高市早苗首相が国会で「台湾有事」に言及して以降、日中関係は急速に緊張を強めている。北京は相次いで渡航警告や日本産水産物の禁輸措置を打ち出し、外交的な緊張状態が続いている。台湾の外交部長(外相)である林佳龍氏は2日、米ブルームバーグ通信のインタビューに応じ、この一連の事態について初めて体系的に見解を示した。
林氏は、今回の日中間の外交対立が沈静化するまでに「年単位」の時間を要する可能性があると述べる一方で、「台湾有事」をめぐって両国が事態を沈静化させる余地を見いだすことに期待を表明した。さらに林氏は日本への支持を改めて公言し、情勢をこれ以上刺激しないことを前提に、柔軟な方法と民間交流を通じて日本を支え、この困難な時期を共に乗り越えたいとの考えを示した。
高市答弁が「台湾有事」をめぐる新たな波紋を呼ぶ
今回の日中の緊張は、11月7日の日本国会における攻防に端を発している。高市首相は衆議院予算委員会での答弁で、「台湾有事」は日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に該当する可能性があるとの認識を示した。
日本の安全保障政策において「存立危機事態」とは、日本の存続や国民の権利が重大な脅威にさらされる事態を指し、これが認定されれば集団的自衛権の行使が可能となる制度的枠組みである。この概念は、台湾有事と地域の安全保障を結びつける強い象徴性を持つ発言となった。
これに対し、中国側は高市首相の発言を「一線を越えたシグナル」と受け止めた。中国の立場からすれば、台湾有事を日本の安全問題の延長として位置づけるあらゆる言動は、「台湾問題の国際化」および「内政干渉」と解釈される。このため、中国政府は強く反発し、その後の一連の対抗措置の布石となった。
高市首相の発言は日本の法制度と安全保障政策の枠組みに基づくものであったが、台湾海峡情勢が緊迫する中、各国が相次いで台湾有事に言及する国際的状況と相まって、再び日本を国際政治の渦中に押し出す結果となった。
中国の強硬な反発、日中外交摩擦へと発展
高市首相の発言後、中国政府は日本側に対し、台湾関連の発言の撤回を求めると同時に、日本の姿勢を厳しく非難した。続いて中国は、日本向けの渡航警告の発出や、日本産水産物に対する規制の維持または強化など、重層的な対抗措置を講じた。
一方、中国側は強硬な姿勢を通じて、国内および国際社会に対し「台湾有事において他国が越えてはならない一線がある」とのメッセージを発信している。こうして日中両国は「台湾有事」をめぐって新たな対峙構造に入ったとみられ、かねて不安定さを抱える東アジア情勢は、さらに緊迫度を増している。
林佳龍氏、沈静化に1年要すると予測 「台湾有事を対立激化の道具にすべきではない」
台湾の外交部長(外相)である林佳龍氏は2日、米ブルームバーグ通信のインタビューに応じ、「台湾有事」に起因して拡大した日中間の外交的緊張について、沈静化するまでに約1年を要する可能性があるとの認識を示した。
林氏は、摩擦を意図的に高めたり、台湾問題を政治的な道具として利用したりすることは「大きな利益にならない」と指摘し、特に中国にとっては、対立の激化が長期的な国益と相反すると強調した。
また、台湾は今回の日中摩擦の中で極めて繊細な立場に置かれており、「台湾有事」はすでに地域安全保障上の焦点になっていると説明。各国の政策論議で繰り返し言及されているが、実際に最大のリスクを負うのは常に台湾であると述べた。
林氏は、衝突のエスカレーションは、いかなる国にとっても利益にならず、だからこそ東アジア情勢はより冷静に対処される必要があると指摘。感情や政治的なイメージによって情勢が悪化するのを避けるべきだと強調した。
インタビューの中で林氏は、現時点では関係の短期的な回復は困難であり、台湾関連問題が言葉の応酬として扱われれば扱われるほど、地域の安定は遠のくとの認識を繰り返し示した。その上で、中国は対立の激化を戦略として採用すべきではなく、台湾もまた、国際社会において慎重な姿勢を維持し、対立の最前線に押し出されることを避けなければならないと訴えた。
林氏は総括として、「台湾有事」が交渉カードとして扱われ続け、冷静な議論の対象とならなければ、地域の平和は消耗され続けると警告し、各国は対立を上積みするのではなく、沈静化に向けた手段を模索すべきだと呼びかけた。
観光と消費で日本を支援 「柔軟な対日支援策」
情勢認識に加え、林氏はインタビューの中で、台湾が今回の緊張の中でどのように日本を支援していくのかについても具体的に言及した。
林氏は2日、日本への支持を改めて公表したとしつつ、その方法については「より柔軟な形」を取ったと説明。「台湾有事」をめぐる緊張をさらに高める結果にならないよう配慮したとした上で、台湾の人々に対し、日本への旅行を継続し、日本製品の購入を増やすことを促していく方針を示した。
林氏は、実際の人の往来や消費活動を通じて、日本社会に安定のシグナルを届けることが重要だと強調。従来のように政府が直接的にメッセージを発する方法とは異なり、今回は「民間の行動による支え」を重視する姿勢を示した。
林氏は、「日本支援」を言葉だけにとどめるのではなく、国民が引き続き訪日し、消費を続けるという具体的な行動を通じて示すことで、政治的対立の緊張を生活実感と経済交流によって和らげたいとの考えを示した。
こうした姿勢は、林氏の「台湾有事」に対する基本スタンスとも一致している。すなわち、この4文字を軍事的シナリオや外交的対立の文脈だけに閉じ込めるのではなく、地域内における人や物の実際の往来を通じて、相互の信頼と依存関係を一定程度維持すべきだという立場である。
日台関係においては、このようなアプローチが、意志を示しつつも対立色を極力抑える選択肢となっている。
「台湾有事」は東アジアのキーワード 地域安定には「沈静化の仕組み」が不可欠
高市早苗首相の国会答弁、中国の強硬な対抗措置、そして林佳龍氏が国際メディアを通じて発した分析と呼びかけを通じて、「台湾有事」はもはや両岸問題の枠を超え、日中関係やインド太平洋全体の安全保障構造に影響を与えるキーワードとなっていることが浮き彫りになった。
日本が安全保障法制の中で「台湾有事」をどう位置づけるのか、中国が外交および経済的手段を通じてどのように反応するのか、そして台湾がパートナーとの連携、自国の安全確保、情勢の過熱回避の間でいかにバランスを取るのか。これらすべての課題が、この対立の中で表面化している。
今後1年間は、林氏の見立てどおり、日中関係が調整と緊張緩和を模索する局面にとどまる可能性があり、「台湾有事」という言葉は今後も繰り返し持ち出されるとみられる。台湾にとっては、国際社会の場で自らの立場を堅持しつつ、いずれの側からも「台湾関連問題を操作される」ことを避けることが、外交・安全保障上の最大の試練となる。
林氏は、各国が「台湾有事」を語る際に、イメージ戦略よりも沈静化の思考を優先することが、東アジアが高リスク環境の中でも一定の安定を保つための鍵であると強調している。