・タイムズ』の分析によると、トランプ氏がSNS上で護衛活動への参加を呼びかけたことは、反イラン連合構築に向けた初めての具体的な意思表示であった。
しかし、この要請には事前の外交的な調整が決定的に欠けていた。特に、米国とイスラエルが対イラン軍事行動を決定する際、ホワイトハウスが同盟諸国と一切の協議を行わなかったことが、各国の反発と拒絶を招いた主因であると指摘されている。
原油高騰と米軍の苦戦
空爆開始から3週目に入った戦地では、情勢はワシントンの予想を上回る展開を見せている。
ガソリン価格急騰も、トランプ氏は「小さな代価」と主張
『フィナンシャル・タイムズ』は、中間選挙を控えるなか、ホルムズ海峡の封鎖が原油価格を直撃し、米国内のガソリン価格を急騰させていると指摘した。これに対しトランプ氏は、市場の混乱はテヘランの核武装を阻止するための「非常に小さな代価」であると主張。戦争の終結時期については、「すぐに終わる。長くはかからず、世界はより安全になるだろう」と強弁した。
中東全域への戦火拡大と人道的被害
米国とイスラエルの連合軍による軍事行動は、現在までに2,000人以上の死者を出しており、犠牲者は主にイランとレバノンに集中している。中東全域が戦火に巻き込まれるなか、イランは近隣諸国へのロケット弾やドローンの発射に加え、ペルシャ湾を航行する船舶への攻撃を強めている。
米軍の準備不足と不透明な海峡再開
米中央軍(U.S. Central Command)の発表によれば、開戦以来、米軍は7,000以上のイラン側の標的を攻撃し、100隻以上の船舶を損壊・破壊した。しかしニューヨーク・タイムズ紙は、イランの激しい報復や、巨大タンカーを攻撃から保護する必要性に対し、米国の準備不足が顕著であると指摘している。中東戦域を指揮するブラッド・クーパー米中央軍司令官も、ホルムズ海峡の再開に向けた具体的な詳細については、現時点で言及を避けている。
原油価格の指標である北海ブレント原油先物は、16日の取引で一時1バレル=106ドルまで急騰。その後、100ドル前後まで押し戻される展開となった。
拡大する中東戦火、テヘランの停電からレバノン地上戦へ 各地で衝突が激化
中東全域に広がる戦火は、沈静化の兆しが見えないまま多発的な衝突へと発展している。
テヘラン東部の配電センターが被弾
イランメディアおよびイラン赤新月社の報道によると、米以連合軍の空爆により、テヘラン東部の広範囲に電力を供給する配電センターが精密攻撃を受けた。この攻撃により、当該地域では数時間にわたる停電が発生した(現在は復旧済み)。
死傷者数について、イランの国連代表部が先週水曜に国連安保理へ報告した最新データでは、開戦以来、イラン国内で少なくとも1,348名の民間人が犠牲になったとされている。
レバノン南部で「地上機動」を開始
レバノン情勢はさらに深刻化している。イスラエルのカッツ国防相は、イスラエル軍がレバノン南部において「地上機動(地上作戦)」を開始したことを認め、軍が長期戦に向けた準備を整えていることを強調した。この発表により、イスラエルによるさらなる大規模な地上侵攻への懸念が強まっている。レバノン当局の統計によれば、これまでに886名が死亡し、100万人以上の市民が避難を余儀なくされている。
周辺諸国への波及と米以側の損害
戦火はイランやレバノンに留まらず、ペルシャ湾周辺の主要なアラブ諸国にも及んでいる。サウジアラビア軍は、過去24時間以内に100機近いドローンを迎撃したと発表。アラブ首長国連邦(UAE)も声明を出し、イランからの新たなミサイルおよびドローン攻撃の標的となったことを明らかにした。
一方、米国・イスラエル陣営の被害も報告されている。イスラエル当局によれば、少なくとも12名が死亡。また、米国防総省(ペンタゴン)は、開戦以来、計13名の米兵が殉職したことを確認した。