中国は、日本の高市早苗首相が「台湾有事」は日本の「存立危機事態」に当たり得ると述べ、現行の安全保障法制の下で日本が集団的自衛権を行使できる可能性に言及したことに対し、激しい反応を示している。台湾の安全保障当局は中国側の一連の動きを注視しており、習近平国家主席はしばしば外交カードを使って国内の経済問題から世論の目をそらしてきたと分析する。今回の対日対応が異様なまでに過敏なのも、こうした内政上のプレッシャーが背景にあるとみている。
台湾の安全保障当局はまた、中国経済の行き詰まりと対外衝突の発生タイミングとの相関にも注目している。分析によると、2013年に東シナ海防空識別圏の設定問題が起きた当時、中国のGDP成長率は7.8%で、そこから低成長局面に入り始めていた。2017年のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備をめぐる対立では、その前の2016年の成長率は6.7%と過去25年で最低水準に落ち込み、2017年には地方債務危機が表面化している。さらに、2018~2020年の孟晚舟事件の期間には、中国の成長率は2018年の6.7%から2020年には2.2%まで低下しており、経済減速の局面ごとに対外摩擦が強まる構図が浮かび上がると指摘している。
2020年の新型コロナウイルス起源調査をめぐる対立のさなか、中国の同年第1四半期GDP成長率は前年比マイナス6.8%となり、1992年以降で初めて四半期ベースでマイナス成長に落ち込んだ。2023年に日本の処理水放出への抗議が続いた時期には、不動産バブルの崩壊が表面化し、若年層失業率は21.3%まで跳ね上がった。さらに今回の2025年、高市早苗氏の発言をめぐる緊張局面では、中国はデフレに直面し、対内直接投資(FDI)の四半期純流入はわずか85億ドル、8月の若年層失業率も18.9%に達した。2025年のFDI流入額は第1四半期145億ドル、第2四半期174億ドル、第3四半期はほぼ半減して85億ドルにとどまり、3四半期累計でも404億ドルという水準にとどまっている。
景気不安が高まると、中国政府は外部に焦点を移す傾向
台湾の安全保障当局は、これら6つの事例が発生したタイミングを検証した結果、中国はいずれの局面でもほぼ例外なく景気減速や経済悪化に直面していたと分析している。国民の政府への信頼が経済要因で低下すると、中国当局は「対外に焦点を転換する」戦略を取り、外交摩擦を意図的に拡大し、「外国が中国を脅かしている」という構図を強調する傾向がある。外部の出来事を誇張または「敵」として描き出すことで国内の民族主義感情を刺激し、「全国一丸となって外に対抗する」雰囲気をつくり出し、国内の矛盾や不満をそらそうとしている、という見立てである。
また、安全保障当局は、中国が今回、高市早苗氏の「台湾有事」発言を大きく取り上げている背景にも、同様の構図があるとみている。現在の中国経済は総じて厳しい状況にあり、景気低迷が続くなか、2025年第3四半期のGDP成長率(前年比)は4.8%と今年の四半期別で最も低い水準にとどまっている。物価面ではデフレ圧力が強く、10月の生産者物価指数(PPI)はマイナス2.1%で、3年以上にわたりマイナス圏が続く。若年層の「寝そべり」現象を背景に、10月の若年失業率は17.3%に達し、企業活動の減速も鮮明で、10月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.0と今年の最低水準であり、7カ月連続で景気の分かれ目とされる50を下回っている。さらに対内直接投資(FDI)も減少傾向が続き、第3四半期のFDI純流入は85億ドルと、第2四半期から51%減少しており、外資の流出が鮮明になっている。
安全保障関係者によると、中国では経済が減速したり、国内の社会的圧力が高まったりすると、政治的焦点を外部へ移し、外交摩擦を生み出したり強硬姿勢を示したりすることで体制の引き締めを図る傾向があるという。今回も中国は日本に対し、軍事・経済・外交分野での圧力に加え、渡航を控えるよう促すなどさまざまな形で威圧を強めている。さらに、日本の人気歌手・浜崎あゆみさんの上海公演が突然中止となった事例もあり、中国当局が国内統制に相当の緊張を抱えていることを示すものだとみられている。
編集:小田菜々香 (関連記事: 中国の対日批判続く 台湾の安全保障関係者が「次の動き」を分析 | 関連記事をもっと読む )
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